人と出会う、ということ(6)

年始からバタバタ続きで、随分間が空いてしまった。

色々と新しい話を仕掛けていきたいので、年始の挨拶回りと企画絡みの交渉に走り回って、ようやく少し落ち着きつつある。

さて、話を元に戻そう。
前の話からどんだけ開いてんの!って有様ですからね。

帯広選手にお会いして、いよいよもって「我闘雲舞」を体験せねば!という決意も固まり、市ヶ谷で開催される試合へ訪問した。

会場近くまで行くと、既に多くの男性の姿が。
身につけているもの、プロレスTシャツ…明らかに「常連」というオーラが漂っている。
年齢層は比較的高めな雰囲気。自分よりも年上の方が殆どだろう。

受付でネット予約をした旨を伝え、勝手がわからずオタオタしながらも会場に入り込んだ。

この市ヶ谷会場における我闘雲舞の試合は、リングではなく、マットで行われる。
そのため、コーナーポストは勿論、ロープもないし、通常のリングよりも使えるスペースは狭い。

マットの端三方には、すぐ観客が座っていて、残す一方は壁、そして窓が開け放たれている。
中には窓の縁をコーナーポストの代わりに使う選手もいるようだ。

試合を文字通り目の前で、しかも見下ろす形での観戦なので、何もかもが丸見えだ。
死角があるリングとはまた異なり、プロレスラーとしての地力が試される環境と言えるだろう。

開始時間を迎えると、我闘雲舞の代表兼プロレスラー・さくらえみ選手が登場し、今日の試合内容についての説明が始まった。

実は生まれた年は自分と同じ(学年は異なるが)のさくら選手。これも何かのご縁だろうか…などと思っていると、

「今回、初めて来た方はいらっしゃいますかー?」

と、観客に問いかけるさくら選手。
後になってわかったのだが、これはさくら選手の「お約束」だ。

正直に手を挙げた…って、あれ?自分だけ???
おぅわ、何かやたら恥ずかしいぞ!?

「何がきっかけで来られたんですか??」

軽くテンパって、何とか絞り出した言葉が、

「えー…帯広選手を個人的に応援してまして……エビスコ酒場にもお伺いしたりしてます(汗)。」

…って、おいおい!「個人的に」って何だよ!
スポンサー気取りかよ!?もうちょいマシな言い方があるだろうに!
もはや挙動不審過ぎて悲しくなっちゃうよ!!

「おー!ありがとうございます!でもねー、帯(オビ)は絶賛欠場中なんですよー(笑)。
リングコールをやってもらうんですけど、何と!今日は特殊なケースなので、1回戦しか出番がないという!!」

窓の向こうにある音響テーブル方向に目をやると、そこには帯広選手の姿が。
バツが悪そうに「テヘへ。」といった様子。

ちなみに、その日は通常の試合形式と併せて、タイから来日中の選手たちによる試合も行われる。

実は我闘雲舞自体、タイで設立され、タイでのプロレス普及が目標であるという、珍しい団体だ。

そのタイで育った選手たちが今回、来日して試合を行うということで、タイのメディア取材も入っているという、異例中の異例となる大会に、このド素人が来てしまったというバツの悪さ!!

殆どが初見の選手だったが、やはり目の前で繰り広げられるプロレスは臨場感と説得力が違った。
今まで観た、新日やDDTの興行とは、また別の楽しさかある。

また、所属レスラーも個性派揃い。

10代にしてデビュー10周年(!)を迎え、我闘雲舞の絶対的エース、そして象徴として君臨する里歩選手

アイドルとして活動をしながら、持ち前のパワーと体躯を活かし、プロレスデビューを果たした、水森由菜選手

入団1ヶ月で異例のスピードデビューを果たし、持ち前のセンスと明るさが魅力的な駿河メイ選手

そんな中、特に印象的だったのが、紺乃美鶴選手
普段のにこやかで明るく快活な姿と、試合で相手を見据える鋭い眼差し、何より「…勝つ!」という気迫を感じる表情。
そのON・OFFの切り替わりが非常に格好いい。

そんなこんなで、我闘雲舞の試合を初めて観戦するに至った。
こんな見応えのあるプロレスが、仕事帰りに立ち寄れる場所で行われていたとは!!

試合終了後は、所属選手による物販が行われる。
ポートレートとチェキ撮影(いずれもサイン入り)。

アイドルの類にハマったことが殆どなく、そういう現場を経験したことがなかったので、少々面食らったが、そこで気がついたのは、帯広選手の人気ぶり。

怪我のため、試合こそ出来ない状態だが、帯広選手の列は途切れることがない。
ファンのひとりひとりと、明るく、そして楽しそうに話している。

そうか。帯広選手は周りから愛されるという、素晴らしい「スキル」を持っているんだ。
公式サイトのプロフィールに、

三十路を迎えるのが信じられないようま素直な心を持った人間性で誰からも愛されるキャラクター

とあるのにも合点がいった。
ガッテンボタンがあれば、志の輔師匠が引くぐらいボタンを連打していただろう。

…そして、改めて思った。

帯広選手がリングに復帰したとき、全力で応援したい!!

それがいつになるかはわからないけれど、その間にも市ヶ谷での興行や、エビスコ酒場に足を運び、今の自分が出来うる形で応援しよう。

この観戦から1年前の同時期、鬱による休職期限目前で、

本当に社会復帰できるのか?
そして、どのツラ下げてオフィスに戻ればいいんだ…?
いっそのこと、人知れずどこかに身を消して、朽ちてしまいたい…!
いや、そうなったら、ここまで支えてくれた嫁さんはどうなる!?
嗚呼!苦しい!!誰か助けてくれ……!!!!

という、答えの出せない自問自答を繰り返し、強烈な動悸に襲われる毎日を過ごしていた。

だけど今は、薬こそ使えど、日常生活に支障はないし、何より、仕事やプライベートで「楽しい」という感情が戻ってきた。

長く苦しいときは、きっと誰にでも訪れる。
そんなとき、人は前を向かなければならない。
そして、後押ししてくれる人がきっといる。

僭越にも程があるし、また、図々しい限りではあるけれど、そんな後押しを、微力ながら始めることを心に誓ったのだった。

(つづく)

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