競艇における裁定取引(アービトラージ)について

 私は競艇に行ったことがなかったが、本日、はじめて多摩川競艇の本場(ほんじょう)を訪れた際、以下の不可解な事象を経験したため、現象が発生した原因を考察した。

1. 発生した事象
 4月21日、多摩川競艇「第59回東京スポーツ賞」第11レースにおいて、私は1号艇=2号艇の2連複に100円賭け、結果は1着が1号艇、2着が2号艇で的中であった。払い戻し金額は170円であった。他方、2号艇の複勝は払い戻し金額が210円であった。2号艇の複勝は、1=2の2連複の完全代替財(この場合は上位互換とも言える)にも関わらず、より高い払い戻し金額となっており、一物一価(同じ財は同じ価格である)の経済原則が成立していない。
 通常の市場であれば、①2号艇複勝の販売単価上昇、もしくは、1=2号艇2連複の販売単価下落、②2号艇複勝のオッズの下落、もしくは、1=2号艇2連複のオッズの上昇のどちらかにより均衡が保たれる。

2. 原因の考察
2-1. 根本的な原因(裁定取引の不在)
 本現象は、市場における非効率性が生じた一例であるが、市場の非効率性そのものは頻繁に生じうるものであり、特段珍しくはない。競艇においては、①オッズが不明な状態で事前にインターネット等で舟券を購入するユーザー、②単勝、複勝は選手名が舟券に印刷されるため、ファン心理から期待リターンを無視して、オッズ1.0倍の明らかにマイナスリーンの舟券を購入するユーザー等の存在により、非効率性が生じると考えられる。しかし、一般的に市場で発生した非効率性は、裁定取引(アービトラージ、価格を均衡の取れた水準に保つ市場の働き)により直ちに消失するが、ボードレース市場(造語だが以下では舟券の販売市場のこととする)では非効率性が放置される。この非効率性への無対処が事象の根本原因だと考えられるため、下記で分析する。

2-2. 独占市場
 ボードレース市場は、行政による独占市場であり、舟券の転売は禁止されている。もし、舟券の転売が可能であれば、裁定取引がなされると考えられる。例えば、今回の例では、オッズが概ね確定した時点で、1=2の2連複を既に購入したユーザーに、20円を支払えば2号艇複勝の舟券と交換することを持ちかける。賭けの内容は完全代替であるが、2号艇複勝の舟券は100円につき40円オッズが高いため、そのプレミアムに20円を支払うことは考えられる。他方、売り方としては、賭けている事象の範囲が狭まり、的中時のリターンも減少するが、賭けが外れた場合の損失を限定することができる。
 このような転売行為は禁止されており、ボードレース市場が非効率性を抱える原因の一つである。

2-3. 大口購入者の不在
 前項では事実上の販売価格を均衡させる裁定について述べたが、オッズを上下させることによっても均衡を保つことができる。通常の市場では、直近の未来に130円の価値になる財は、129円まで購入する利ざやが存在するため、129円以下のいかなる価格であっても、需給の関係から129円になるまで価格が均衡せず、すみやかに129円になる。
 オッズも需給関係により決定されることから、同様の現象が発生する(オッズが適正な水準に下がるまで買いが入る)と推定されるが、実際のボードレース市場ではこのような現象は限定的であり、今回の例のように非効率性は消失していない。そもそも競艇という公営ギャンブルは、寺銭の支払いによりマイナスサムゲームであるため、期待リターンがマイナスである。舟券同士の相対的な期待リターンには非効率性があったとしても、マイナスリターンのために、舟券の販売締切直前になってプレミアム(非効率性による期待リターンの差分)が消失するまで大口の購入者が買いを入れるアドバンテージがない。
 従い、価格・オッズの両面において、ボードレース市場では非効率性が放置されるのである。

3. 学び
 本考察が正しいとすると、特に2-3のようなメカニズムで非効率性が残ることには、ある種の付け入る隙があるようにも思う。すなわち、市場全体の期待リターンがマイナスであることにより、非効率性が放置されるのであれば、そのプレミアムの大きさが、場合によっては(もちろん実際には計測不能だが)期待リターンがプラスになるほど高まっているケースもあるかも知れない。また、不景気情勢下において、株価が非合理なほど下落するのも、マイナスリターンとみなされた市場では、非効率性が無視されるからなのかも知れない。

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