まだ

まだ……… 大丈夫。
まだ、あったかい。

君はここにいる。確かに、ここにいる。
隣にいて、呼吸が聞こえる。
いや、僕のかもしれない。
僕だって、心臓がいつもより活動的で迷惑だ。
こんなときに騒がしくて堪らない。
君は浅い息をしている。
僕はつとめて深く息をする。
ふたりして手が冷えていて、
でも重なっていれば温度を感じた。
ここに君が生きている証明みたいで
数少ない証拠で
離してはいけないと脳が警鐘をならす。
もしも今一瞬でも目を離してしまえば、
君が消えてしまいそうで
存在がなかったことになっていそうで
世界が見なかったことにしそうで
途轍もなく怖い。

僕は君にこれから何を言うだろう。
1mmでも間違えたらヒビが入って、
すぐに壊れてしまいそう。
僕の一言が君を壊すかもしれない。
怖い。

できることなら、
何も言わないでずっとこのまま
ふたりでいたいね。

でもね、
僕は君にそんなことだけ願いたいわけじゃない。
はず。

そっと君の顔を覗き見る。
ああ、嫌だ。
絡まりすぎてわからない。
どこから手をつけようか。

迷惑かな。
僕なんかじゃ。
足りてない。
役不足。
役立たず。
わかってない。
どうせわかんないよ。
何も知らないくせに。
俺なんかいらないんでしょ。
便利だから必要なんだろ。
なんのために必要なわけ。
早く楽にしてよ。
もう嫌だ。
誰も悲しまないでしょ
いらないでしょ。

もう聞いたよ。
僕だってわかってるよ。
そんなこと。
痛み全部なんかわかってやれるわけないだろ。
じゃあ君は、
じゃあ君は、
僕がいま君の言葉にどれくらい傷ついてるか知らないでしょ。
まあこんなの君の傷より浅いから大したことないでしょうけど。

ごめん、なんでもない。
こんなこと言えないけどさ。
正直思っちゃうよ。
ごめんね。
僕、人間初心者だからさ。
下手くそだよね。
気きかないし。
使えねー。
最悪。
ここにいるのが僕じゃなかったら
君は笑って、明るい未来に進めるのかな。
ごめんね僕で。

僕もそろそろ君よりは軽いけど
つらいよ。

君に比べたら僕の傷なんて浅いし
君に比べたら僕なんか幸せで
君に比べたらまだまだましなんでしょうね。
ごめんね、こんな人間が辛いとか抜かして。

笑っちゃうよね。はは。

わかるよ、なんて簡単に言えないよ。
わかんないよ。

でもまだ君は僕の隣にいる。
生きてる?