マガジンのカバー画像

たいち君の場合

8
高校時代からの友人「たいち君」について、今まで書き溜めていたものを推敲・アレンジしたものです(R18な部分もあります)。僕は彼に翻弄されながら、恋愛感情を持ちました。その感情は未…
運営しているクリエイター

#思い出

たいち君の場合(7)

あれ以来、お互いに連絡を取り合うことは無くなった。いまだに彼があのマンションに住んでいるのかすら判らない状態であった。僕は大学院で転科したのでキャンパスが変わった(二年ぶりに戻った)。 引っ越すことになった。たいち君が紹介してくれた、あの場所から。変に緊張した彼が来て、変なケツ論を出した「あの部屋」から——。三月の初旬、下宿先が決まった。そのことを彼に連絡しようと思った。連絡を取るのは本当に久しぶりであったので、メールを送る瞬間は「返信が無かったらどうしよう」なんて緊張した

たいち君の場合(6)

お互い近くに住んでいるにも関わらず、僕たちのリエゾンはますます細くなっていった。彼が就職活動で苦しんでいる頃、ある日僕は、所用でいつもの駅に行った。上り電車のプラットホームで、たしか階段近くで電車を待っていた。そのとき僕は、ブラームスが作曲したヴァイオリン・ソナタの1番「雨の歌」を聴いていた。もともと僕でも知っていた曲だけれども、たいち君は、チェロとピアノ用に編曲された「雨の歌」があることを教えてくれた。僕はその時、そのチェロ版を聴いていた。 これは最晩年のブラームスが、思

たいち君の場合(3)

あの夜の出来事の後、たいち君に急に彼女ができた。僕が知っている相手で、かつて同じサークルにいて、確か僕と同じタイミングか、少し遅れて辞めた女の子(仮名・みどりちゃん)だった。彼女も違う大学から、僕のいたサークルに入っていた。彼がどのような理由で彼女を選んだのか(同様に、彼もどのようにして、彼女から選ばれたのか)は判らないのだけれども、少なくとも「見た目」の点だけで言えば、彼女には大変失礼なのだけれども、とてもアンバランスだった。成宮君似(少し崩した感じ)と小柄・寸胴・エラが張