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「ディスロリ(無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない)」解題  ~シンギュラリティ時代に無職になるかもしれない多くの人々と、『仕事』の持つ本質的意味について~

 こんにちは。SF作家 山口優です。今回は、日本SF作家クラブのpixiv Fanboxで連載させていただいている私の小説「ディスロリ」(著:山口優、イラスト:じゅりあさん @Juliconyan)についての記事です。 

https://sfwj.fanbox.cc/tags/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%AA

 この小説は「シンギュラリティと仕事」を主なテーマにしています。

「シンギュラリティ(技術的特異点)」[1]が人口に膾炙してから10年ほどになるでしょうか[2]。この言葉が含意する多くのシナリオの中で、特に人々の興味を引いてきたのが「AIが人に取って代わる」というシナリオであったと思います。
 実際、シンギュラリティにはまだまだ及ばないものの、AIの能力は着実に進歩しており、それに伴い多くの仕事がAIによって代替されていくことは事実でしょう[3][4][5]。
 具体的にどの仕事が早期に取って代わられるか、比較的長い間取って代わられないか、はさておき、現行のAIの発展を将来に外挿すれば、かなり多くの仕事(あるいは、ほぼ全ての仕事)がAIに代替されることは時間の問題かも知れません。
 しかし、それが現実になったとしても、AIは、その技術的な限界ではなく、人間の側の要請によってある部分では機能を抑制される――と私は見ています。その際、人間の「仕事」とは本質的なものではなくなるかもしれませんが、それでも。
 その人間の要請とはなんでしょうか? 人間は楽をしたいのだから、AIが技術的に人間の仕事を全て置き換えることができるなら、全て任せてしまえば良いではないか、と考えるのが自然かも知れません。全てをAIに任せ、人はベーシックインカム(BI)を得て暮らせば良いと[6]。
 ただ、実際にBIの実験をした結果、人は就業意欲をなくすことなく、寧ろBIによって生まれた余裕を用いてより良い仕事を得ようとしました[7]。
 この傾向は一時的なものなのでしょうか? BIの額が足りず、かつ時限的なものだから、将来への備えを確保するためにより良い仕事を得ようとしたに過ぎないと。
 その答えを得るにはより高額の、永続的なBIの実験をするしかないでしょう。しかし、私はそれでも人は仕事を求めると考えています。
なぜなら、人は楽をしたいというのは事実でありながら、一方で、人間は高度に社会的な動物であるためです。実際、人がここまで文明を発達させてきたのは、その知力というよりは、人同士で協働するための「共同主観」を発達させてきたからだという指摘もあります[8]。
 とすれば、「人とつながりたい」という思いが、人をして「仕事」へと駆り立てることも、充分有り得るシナリオでしょう。無論、その「仕事」は、本質的ではなく、ただの遊びでありながら、つながりを担保するためにある程度真面目さを帯びるものとなるでしょう。(実際、人間とのコミュニケーションはかなり面倒なものなので、人とつながることそのものが仕事と定義されることもあり得ない話ではありません)。
 さて、ここで、「人とのつながり」というのが多少の問題を帯びます。遊びであれなんであれ、つながりがあれば交換があります。交換、とは、貨幣の交換かもしれないし、評判の交換かもしれません。そして、交換可能であるものは、格差を生みます[9]。フローよりもストックにより強くその傾向が出るとの指摘もあります[10]。それが、「仕事」のもう一つの側面です。そして、人が今仕事と呼んでいるもの、そして将来に亘っても、もしかすると「仕事」と呼ばれることになるもの、或いは、人間が人間である故に求めてしまう「社会」というものの本質のもう一つの側面です。
 だから、人は「仕事」を求め、またそれを忌避するのでしょう。
人類社会は進歩し続けています。もう少し正確に言えば、AI等による技術進歩によって、一人当たりの生産性は向上し続けています。そして、生産性の増大幅に人間の需要がやがて追いつかなくなるとき、人は本質ではない「仕事」をするかどうかを決めねばならなくなるでしょう。
 そのとき、我々はなぜ「仕事」を求めるのか、という本質を人間は問われることになるのかもしれません。
 この小説で書きたいのはそんなテーマです。



[1] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E7%89%B9%E7%95%B0%E7%82%B9 (シンギュラリティのwikipedia記事)

[2] https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3 (「シンギュラリティ」のgoogle trend)

[3]https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf 

[4]https://amz.run/4WRo (井上智洋著「人工知能と経済の未来」)

[5]https://amz.run/4WRp (エリック・ブリニョルフソン, アンドリュー・マカフィー他、「機械との競争」) 

[6]https://wired.jp/2019/06/03/erik-rynjolfsson-robots-steal-boring-parts-of-your-job/ (ブリニョルフソン氏のインタビュー)
[7] https://ledge.ai/california-stockton/ (ベーシックインカムの実験結果)

[8]https://amz.run/4WRq (ユヴァル・ノア・ハラリ著「ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来 (日本語) 単行本」)

[9]https://amz.run/4WRr (矢野和男 著「データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」)

[10]https://twitter.com/Yu_Yamaguchi_/status/514437723835215872 (矢野氏とのやりとり)


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