見出し画像

VR が何なのかを知らないので Oculus Quest 2 を買った

VR(バーチャル・リアリティ)をご存知だろうか。僕はよく知らない。というわけで VR をよくを知るために Oculus Quest 2 を買った。(我ながら完璧な導入)

はじめに

VR といえば令和現代の社会で「先端技術を使ってます」感を手っ取り早く出せる三大アイテムである。あと2つはドローンと仮想通貨だ。このあたりの用語をタイミングよく並べれば企業や官僚にウケるプレゼン資料が作れる。

だがドローンや仮想通貨(より一般的にはブロックチェーン技術)は本でおおむね理解できるのに対し、VR はその使用感こそが本質であるため、どうしても実体験が必要になるなと購入に踏み切った。

現在日本で購入できる VR の機械はいくつかあるが、Oculus Quest 2 はゲーム機やパソコンと連携せずに単独で使えるのが特徴である。そのぶんスペックは控えめだが、面倒が少なそうだと思ってこれにした。Facebook アカウントの連携が必要というのが難点だが。(近い将来に不要になるらしい)


実物を見てみよう

ちゃんと説明を読まずに買ったのだが、この Oculus Quest 2 は頭にかぶるやつ1つと、手に持つやつ2つで構成されている。デスタムーア最終形態のスタイルだ。夢の世界を舞台にしたドラクエ6はスーファミ時代にあって VR 時代を予言していたのかもしれない。

まず頭にかぶるほう。これが VR であると思っていた人もいるだろうが、これは HMD(ヘッドマウントディスプレイ)というらしい。あまり耳になじまない言葉なので、本記事では以下「頭にかぶるディスプレイ」と呼ぶ。

「VR」というのはまるで現実かのような体験をさせる技術の総称であり、特定の道具を VR と呼ぶわけではない。「インターネット」が特定の機械の名でないのに似ている。

画像3

中は双眼鏡のような突起があり、放射状のギザギザが入ったレンズがある。このフレネルレンズと両眼立体視によって、中にある数センチの液晶ディスプレイを数メートル先の大画面に見せているようだ。実に結構な技術だが、そのせいでふだん眼鏡を使っている人はVRでも眼鏡が必要になる。これについては後で詳述する。

いざ装着してみると、鼻の下にちょっと隙間ができて、現実世界の床がちょっと見える。これを埋めるためのアクセサリもあるが、足元が見えないのは怖いのでこのままにする。目と目の幅にも個人差があるが、こちらは3段階で設定できる。

初期設定

ディスプレイを被って電源を入れると、前方1メートルくらいの距離にウィンドウが現れて、まず言語を選択してくれと言われる。両手に握ったコントローラーからレーザーポインターみたいな線が出てくる。「日本語」にレーザーを向けてボタンを押す。

続いて Wi-Fi に接続する。パスワードを求められるが、これも目の前に幅2メートルくらいある巨大なキーボードが現れて、これをレーザーでぽちぽち選択していく。

このレーザーで選択するシステムは思った以上に使いやすい。マウスの場合は「机上のマウスの動き」と「画面内のポインタの動き」が別なので、その差を目で確認する必要があるが、VR のコントローラーは単に自分の手の位置なので把握が容易だ。(タッチパネルの感覚に近い)

そのあと自分のスマートフォンと Bluetooth でペアリングする。「なんだなんだ、スタンドアロンって聞いたのにスマホがいるのか」と思ったが、初期設定(Facebook アカウントの設定、クレカ番号の入力など)をするだけで後は Oculus 単体で使える。

実名主義の Facebook アカウントを連携させられるのは VR 体験を実体験から遮断したい人からすればだいぶ迷惑な話だが、プライバシー設定を「自分のみ」にしておけば、友達の側に自分の情報が表示されるのは回避できると思う。(ただ Facebook 側に情報を握られているという不安は常にある)

その後「Oculus ユーザーネーム」の入力を求められた。これがかなり困った。Facebook つまり実名と紐付いているアカウントでペンネームを入れるとリスクが高い。かといって実名に類するものを入れると、作家としての活動に Oculus を使うことになった時に困る。しかもユーザーネームは半年に一度しか変更できないらしい。このあたりが実名文化圏の押し付けという感じがする。

結局、実名でもペンネームでもない実名風偽名を入れた。なお、このあと VRChat をインストールしてみたら、ログインアカウントとして「VRChat のアカウント」と「Oculus のアカウント」を選べて、後者を選択するとこの実名風偽名が出てきた。そういうところに使うらしい。

このあとプレイエリアの設定などを行う。あらかじめ部屋の中の動き回っていい範囲を指定し、その外に出そうになるとVR内に「壁」が出現する仕様になっている。これで腕をブン回しても現実の壁にぶつかる心配がないという寸法である。

実際に使ってみるまで知らなかったのだが、頭にかぶるディスプレイは前方にいくつものカメラが設置されていて、これで現実世界における位置を把握しているらしい。これのおかげで激しく動き回っても自己位置の認識がズレることはない。


最初にやること

まだ右も左もわからないので、デフォルトで入っている「はじめての Quest」というのをやる。ここではコントローラーの使い方を覚えられる。人差し指と中指のボタンがあり、押し込むと「つかむ」という状態になる。これで仮想世界で卓球をやったりできる。

ラケットやボールをつかむのは簡単だが、離すのが難しい。全部の指を開くとコントローラーごと手放してしまうので、人差し指と中指だけを開かなければならない。慣れればできるかもしれないが、これに慣れてしまうと今度は現実で苦労しそうな気がする。

あとはディズニー的な造形のロボットと踊ったりできる。Quest 2 は 6自由度(DoF : Degree of Freedom) のトラッキングに対応しているので、視野の回転だけでなく、体全体の移動にもちゃんと追従する。これはちょっと文章で説明しづらいので図を作ろうと思ったらいらすとやにあった。なんであるんだ。

画像2

足にはコントローラーがないので、頭の動きから物理エンジン的なもので足の動きを推測しているらしい。なので人として不自然な動きをするとソフトウェア側が推測を間違える。

映画『レディ・プレイヤー1』では歩行を認識できるトレッドミルみたいな機械が貧乏そうな主人公の家に置かれていたが、あのサイズのものを一般家庭に普及させるのは難しそうである。Wii Fit のバランスボードくらいで足の入力ができればよさそうだが。


VR世界への没入感

このあとひとまず YouTube VR とかを起動して映像(ジェットコースターに乗る動画とか)を見てみたりしたが、立体感イコール臨場感ではないな、というのが率直な感想である。壁越しにバーチャル世界を覗いているようで「バーチャル世界に入る」という感じはあまりしない。

その原因はわりと明確で、静止時の視界が狭いのである。顔の半分を覆うディスプレイだが、映像がうつる範囲はそこまで広くなく、周辺視野は暗闇で覆われている。

僕はふだん眼鏡をしている、つまりレンズ越しの狭い視界で現実を見ているので、VRでも似たようなものだろうと思っていたのだが、これはどうも周辺視野の存在が没入感に影響している気がする。眼鏡はピントの合う視野はかなり狭いが、外側の視野からも大量の情報が得ているのだ。

画像1

なので眼鏡使用者も頭上からボールが飛んできたり、足元を野良猫が通り過ぎたりすると「何かが動いたな」という程度のことはわかる。VRだとそれがないのである。これのせいでバーチャル世界と壁が一枚はさまっている印象が出るし、射撃ゲームなどで実際的な不便がある。

一方で、コントローラーの方は思った以上に仮想世界への没入感に貢献しているように思う。我々は目を閉じても「自分の手は今ここにあるな」とわかるが、VR空間でもちょうどその位置に手があるので、「あ、仮想空間に自分の手が入ってるぞ」と認識できるのだ。これは Nintendo Switch のジョイコンにはなかった感触だ。

あとはよく聞く「VR酔い」だが、これは僕は不思議なくらい起きなかった。VRChat を起動して室内を歩いたりジャンプしたら少しグエッとなったが3分で慣れた。なのであまり書くことがない。


とりあえず Beat Saber をやろう

YouTube VR では先鋭的なアーティストがミュージックビデオをUPしていたりもするが、狭い視界で360度のどこを見ればいいのかキョロキョロ探すのは疲れるし、適切に編集された2D動画の方がどうしても面白い。映像コンテンツに関してはまだだいぶノウハウの蓄積が必要そうに思える。

では現状で Oculus Quest 2 が何なのかと言われると、たぶんゲーム機である。VR 技術を活かしたゲームはかなり発展しているように感じる。

最初にやるべきゲームは Beat Saber である(断定)。両手にスターウォーズのライトセーバーみたいなのを握って、前方から飛んでくるブロックを音楽に合わせて切る、というものだ。

コントローラーを振るだけでボタンを使わないので初心者でも操作方法がすぐにわかるし、前後方向に移動するブロックを切るという点で「VR ならでは」の要素もある。視界もあまり動かさないので VR 酔いなどの心配も少ない。

VR の弱点のひとつにモノの重量感を表現しづらいという点があるが、このゲームは剣を重量のなさそうなライトセーバーにして、フィードバックをバイブレーションで行うことで、その問題をうまいことカバーしている。

いくつものモードがあるが、最初は「キャンペーン」を選ぶといい。1番から順にミッションをクリアして少しずつ難易度が上がっていけるモードだ。途中から「腕を合計何百メートル動かせ」といった指示が出てきてものすごく汗だくになる。ワクチンより Beat Saber のほうが発熱するし腕も痛くなるのでおそらく免疫もつく。(これは冗談)

Oculus のゲームは大体2〜3000円するので「高いなあ」と感じたが、これもゲーム機だと考えれば納得の価格である。スマートフォンやタブレットに類するものだと考えるとちょっと受け入れづらい。


眼鏡との相性

さて、先ほど述べたように、普段眼鏡を使っている人は Oculus でも眼鏡が必要である。

てっきり両眼視差だけで距離感を出していると思っていたので「物理的には数センチ先を見るんだから、近視用眼鏡は外したほうがいいのでは?」と思っていたが、フレネルレンズを使って光学的な距離を作っているせいで、数メートル先にピントを合わせられるように眼鏡が必要になってしまうのだ。

眼鏡レンズと本体レンズが干渉しないスペーサーは付属しているのだが、それでも眼鏡のテンプル(横の棒)と本体がぶつかるので、運動していると結構ズレるし、レンズと目が当たって汚れるのであまり快適とはいえない。

Oculus にはめこむ度入りのレンズが(純正品もそうでないのも)あるが、値段が結構高い。僕は左右で度が違うのでそのへんの面倒もある。それにフレネルレンズで作った距離を眼鏡で打ち消すというのは、どうにも技術的に腑に落ちないところがある。

現在の Oculus も両目の幅は段階式で調整できるが、視力に関しても似たような調整ができるようになってほしいところである。電圧で度数を変更できるレンズとかあるらしいけど使えないかな。


これはどういう未来につながるのか

ということでひとしきり Oculus で遊んでみたが、今のところ「ちょっと変わったゲーム機」という印象で、この技術が世界に変革をもたらすのかと言われると「まあ、そう言ってる有識者も多いし、そうかもしれませんね」と愛想笑いをしそうな気がする。(ドローンや仮想通貨もだが)

これは「VR って言うほどすごくないのでは?」という話ではない。「VR = 現実のような体験をさせる技術」が革命的であるという点については僕はあまり疑っていない。ただ、その革命ってもう起きてるのでは? と思っている。

たとえば iPad で書類を読むとき、指でページをめくったりペンで書き込んだりと、まるでそこに紙があるかのように扱うことができるし、遠隔地にいる人たちが一室に集まったかのように会話するのも、 Zoom でけっこう実現してしまっている。これらの技術のほうが「VR のある生活」として語られる未来を体現しているように思う。なにより iPad も Zoom も実際に普及している(重要)。

もちろん Zoom 飲み会は実際の飲み会の良さを完全再現しているとは言い難いし、「紙の本ならではの良さが……」とか「やはり実際に会わないと……」という声もあるが、これは頭にかぶるディスプレイで解決するタイプの問題ではない。

もともとテレビが誕生して以来、視覚と聴覚のバーチャル化はすごい勢いで進められていたので、頭にかぶるディスプレイで起こせる変革の幅はそんなに残ってなくて、その幅に「ちょっと変わったゲーム機」がいい感じに収まっている、というのが自分の Oculus 観である。

むしろ将来性を予感させるのはコントローラーのほうで、現時点では自分の手の動きがVR世界に一方的に送られるだけでVR世界からのフィードバックがない(振動だけ)が、現在研究されているVRグローブなどによって触覚のバーチャル化が行われるようになれば、その先には巨大な変革の余地があるはずである。そういう未来を Beat Saber のブロックを切りながら待とうと思う。



ところで最近 Facebook が社名を Meta に変更し「メタバース」という言葉が取り沙汰されるようになったが、VR とメタバースの違いについてはこちらの記事がよくわかると思う。要約すると「日本で VR と認識されているものはメタバースに近い」という話である。


文章で生計を立てる身ですのでサポートをいただけるとたいへん嬉しいです。メッセージが思いつかない方は好きな食べ物を書いてください。