見出し画像

母、私のことが分からなくなる

5月の連休中に久しぶりに実家へ行くと、母は私のことが分からなくなっていました。

***

父からWi-fiの調子が悪いので見てほしいと連絡があり、主人と一緒に訪ねた日のこと。

玄関を開けた母は私たちを不思議そうに眺め、「どちら様ですか?」と尋ねてきたのです。

主人が自分の名前を告げても義理の息子だとは分からなくて、よそいきの笑顔で私たちを見つめる母。

「〇〇さんですね。今日はどのようなご用件でしょうか?」と言うのです。さらに私には「今日は足元が悪いですね。」と。Wi-fiを直しに来たと主人が告げると、「では主人を呼んできます。」と父を呼びに家の中へ入って行きました…

「ママ、私のこと分からなくなったんだな…」

驚かれるかもしれませんが、私はとても冷静でした。
とうとう来るべき時が来たのだなと。

心の中には悲しいとかショックとか、そういう感情は浮かびませんでした。こんな風に書くと冷たい人だなと思われるかもしれませんが、すごくホッとしている自分がいました。実は母とはあまり仲の良い親子ではないのです。母からの過干渉が苦手で距離を置いていた私は、コロナ禍もあり、この2年間、母と会っていませんでした。だからこの日、実家へ行くことになった私は、前日から緊張して心がざわざわしてとても辛かった…けれど私を分からなくなった母はひとりの年老いた女性と同じです。会うたびにべったりとくっ付いてくることも、1日に何度も電話やメールで連絡を取ってくることも、突然、家に訪ねてくることもなくなるのだな…それなら、もう会ってもしんどくないかもしれない…

***

「ママ、私たちのことが分からないみたいよ」と父に告げると、「そうみたいだね」と落ち着いた答えが返ってきました。

聞けば、昨秋に受けた認知機能検査の結果、「アルツハイマー型認知症の疑い有り」と診断されていたとのこと。薬は処方されていたようですが、母が薬の管理をできていたかは不明とのこと。父の知り得る範囲の親戚、友人に認知症になった方がいなかったため、どうしてよいか分からず、私たちにも知らせていなかったとのことでした。

「どうしてすぐに知らせなかったの?」という気持ちでいっぱいでしたが、変わりゆく母と日々を共にしている父のことを考えると、とてもそんな言葉をかけられませんでした。

さぁ、これからどうしようか。。
私も認知症の家族とともに進んでいくための知識のない人です。
まずは調べて、やれることをやっていくしかないな…
主人がWifiを直してくれている横で、父と重くならないような会話を続けながら、私の頭の中はぐるぐる動いていました。

***

家族とのことは私の生活の一部。
あえて認知症の家族とのことを記録として残すつもりはありません。
ここにはできるだけ、自分をニュートラルに保てることを綴りたい…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?