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【インタビュー記事】「街の相談室」を拠点に、私が取り組みたいソーシャルワーク

はじめまして。訪問いただきありがとうございます。

2023年5月、福岡市東区で相談支援事業所「街の相談室  ほろん」をオープンし、ソーシャルワーカーとして働いている稲岡由梨です。

この記事では、私が「障がい福祉の分野で仕事をしよう」と決意してから、相談室を開設するまでの経緯と思いを、インタビュー形式でお届けします。

※相談支援事業所:障がいのある方の生活の困りごとに対して福祉サービスを利用する際に相談できる窓口。

障がいのある方と過ごした時間が、自分自身の喜びに

—— 障がいのある方に関わろうと思ったのはなぜだったのでしょうか?

元々人が好きだったので、子どもの頃から人と関わる仕事がしたいなと思っていました。高校を卒業してからは福祉系の大学に進学し、ボランティアで老人ホームのお手伝いをしたり、母子家庭の方が利用する施設で子ども達と遊んだりしました。中でも印象的だったのが、障がいのある方の支援をするボランティアだったんです。

余暇支援として、事前に計画を立てて一緒に旅行に行ったり、サプライズで誕生日パーティをしたときは、すごく良い表情で喜んでくれました。私自身が何かを企画することや遊ぶことが大好きだったので、そんな風に喜んでもらえたことが嬉しくてやりがいを感じました。

一方で、「初めて温泉旅行に行った」「初めて誰かにお祝いをしてもらった」という言葉に、疑問を感じずにはいられませんでした。

なぜこんなにも生活が制限されてしまうの?
なぜ今まで私たちが当たり前のようにしてきた体験ができずにいたの?

障がいゆえに、経験不足や選択の機会のなさ、いろいろな情報を知らずに過ごしている状況を目の当たりにしました。そんな小さな違和感が、自分の中で芽生えたのもこの時期です。

人と人との交流が、お互いの豊かさにつながると実感

—— 大学卒業後はどのような仕事をしていましたか?

大学時代からボランティアで関わっていた地域密着型の小さな無認可作業所で働くことになりました。働くことや生活することにサポートが必要な方が、軽作業をしたり就労訓練などを受ける場所です。

そこに就職した理由は、直感です(笑)作業所の雰囲気や関わっている方の人柄に惹かれるものがあり、ここで働きたい!と思ったんです。作業所では、お菓子や雑貨の製造と販売をしていました。

—— 勤めていた作業所で印象的だったことはありますか?

仕事に慣れてきた頃、注文が少ない日は活動することがなく、みんなでゆっくりと作業をすることもありました。そんな日は、作業所の雰囲気もどんよりと重くなります。特別支援学校を卒業したばかりのダウン症の方が1日中ソファの上で過ごす姿を見て、「このままではいけない…!」と感じました。

その状況を上司に相談したところ、「営業に行ってみたら?」と一言。

「え!?福祉の仕事なのに、なんで営業するの?」と最初は疑問が浮かびましたが、「仕事を生み出し、社会とのつながりをつくることも福祉の仕事」と教えられました。不慣れながらも、それからは毎日夕方になると地元の企業や施設に飛び込み営業に行きました。

最初はなかなか注文が増えなかったものの、工夫を重ねていくと徐々に注文が入るようになりました。商品の魅力が伝わった喜びはもちろんありましたし、注文が入ることで、利用者さんが「やったー!」と喜んでくれるんです。「みんなで頑張ろう!」とすごい勢いで仕事を進めていきました。

以前は1日中ソファで過ごしていた方も、先頭を切ってお菓子作りに取り組む姿があり、「人って、必要とされることでこんなにも変われるんだ」と実感した出来事でした。

—— 地域の方とのつながりはどのように変化しましたか?

商品を購入してくれた方から、「本当に美味しいね!」「こっちも元気をもらってるよ」などと声をかけてもらえることもありました。何より嬉しかったのは、双方の交流が生まれたことです。

商品をお届けするときは必ず利用者さんと一緒に行っていたので、直接「ありがとうございます」と言ってもらえるんです。そうすると、相手に喜んでもらえた実感が持てて、さらにモチベーションが上がります。注文してくださった方に、作業所のことを知ってもらえる機会にもなりました。

「支援する人」と「支援される人」に分かれるのではなく、人と人が交わる中でお互いが豊かに生きられるような関係ができたような気がします。


一緒に歩きながら考える人として、相談室を立ち上げる

—— 独立して相談支援事業所を立ち上げようと思ったのはなぜだったのでしょうか?

新卒から勤めた作業所には9年間勤務しました。その後は、「もっと視野を広げて、困っている人と社会資源をつなぐような仕事がしたい」と思うようになり、基幹相談支援センターのコーディネーターとして9年間働きました。

※基幹相談支援センター:地域における相談支援の中核となって幅広く相談を受け、助言や情報提供を行う機関。

その間に、2人の子どもの妊娠、出産を経験しました。やりがいを感じていた一方で、子ども2人を育てながら往復2時間かけて通勤することに限界を感じることも増えていきました。

働き方を変えないと、自分が倒れてしまう…。そう思って、自宅近くで働くことを考え始めました。転職するのも1つの選択肢だと思いましたが、「せっかくなら、ソーシャルワーカーとして自分がつくりたい相談支援事業所をゼロから立ち上げたい」と思って、独立を決意しました。事業所の名前は「街の相談室 ほろん」です。

—— 「街の相談室 ほろん」という名前には、どのような思いを込めたのでしょうか?

“Holo”は、ハワイ語で“歩く”という意味です。利用者さんやそのご家族が抱えている悩みや困りごとに対して真摯に受け止め、一緒に考えながらできることを探ったり、必要な手立てを提案したりしていく。そして、時には成長や変化をともに喜べるような存在でいたい。「一緒に歩いていく」という伴走型支援への思いを込めました。

—— 安心感がありますね。なぜ一緒に歩いていくことを大切にしようと?

きっかけとなったのは、過去に知的障がいのある方とそのご家族に関わった経験です。重度の自閉症で行動障がいがあり、数年間外出できず自宅にひきこもり状態、ご本人・ご家族ともに社会から孤立した状態でした。当時の私は今ほど知識も経験もなく、ご家族の思いをどう受け止めて良いのかがわからなかったんです。

そんな状況の中、「なんとか解決しないといけない!」といろんな課題を自分一人で抱え込んでしまいました。そんな私の様子を見て、ご家族を不安な気持ちにさせてしまったのです。

あるとき、「解決しようとするのではなくて、まずはご家族が抱えている気持ちを聞くことに徹しよう」と決めました。それから徐々にご家族との信頼関係ができ、時間はかかりましたが、ご本人の生活も変化していきました。

当時のことを振り返ると、まずはご家族がどんな想いで今まで過ごしてきたかにしっかりと耳を傾け、安心して話せる関係をつくることが何より大切だったと感じます。

また、生活の中で複数の困りごとがある場合は行政の相談窓口が分かれてしまうため、必要な情報が得にくかったり、サービスを利用しづらかったりする現状があります。時には支援する機関同士が上手く連携できていないことも。その結果、困りごとが大きくなり、社会的孤立に陥ってしまう可能性もあります。

そうなる前に、私は「一方的に支援する人」ではなく、「一緒に歩きながら考える人」として出会った方と関わっていきたい。

—— 「街の相談室 ほろん」をどんな場所にしたいですか?

相談支援事業所という名目上、対象となるのは福祉サービスを必要としている方にはなるのですが、ゆくゆくは誰でもフラッと来て、話せるような居場所をつくっていきたいですね。

今はまだ小さな事務所なので、まずはどこかの場所を借りて「地域カフェ」を開催し、情報交換や勉強会をしたり、対話の場などもつくっていくことで、孤立防止や包括的な支援体制づくりをしていきたい。それが私が取り組みたい地域を基盤としたソーシャルワークです。人との出会いのきっかけをつくれることも、ソーシャルワークの価値なんですよね。

中には、必要な情報やつながりがあることで困っていたことが解消され、福祉サービスを利用せずに済むこともあります。「街の相談室 ほろん」を通して予防的な視点でも関われたらいいなと思っています。

「一人が困っていたら、もしかしたら他の人も同じことで困っているかもしれない」そんな視点で関わっていくことで、優しい街づくりができたら嬉しいです。

—— 稲岡さんご自身は、「街の相談室ほろん」の中でどんな存在でいたいですか?

その方が本来持っている力を今の環境の中で十分に発揮できているのかという「エンパワメント」の視点を忘れずに関わっていきたいです。その中で、その方の権利が守られているのかを、俯瞰(ふかん)した立場で見れる存在でいたいです。

相談支援専門員としての私の役割は、福祉サービスを使うための手続きをすることや、その後の生活全般を見据えた支援を考えていくこと、必要な人同士をつなげて支援チームをつくることなどがあります。それらは、もちろん大切なことです。

でも、本当に福祉サービスを使う方の生きやすさにつながるかどうかは、一人一人に潜んでいる活力や可能性を発揮できているか、自分らしい幸せな暮らしが送れているのかが大事ですよね。

必要な情報はきちんと届いているのか?
自分の意思を伝えることができているのか?
思いを尊重した意思決定がなされているのか?

私の役割は、それらの視点を持って一人ひとりと関わることだと思っています。

大学時代のボランティアで経験したことも、この考えにつながっています。障がいがあることによって、多くの人が当たり前のようにしてきた「旅行にいくこと」や「お祝いされること」などの楽しい体験をすることまでもが制限されている。権利を守ることはもちろん、それ以前に権利を奪わないことを、大切にしたいと思っています。

※相談支援専門員:障がい者の相談・支援を行い、障がい者やそのご家族と福祉サービスをつなぐ役割を担う

「街の相談室ほろん」事務所

困ったときに助けを求められ、必要な人に必要な支援を届けられる優しい社会へ

—— 今後、どのような社会になることを思い描いていますか。

福祉を暮らしの中にある当たり前のものにしたいと思っています。

相談することや福祉サービスを受けることに対して、抵抗がある方は多いのではないかなと思います。「障がいがあるから福祉サービスを受ける。障がいがないから福祉サービスを受けない」そう感じている方もおられるかもしれません。

私自身は、障がいや疾病の有無ではなく、その方にとっての「生きづらさ」になっているものは何か?どんな風に環境を整えたら生きやすくなるのか、という視点が大事だと思っています。福祉サービスを使うことは手段の一つにすぎません。困ったときは、誰もが使っていいものなんです。その人がその人らしくあるために、必要なときにいろんな資源を使いながら生きていくことができたら、それが一番だと思いませんか。

「街の相談室 ほろん」が気軽に相談できる場になることで、誰かに助けを求めることへのハードルを下げられるといいなと思っています。

そしてそれが、優しい社会へとつながっていくことを願っています。

——稲岡さん、ありがとうございました!


【このインタビューをしてくれた方】
インタビューライター 建石尚子さん



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