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読売日本交響楽団 第38回大阪定期演奏会

■2024年6月20日(木) 開演 19:00
大阪:フェスティバルホール

Artist
管弦楽=読売日本交響楽団
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ
ピアノ=角野隼斗、フランチェスコ・トリスターノ

Program
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死
ブライス・デスナー:2台のピアノのための協奏曲(日本初演)
ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲
ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容
アンコール
リチャード・ロドニー・ベネット:「4つの小品組曲」から第4曲「フィナーレ」

はじめに

日本初演のデスナーのコンチェルト、2台ピアノの弾き手は今をときめく角野隼斗さんとフランチェスコ・トリスターノさん、と聞き、興味を惹かれて取ったチケット。
プログラムは正直、クラシック素人の自分には馴染みのない曲ばかりで、楽しめるのか不安でしたが、いざ蓋を開けてみたら、これがまあ、めちゃくちゃ楽しめました。

配信音源で予習していた際には感じなかった高揚感が全身を駆け巡って、最高でした!
本当に聴きに行って良かったです。

当日聴いた直後、感じたことを思いつくままにX(旧Twitter)に書き殴ったのですが、時系列はバラバラで見返しづらいこともあり、こちらに整理して、大切な思い出として保管しておこうと思います。

まだ東京公演前にこれを書いているので、これから新鮮な気持ちで聴きに行きたい方は、この先は見ずに今バックされることをオススメします。

私の多分結構独特な、感性のフィルターを通した感想になりますが、読んでやっても良いぞと言う方は、どうぞお付き合い下さいませ。

トリスタンとイゾルデ

予習初聴き時、冒頭が「暗っ!」て雰囲気で、ちょっと苦手意識があった曲。
でも、当日はしばらく聴いていると、だんだんマイルドな心地良さを感じるようになって、意外と大丈夫でした。

聴きやすさを感じるのは、指揮のヴァイグレさんのお人柄にも理由はありそうです。
一見やや強面で怖そうなマエストロですが、「明るい陽気なおっちゃん」(角野氏談)だそう。
そんな彼が振っていたこともあってか、とっつき辛さが良い感じに抑えられていたように思いました。

元が悲恋の物語なので、途中に男女の恋愛のキラキラ感を思わせるような甘い音色が見られるものの、ずっと曲全体を通して漂う物悲しさ(イメージで言えばいつも曇り空と言った印象)みたいなものは感じました。
もののあはれを味わうつもりで、音の響きに耳を澄ませると、繊細な音が織物のようにヴァイグレさんとオケによって紡がれていく様が、実に美しい曲でした。

デスナー:2台のピアノのための協奏曲(日本初演)

2台のピアノが舞台袖から搬入され、セッティング中に、まさかの角野さんとトリスターノさんがマイクを持って登場!

以前二人のお姿を生で拝見したことがあるにも関わらず、お二人のスタイルの良さに、思わず口をあんぐり開けていた私。
角野さんはよく細いと言われるものの、もっと細く見えるトリスターノさん。
(角野さんより身体にぴったりしたパンツをお召しなので、余計にそう見えたのかもしれません)
リアルルパン体型の人と言ったら伝わるでしょうか。
お二人とも持っている雰囲気が似ていて、まるで兄弟みたいです。

登場からほどなくして、プレトークタイム。

耳馴染みがない曲と言うこともあって、お客さんに楽しんでもらえるように、との配慮を感じて嬉しくなりました。
ピアノのセッティングだったのは、公演時間が長くならないように、との心遣いもあったのではないかと推察致します。
大阪や東京のコンサートだと、遠方から聴きに来られる方も多く、終演後すぐさま帰らなくてはならない人もいらっしゃることでしょう。
そんなことも考えると、隙間時間のプレトークは嬉しいなぁと思います。

トーク前半は角野さんによる、デスナーの紹介。

ブライス・デスナーはThe Nationalと言うバンドのギタリスト(!)でもある人物。 
 ついこの前まで、Penthouseと言うバンドのツアーで、ピアノを弾いていた角野さんとも親和性がありそう。

・この曲はミニマルミュージック的な発想で、同じモチーフを一拍とか一小節とか遅れて繰り返す。輪唱、超モダンなカエルの歌的なもの。(可愛らしい喩えに会場内で笑い声が広がる) 

その後、トリスターノさんによる曲の印象を、角野さんが同時通訳して下さいました。

この部分、自分ではちゃんと聞き取れなかったのですが、X(旧Twitter)で教えて頂けました。
それに自分の記憶を合わせると、こんなことを述べられていたかと思います。

トリスターノ「la vie est belle et étrange――The beautiful is always bizarre」(唐突なフランス語から英語へ)
角野さん「人生は美しく、奇妙である。美しいものはいつも奇妙。作者は誰だっけ?――ボードレール」

フランスの詩人ボードレールの言葉を引用して、この曲も美しさの中に奇妙さがある、とのお話でした。

ここから先はコンチェルトの感想ですが、私の頭の中に浮かんだイメージをそのまま書いている「超主観的感想文」なので、あらかじめご了承下さい。

第一楽章

祭りでそれぞれの楽器が思い思いに踊っていて、カオスな状態かと思いきや、だんだんと超モダンなカエルの歌へ。
各パートがかけ合いし、エネルギーが高まって行く演奏にワクワクが膨らんで行きます。

角野さんもトリスターノさんも、足が踊るようにペダルを踏んでいて、リズム感の良さが弾き姿から伝わって来ます。
完全に音楽と一体化したノリノリの演奏、小気味良く刻まれるピアノの音色が耳に心地良かったです。

過去にも角野さんとトリスターノさんの演奏は聴いたことがあるのですが、あの時は角野さんは潤いのある音色、トリスターノさんはからりとした音色、とくっきりカラーの異なる印象でした。

今回は一体感がすごくて、息ぴったり!と感じました。二人で作る一つの音色、みたいな。
溶け込むように重なるピアノの音は、息を呑むような美しさでした。

角野さんが一人で弾く場面では、コロコロとした真珠の粒みたいな輝く音粒が飛び出す場面もあり、曲に華やかさを添えていました。

第二楽章

内省的な美しい音色が素敵。
前半部分を聴いていて思い浮かんだのは、アニメの十二国記と言う作品。
その冒頭に青猿と言うキャラクターが出て来るのですが、彼がヒロインを翻弄していたシーンを思い出しました。
作品を知っている人にしか伝わらない、何ともマニアックな喩えで申し訳ない……!
でも、これが一番しっくり来たんですよ。

中盤〜後半部分は、アメリカのサスペンス要素を含んだドラマでよく見られる場面――だだっ広い荒野で車を運転しながら、黄昏ている主人公のシーンとかにめっちゃ流れてそうじゃないですか。
そんなイメージも浮かびました。

第三楽章

夜の暗闇の中、祭祀を執り行ってる様を、遠くから眺めているような感覚に。
中央に篝火を置いて、その周りを激しく踊って回る舞手二人の姿が浮かんで見えます。
2台のピアノの音が、私の頭の中ではそんな風に変換されて受け取っていたようです。
二人は片手に剣を持ち、剣舞をしています。

その外側を雅楽の人たちが囲むように並んで、演奏をしているイメージも浮かびます。
楽器が重なり合って生み出される音色は、私には和の趣を感じさせるものがあったんですよね。それでこう言ったものを連想したのかもしれません。

どことなく、ジブリの久石さんの楽曲を想起させる雰囲気もありました。

途中、角野さんとトリスターノさん二人だけの演奏タイムがあったのですが、月明かりの下、祈りを捧げるように踊る舞手二人の姿が浮かび上がって見えました。
何か神聖な瞬間を見てしまった、そんな感覚になりました。

そして、最後はオケと共に2台のピアノが戦闘曲さながらに格好良い演奏を披露するのですが、生の迫力がヤバかったです……!
音のダイナミクスの幅が想像の何倍も上で、ババババン! と終わった瞬間、格好良さに震えました。

アンコール

カーテンコールでお二人が舞台に戻られた際、角野さんはタブレット、トリスターノさんは紙の楽譜を持っておられました。

譜面を見ながらの演奏で、トリスターノさんが楽譜をめくる際、1枚、2枚と次々に楽譜が落ちて、ひらひらと宙を舞います(笑)。
2枚は客席へ、最後の1枚は自身の足元へ。

演奏後に最前列の方が2枚を手渡しされていましたが、自身の足元にある楽譜には気付かず、退場されたトリスターノさん。
……なんだか、ほんわかして彼への親近感がアップしましたよ(笑)。

そんな出来事に反して、お二人の演奏は弾き始めからホールの雰囲気をガラッと変える、凄まじいお洒落オーラを放つもので、痺れるような格好良さでした!

クラシックホールがジャズバーに変わった錯覚がしたのですよ……!

二人のピアノから放たれるオーラに完全に当てられて、やられました。

オイリアンテ

当日、体感ではあっという間だったこの曲。
どことなく、指揮するヴァイグレさんの背中がちょっとノっているように見えました。
マエストロは、読響さんのホームページによると、オペラとシンフォニーの両方で目覚ましい活躍をされている方とのこと。
このオイリアンテはオペラの曲と言うことで、彼の十八番で好きな曲だったのかもしれません。

彼の本日のお召しものは、グレーの淡い柄の入ったタキシードで、恰幅よく着こなしているお姿は、オペラ歌手さながらのオーラを漂わせておられました。

前半のトリスタンとイゾルデ、コンチェルトの指揮ではクールな雰囲気のヴァイグレさんでしたが、この曲の指揮では音がキラキラ、ふわっと花開いた薔薇がオケの皆さんの上部の空間に見えたような錯覚までしました。
すごい変わりようにビックリ。
でも、この時点では彼が本領を発揮する、ほんの前触れを見たに過ぎなかったのだと、次の演奏で思い知ったのでした。

ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容

ヴァイグレさんの指揮は、ストーリー性のある曲への表情の付け方、音の立体感がとても豊かな印象で、彼が振ると、映像が次々に浮かんで来ます。

特にヒンデミットを振っている時は、マエストロはとても楽しそうで、冒頭から身体でリズムを刻みたくなりました。
実際には後ろの方へご迷惑になるので、やっていませんが、外の動きを止めていても、身体の中で何かがずっと横揺れしているような、不思議な感覚が聴いている間、続いていました。

舞台から放たれる楽しい! のオーラがすごくて、それにすっかり当てられた私は、聴いてる間、ずっと自然と口角が上がってました。

第一楽章

ファンタジー要素を含んだ現代モノの雰囲気があって好きです。
何故か実写版101を思い出しました。
クルエラみたいな癖のある悪役が出てきそうな、どこか剽軽さが漂う音楽が楽しかったです。
映画の冒頭のシーンを観ている気分になりました。

第二楽章

朝の市場なような雰囲気から始まって、途中から和風のお囃子みたいな音色が出て来て、みんなでお祭り騒ぎをして終わる現場に立ち会った、そんな感覚になりました。

第三楽章

森の中で、遠くから聴こえて来る小鳥の鳴き声に耳を傾けている、そんな場面が思い浮かびました。
内省的な音色で、とても癒されました。

第四楽章

三國志や信長の野望、幻想水滸伝シリーズみたいなシミュレーションゲームの戦BGM感。(またもやマニアックな喩えですみません)
ほんのり、スターウォーズみたいなSF感もあるかも。
だんだんイケイケになる音色は、主人公たちの軍が優勢に戦を進めているイメージ。
そして、大団円へ!
た〜のしい〜っ!

おわりに

今回のコンサートはどれもストーリー性が感じられる音楽で、映画何本分も観たような満足感でした!
ブラボー!!

予習時に馴染めなかった曲でも、生演奏で好きになることもある、とも感じました。
配信音源ではそんなに印象に残らなかった、ハープや打楽器の音色がかなりくっきり浮かび上がって聴こえたので、これから東京公演に行く皆様も、受ける印象の違いにびっくりするかもしれません。

X(旧Twitter)では書ききれなかったことも追記してまとめられて、満足したので、この辺りでおしまいにしたいと思います。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!

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