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第2の故郷(新宿本社)に帰る

先日久しぶりに、作家としての故郷とも言える新宿本社に行きました。
コロナ前はしょっちゅう行っていたというか、それこそ駆け出しの雑用係みたいなことばかりしていた時代は、ほぼ住んでたとも言える、新宿本社。

駆け出しが故のあまりにも破茶滅茶な生活で、夜帰ることができなくて、その辺で寝て。でもそこには、同じような駆け出し仲間がたくさんいて。同じ養成所を出た同じく駆け出しの売れない芸人が深夜稽古をしていたり。直接会話をしたことがなくても、そこにいたらそれは間違いなく仲間で、当然のように挨拶をする。帰れない同士で仲良くなったり。深夜の雑用が全く孤独ではなかった。そんな青春が詰まった場所。

おそらくコロナをきっかけに、そんな使い方をする人はいなくなり、というか許されなくなり…会議もリモートに。個人的に、外の仕事の割合が増えていったのもあり、めっきり行く機会がなくなっていた。



そんな中、先日、久しぶりに対面での打ち合わせが入り、新宿本社に足を踏み入れました。

打ち合わせ相手が遅れることになり、行く場所がない時間ができたので、食堂の外のテーブルに座って待つことに。(昔よく使っていたフリースペースももうない)

するとそこで、とある芸人の先輩が、横を通りかかりました。直接面識はなかったけど、お互い自然に挨拶をした……

そうだ。そういえば私たち、直接面識はなくても、同じルーツを持つ仲間なんだ。急にそんな考えが頭をよぎりました。

5月の天気のいい日で、中庭は気持ちよく。
あたりを見渡すと、昔は「本当ボロいんだよ(笑)」といじって話していた校舎が、ものすごくクールに見えました。

作家としての私は、ここから生まれたんだ。
(厳密にいうと通っていたのは神保町なのだけど笑)

養成所では、挨拶がものすごく厳しく教えられました。劇場や会社ですれ違う人は、知らない顔でも全員大きな声で挨拶をすること。挨拶の声が小さいとかで、いい大人たちが、ものすごく叱られていた。

卒業するとき、私たち作家に所属という道はなく、全員フリーランスになるのだけど、それでも私たちはずっと仲間なのだと、とあるお守りを授けてくれました。

卒業してからも、何期生です!と名乗れば、どこに行っても仲間として後輩として扱っえもらえた。身内としてたくさん育ててもらった。久しぶりに現場で会うと、この世界で再び会えたことを喜んで応援してくれた。

遠くを見ると、全身赤色という奇抜な人の姿が見える。おそらく、同期の芸人のあの人だ。元気に活動続けてるんだ。なんか写真撮ってる。楽しそう、いいな。

今度はまた別の芸人の先輩たちがやってきて、また自然と挨拶をした。中庭でネタ合わせするんだ。個性強めの3人組。

するとそこに、また別の後輩芸人がきて、芸人の先輩後輩同士、挨拶をしていた。あんまり仲は深そうじゃないけど、何やらいじりいじられ、笑いが生まれる…平和だ。

壁には一面、活躍する先輩たちのポスターが貼られている。すごいな、誇らしいな。



ここにいたら自分のやりたいような活動はできないと思って、外の仕事を求めて頑張った過去があるけど、あの時点でのその考えは間違っていなかったと今でも思うけど、外である程度の経験を積ませてもらったいまは感じる。この場所はまるで、ユートピア。優しく温かい、自由で個性的。確かに私はこの場所に育ててもらい、私の作家としての価値観のベースはここにあるのだと実感する。世界がまるごと弊社になればいいのに。(ものすごい反感を買いそうな発言をしていまいましたが、他意はないです。そして、久しぶりに来たから悪いこと全て忘れてる可能性も否めないとは思いつつ笑)

ただしこの場所は、誰でもいられるわけではありません。仕事を獲得しなければ。あの頃も必死で、そのために足掻いてた。今ここにいる人たちは、みんなそうやってここにいる。

「私をここで働かせてください!!!!」
千と千尋の神隠しを思い出す。

ここにい続けるために、明日からも頑張ろう。
自分の居場所を決めるのは、自分。

食堂外のテーブルに座って中庭を眺めながら、デビューしたての、駆け出しの頃の気持ちを思い出すのでした。


p.s.
打ち合わせが終わり帰ろうとした時、ロビーで見習い時代に劇場で一緒だった社員さんと再会しました。
当時その方は契約社員で、この先どうなるか分かっていなかった。社員とはいえ同じ駆け出し同士、先の見えないもの同士。
顔を見合わせて、「元気にしてたんですね!」と喜び合いました。泣きそうでした。

毎年年末のM-1を見ては、「この世でお笑いほど愛せるものはない」と思ってしまうのだけど、「この会社ほど愛せる会社はない」と同様に、そんなことを思うの今日この頃。
私もこの平和を作る一部でありたいと思うのです。

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