[大阪]ポーランド国立放送交響楽団 来日ツアー

2022年9月10日(土) 13:00/14:00
大阪:ザ・シンフォニーホール

出演者
ポーランド国立放送交響楽団
マリン・オルソップ(指揮)
角野隼斗(ピアノ)

[プログラム]
バツェヴィチ:オーケストラのための序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

[ソリストアンコール]
ショパン:子犬のワルツ 作品 64-1

 [アンコール]
モニューシュコ:
歌劇ハルカ
第1幕「マズルカ」
第3幕「高地の踊り」

はじめに

直前まで悩みに悩んで、行くことを決めた大阪公演。
と言うのも、既に初日の埼玉公演を聴くことが出来ていたからである。
――結論、思い切って聴きに行って、本当に良かった。
初日とは、別の感動がそこにはあった。

幸運にも、二つの公演に参加出来た身として、新たに感じたことを中心に、大阪公演の思い出を書いていく。

バツェヴィチ:オーケストラのための序曲

初日より、祝祭感が強めに感じられる演奏。
最初からクライマックス。

オケの皆さんが奏でる迸るような生命力溢れる音色を、オルソップさんが束ね、そこから客席へと奔流となって注ぎ込むエネルギー。
それに、圧倒される。

ホールの響きもあるだろうが、音がとてもクリアだ。
しかし、輪郭は尖りすぎず、芯があるけどまろやかさもある感じられる。

そんな極上の音に、演奏中、全身を包まれる感覚は、もう最高だった。

ショパン:ピアノ協奏曲第1番

この演奏は全員に、ある種の緊張感が底辺に漂っていたように思う。
と言うのも、この日はライブ録音が行われることが、事前に告知されていたからである。

開演前からステージにはマイクがたくさん設置されており、カメラと思しき機材もステージに二台、客席とステージの間に一台置かれていた。
ショパンの1番、演奏直前には、スタッフさんが二名現れて、ピアノの前に二台のマイクをさらに追加で設置していた。

今回、もし映像も残して下さっていたのなら、本当に嬉しい。
心からそう思う程、素晴らしい演奏だった。

第一楽章から、録音中の緊張感がありつつも、初日よりも雰囲気は明るい。
これまでの公演で、オルソップさん、角野さん、オケの皆さんの間の仲が深まった故だろうか。
流れる空気は温かく、穏やかだ。

ピアノ演奏が入る前のオケの演奏から、私は泣きそうになった。
音色が、あまりにも美しい。
これまでは、第二楽章から天国的な異世界に連れて行かれる感覚を味わっていたのだが、今回は冒頭からその雰囲気が漂っていて、最初から別世界へ一気にトリップさせられるようなインパクトがある、そんな音だ。
この歴史的な瞬間に、今まさに立ち会えている喜びもあるだろう。

そして、待ちに待った角野さんの一音目。
やはり、初日とは違った。
音が、明るい。
芯がありつつも輪郭はまろやかで、ああ、角野さんの音色だ、と感じて嬉しくなった。

埼玉での公演はある種、特別なものだったと感じている。
あの日に、彼は自分の中でショパンコンクールを完結させた、と思うのだ。
埼玉では、第一、二楽章と第三楽章のピアノの音色は、明らかに違って聴こえた。
前半は切なさで胸がいっぱいになるような音で、後半は打って変わって、躍動感溢れる音だった。
私の勝手な印象だが、第二楽章を弾き終わる時に、彼は心の中で、一つの終止符を打たれたのではないか。

あの日の、第三楽章の音に近いものが、大阪公演は最初から鳴っていたように思う。
しかし、このツアーを始める前の、これまでのコンサートの音色とも少し違う、味わい深い音だ。
弾き方もどこか違う。
ここは初日と同様だが、ツアー前以上に、一音一音を慈しんで奏でているように思えた。
この曲と、ショパンへの溢れる愛が見えるような演奏。

第二楽章はもう、ずっと天国のお城の中庭で、日向ぼっこしているような心地良さだったのだが、今日は特にある箇所に耳を奪われた。

その部分のメロディが、最近、角野さんがリリースした新曲、追憶の一部で使われているので、その部分の頭出しリンクを貼っておく。(4:17〜)

この箇所の冒頭部分を弾いた直後、角野さんは音の響きを確かめるように、少し顔を上げて、残業音が消えるのを待ち、続きを弾き始めた。

水滴が水面に落ちると、そこから波紋が広がるが、オケの音が丁度消えている中、ピアノの響きが波紋のように広がって、あまりにも美しかった。

第三楽章は、オケとピアノの音色が溶け合い、ステージには天使の梯子が降りて、虹が現れたようなイメージが、冒頭の演奏で脳裏に浮かんだ。
ピアノは力強く、歓喜を歌い上げるように、ホールに鳴り響く。

角野さんは踊るように、全身でオケの音にのりながら、ピアノを奏でて行く。
オケのみの演奏時も、時折膝の上に乗せた手で、リズムを取っている姿も見られた。

喜び、楽しさが空間に溢れている。
何て幸せな時間だろうか。
勢いに乗ったまま、最高潮の盛り上がりをもって、演奏が終わった。

天国が見えた、と思った奇跡の演奏だった。
スタンディングオベーションの中、その余韻に浸っていた。

ショパン:子犬のワルツ


カーテンコールが二回行われた後、角野さんはピアノの椅子に腰掛けられた。
アンコール演奏タイムである。

これまでの公演では、すべて異なる曲を弾いていたが、この日、彼が選んだのは、子犬のワルツ

アンコールで彼がよく弾く曲の一つだが、毎回違ったアレンジで聴かせてくれるので、とても楽しい。
多彩な即興演奏も、角野さんの魅力の一つ。

過去の演奏で、比較的似ているのでは感じた動画があるので、参考までにリンクを貼っておく。

比べると、今日の方が、勢いに乗ってる感じだった。

ショパンの1番が、本人としても納得のいく演奏が出来たのだろうか。
そう感じる程、全身から喜びの溢れるような演奏で、身体から自然と湧き上がって来る感情の発露が、そのまま音になって現れたようだ。

演奏後カーテンコールが一回終わった後、客席の明かりがついたので、強制的に休憩時間へ移行かと思ったら、最後にもう一回だけ出て来てくれた。
心遣いが嬉しい。

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

第一楽章から、音色に震えた。

オルソップさんの指揮はエネルギッシュ
あの小柄な身体の中には、どれだけのエネルギーが渦巻いているのか。

オケと共に奏でる音はダイナミックレンジがとても幅広く、音が膨れ上がる瞬間、そこに爆発的なエネルギーが乗っかり、その迫力に圧倒された。

埼玉公演でも、同じ点で感動したが、今日はホールの響きの良さもあってか、大迫力の音圧に全身を包まれるような感覚で、とてつもなかった。

第二、第三楽章は恍惚とした。
ショパン1番の第二楽章で感じた感覚に近いかもしれない。
ここにも別の天国があった。
とにかく、音のすべてが心地良い。
特に、第三楽章は流れる音のシャワーが極上で、永遠に浸っていたいと思う程だった。

第四楽章
第二、第三楽章が小川のせせらぎを聴きながら、原っぱで日向ぼっこをするような味わいのある天国だとすれば、第四楽章は、荘厳で、天の存在を感じるような神聖な空気感の漂う天国だった。

圧倒的な光を感じる音の輝き。
自然と涙が込み上げる。

いつしか、嗚咽しそうになるのを堪えながら、聴いていた。

何て、美しい音楽だろう。
音楽は何と素晴らしい芸術か。

作曲家、演奏者、指揮者、観客、スタッフの皆さん……沢山の人の思いが、今この空間を作り出している感動。

ホールの中が今、天国になっている。

奇跡的な時間だったと思う。
この場に立ち会えた幸運に、心から感謝したい。

モニューシュコ:
歌劇ハルカ

第1幕「マズルカ」
第3幕「高地の踊り」

割れんばかりの拍手、スタンディングオベーション、カーテンコールの後に、オルソップさんが指揮台へと上がる。
アンコール演奏だ。

天国の空気感が残っている中、オケから放たれる音色はどれもキラキラと輝かしく、エネルギーに満ち溢れている。
オルソップさんは踊るように指揮をしていて、ノリノリだった。
ホール内には楽しく、祝祭的な空気で彩られた。
終わるのが寂しい。
終わらないでと願いつつも、やがて来る終演の時。

オケの最後の一人が見えなくなるまで、涙目のまま手を叩き続けた。

終わりに

初日の公演と同様、ここまで一気に書いた。
初めから終わりまで、感動しっぱなしの、夢のようなコンサートだった。
その空気感の一部でも、書き残せていたらと思う。

まだツアーは始まったばかり。
わずか三公演目でも、変化する演奏。
千秋楽には、一体どうなっているのか。
楽しみで仕方がない。

出来ることなら、全公演聴きたいと本気で思う。
それ程、感動する演奏だった。

もし、迷っている方がいるなら、是非行って欲しい。
この素晴らしい音を、一人でも多くの人に全身で浴びてもらいたい。

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