【物語】石とイチゴと宇宙人
ぼくがベッドでスマホを見ていると、ウチに宇宙人が来た。ぼくは宇宙語が話せないから、彼が日本語にチューニングしてくれた。話を聞くと、地球を知りたいという。地球らしいところって、どこだろう? ぼくは、腕を組んで考えた。
「ここも地球には変わりないでしょ」
「まぁ、そうだけど」
地球にしか住んだことがないから、地球らしさがわからないな。他の星の人だと、ぼくが住んでいるここにも、地球らしさを感じるのかもしれない。そう思って、とりあえず近所を散歩することにした。
彼とぼくは、近くの河原を歩いた。ぼくがよく散歩する場所だからだ。春先の川の流れは穏やかで、両岸には菜の花が揺れている。小さな堰では、白鷺がじっと川を見ている。若鮎を狙っているのだろう。急に彼がしゃがみこんだ。
「これはすごい! 見て、カズマだ!」
「カズマ?」
彼が見せてくれたのは、宇宙語で『カズマ』とよばれる石らしい。キラキラしているわけでもなく、重厚感があるわけでもない。ただの石。
「こんなにたくさん見たのははじめてだ。あっちには、ミサキもある!」
彼は、目を輝かせて足元の石をひとつひとつ手にとっては、ながめていた。ぼくには、ぜんぶ『河原の石』。彼の星では、ダイアモンドのような価値があるのだろうか。
「きみの星では、ここにある石にもそれぞれ名前がついてるの?」
「もちろんだよ! ボクの星では、石は特別なんだ」
彼はぼくに、ひとつだけもらってもいいかと尋ね、ぼくは河原の石だからいいかなと思い、「うん」とうなずいた。
ぼくらは、小さな青果店の前を通って、ウチにむかった。
「たくさん有機物が並んでいるね」
野菜や果物を『有機物』とは言わないなぁと思いながら、店先に並んだ商品をながめた。つやつやとした真っ赤なイチゴが、たくさん並んでいる。
「イチゴ、美味しそうだね」
「イチゴ? 有機物のちがいは、ボクにはわからないなぁ」
石にはちがう名前がついているのに、野菜や果物は区別しないんだ。
「きみの星では、イチゴは食べないの?」
「ボクらは、有機物を食べないよ。観賞用はあるけどね」
食べないなら、区別する必要もないのかな。言葉で区別するのはなぜだろう。彼のとなりを歩きながら、ぼんやりと考えた。
「ありがとう! 今度は友達をつれてくるから、また河原につれていってね」
彼は、そう言って自分の星に帰っていった。河原が気に入ってくれたのはよかったけど、はたして地球らしさが伝わったのだろうか。ぼくはベッドにころがって、彼との散歩を思いかえした。彼は、石は区別するけど、青果は区別しない。ぼくは、青果は区別するけど、石は区別しない。きっと、区別する必要があるがどうか。兄も弟もブラザーであるように、蛾も蝶もパピヨンであるように、物事の区切り方がちがうんだ。そのちがいは、それぞれの文化の個性。間違いなんてない。ただ、ちがうだけ。それをどう捉えるかは、受けとる人によるんだろうな。
地球もやっと他の星との交流がはじまったんだ。地球の良さも、他の星の良さも認められる、そんな地球人で、ぼくはいたいな。
ちがいはきっと、それぞれの星で大切にしたいという想いだから。
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