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掌小説

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ちいさなお話をてのひらに。
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紅葉

ぼんやりとしながら窓を開けると、 もみじは未だに熟れてはいなかった。 アパートの隣にある公園に立つ木々が、ベランダに伸し掛かって茂っている。ごおん、と、深海でうごめいた巨大な生物のような音を出す洗濯機に肘をついて、わたしは思う。 「この洗濯機、もう古いんじゃない?」 え?なんて言った?と、彼はこちらを向いて言った。玄関のそばにある小さなキッチンで、彼はお味噌汁を煮ている。 「もみじ、まだ赤くならない!」 わたしがそう言うと、もうすこしかなぁ、と彼はキッチンに向き直して