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アルビノのアルバイトは、簡単じゃない。

アルビノ当事者同士で話すとよく聞く話題の一つに、アルバイトでの不採用経験がある。
「カラーコードが」「お客さんからクレームが」「視力が」とその不採用理由は様々だ。
この記事を書いている雁屋自身にも数々のアルビノによる不採用経験がある。
告げられる不採用理由のほとんどは、アルビノ故の外見や視力だった。
不採用理由を告げられない時ですら、「アルビノが原因なのでは」と疑わずにはいられない。
頭の片隅に、その考えがあって、消えてくれない。

現在書いているシリーズ「アルビノと黒染め」でもアルバイトでの不採用経験については書くことになるだろう。

ツイッターで#アルビノのアルバイト経験談というタグができているのを見て、私も少し書いた。
アルビノのアルバイトが不可能でないことを発信することも必要だが、たくさん断られることによって起こったことや私の考えたことも書いておきたいと考えた。

何故ならアルバイトの不採用問題は今もなおあるから。

でも勿論、採用された経験も、大事だ。
今中高生のアルビノ当事者達に「アルバイト、不可能ではないんだ」と伝える必要があるから。
だけど同時に、「たくさん断られるけど、最終的にアルバイトできるならいいじゃん」と問題が解決したようには取られたくない

終わってないんだ、この問題は。

アルバイトが決まらない、大学生の春、焦燥感にのまれかけた

大学生になったばかりの春。
楽しい新生活だったが、しばらくすると私は焦り始めた。
生活費は親から振り込まれるけど、遊ぶお金、いわゆるお小遣いは自分のアルバイト代から出すことになっていたのだ。
それなのに、アルバイトが決まらない。
本が好きで本を買いたいのに、全然買えない。
日に日にストレスが増す一方だった。

周囲は2、3個受ければ決まるよ、と平然と言う。
実際それが、彼ら彼女らの現実なのだった。
でも私の現実は違った。

まず電話をかけて、髪や目のことを説明しなければならなかった。
周囲の友人達はきっとここで何も説明することもなく、面接の日取りを決めるのだろうけど、私にはその前段階があったのだ。
髪や視力で落とされるなら面接に行く前に、電話で終わりにしたかった。
実際、髪の色のことで落とされることもあったし、視力に不安があると落とされることもあった。
「視力に不安がある」と言われたらもうこちらは何も言えなくなってしまう。
視力が悪いのは事実なのだから。
髪の色で落とされても、憤ったところで、目の前の現実は変わらず、次のところに電話をかけるしかない。
あの頃、電話を掛けたうちのいくつのアルバイトに面接に行けただろうか。
結局、夏の帰省までアルバイトは決まらなかった。

アルバイトは皆しているのに、特に難しいことでもないはずなのに、と新生活を楽しんでいた気持ちが萎んでいった。
同時に焦り、追い詰められもした。

私にも、バイトができた

そんな私の夏休みの帰省は半分アルバイトに費やされることになった。
知人の会社でアルバイトをさせてもらえたのである。

「優ちゃん帰ってきてるならうちでバイトする?」

その言葉を母を通して聞いた時、私はどんなに嬉しかっただろう。
雇ってもらえるんだ、お金が稼げるんだ……! と嬉しくてたまらなかった。
当然知人も私の症状を知っているのだけど、その上で「バイトする?」と声をかけてくれたのだ。

嬉しかった。

その知人は私を小さい頃から知っていて、髪や視力のことは問題にならなかった。
知人も私も視力に対する不安がなく夏のアルバイトを開始できたのは、小さい頃から私を知っていて、どういう風に生活をしているか、つまり私の見えてなさとはどういうものかを感覚で知っていたからだと今になって思う。
人は視力の数値だけではその人がどれほど見えるのか、何ができるのかを想像しにくいのだということも私はこの時は知らず、随分後になって気づくことになる。

実際働いてみると、本当に私のことを理解してくれている、と思う業務内容だった。
繁忙期の雑用だったのだが、DMやノベルティの仕分け、データ入力などいろいろなことをやった。
メモを渡す時も、「これくらいで見える?」と聞いてもらえたし、とても自然に気にかけてもらっていた。

アルバイトを終える時にも「いてくれて助かった」と送り出されて、本当に嬉しかった。
自分にもアルバイトができる、やれるバイトがどこかにある、とそう思えた。

折れかけた心で塾講師に応募したらすんなり受かった

夏休みのアルバイトで自信をつけて一人暮らしをしている街に戻ったところで、急に状況が好転するわけもなく、私はアルバイトに落ち続けた。
それでも夏休みのアルバイト経験のおかげで自分がアルバイトに重要な何かを決定的に欠いているとかそういうわけではない、ということはわかっていた。

これは本当に大きかった。
これがなければ早々に心が折れていたかもしれなかった。

接客では「お客さん」を持ち出されて断られるだろうし、私自身接客に向いていない性格なのも自覚していたから接客は避けて、避けて、避けて、としていたのになかなか決まらない。
落ちそうなところを避けるのも大学生になっての数ヶ月で身につけた処世術のようなものだった。

その夜は、何を思っていたのだろう。
とりあえず、知り合いに塾講師を勧められたからダメ元で応募してみようと思ったのだろうか。
それともまだ高校での学習内容が頭に残っているから塾講師ができると思ったのだろうか。
詳しい理由は覚えていない。
多分ダメだろうな、お堅いところだろうし、と思いながら塾講師に応募した。
受かりそうなところに応募するのではなく、もはや手当たり次第の応募になっていた頃だった。

髪や目のことを説明する時はやはりいつもと同じく不安だった。
「地毛なら大丈夫ですよ」
この言葉がどれほど救いになっただろうか。
個別指導の塾だった(最後の理性が教室での授業をするには弱視では不安だと私に囁いたのだろう)ので、視力も大して問題なく、拍子抜けするくらいあっさりと採用が決まった。

生徒達にも髪の色は好意的に受け入れられた。
「先生ハーフなの?」と聞かれたが、その都度「アルビノって知ってる?」と説明を繰り返していた。
普段なら「生まれつき」と適当に返すこともあるが、講師だからその辺はしっかり答えていた。
アルビノ、実は高校生物にも登場するので生物選択の子だと「そうなんだ」とすぐ理解してくれたのを記憶している。

アルビノのアルバイトが、簡単じゃないという理由。

前述のように理解あるアルバイト先に出会えて、私は大学生活のなかでいくつかアルバイトをした。
無理だろうと思っていた”表に出る仕事”もその中にはあった。
採用してくれるところもあるのだ。

その上で言いたい。

アルビノのアルバイトは簡単じゃない。

普通の人より困難である。
髪の色で落とされ、視力で落とされる。
そもそも屋外での作業があるものは事前にどの程度屋外にいるのかわからないから不安で受けられないし、運転免許がいるようなアルバイトも運転免許が取れないからできない。
元々応募できるものが少ない上に、そのなかでも髪や視力で落とされるのだ。
髪の色で落とすところは問題外としても、視力については数値だけではないわかりやすい伝え方を模索していく必要はある。

普通の人よりどれほどアルバイトが決まりにくいかは多分皆さんの想像以上だ。
それを私は経験として知っている。

だから、とあるアルバイト先(前述した二つではない)と合わなかった時、すぐに辞めるわけにはいかなかった。
他の人は2、3個受ければ決まって次があるかもしれないが、自分の症状に理解のあるアルバイト先は、稀である。
収入が途絶えれば、本が買えない。
必死で次を探しながら、合わないアルバイトに耐えた。

次が決まりにくいという現実を身をもって経験したから、あっさり辞められないのだ。
これが合わないという程度の話(それでも当時の私には大問題だった)だからまだよかったが、いわゆるブラックバイトだったら、確実に私は身体を壊していた。
アルバイトに生活費がかかっていたら、より大変なことになっただろう。

次が普通の人より圧倒的に決まりにくいと知っているから簡単に辞められない。
これも、アルビノのアルバイトが抱える問題の一つだと私は考える。

これからアルバイトするアルビノの当事者達へ

アルビノのアルバイトは不可能ではないが、簡単ではない、というのが私の出せる、現状への結論だ。

業種や職種も限られる上に、髪や視力で落とされるという現実がある。
視力に関しては数値だけでなく、伝え方をこちらも工夫していく必要があるが、どうしても視力に不安が残って落とされたり、視力がないとできないこともあって落とされたりする。

けれどそれは決してあなたのせいじゃない。
髪や視力で落とされることに、あなたの責任はない。
どうかそれを理由に自分を責めないでほしい。

そしてアルバイトが見つからなくて生活が苦しいなら親に頼ろう。
言いにくいかもしれないけど、多くの親は力になってくれるはずだから。
辞めるべき時には後のことは考えずに辞めていい、体を壊しては元も子もないのだから。

執筆のための資料代にさせていただきます。