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日本センチュリー交響楽団 第274回定期演奏会

■2023年6月10日(土) 開演14:00
大阪:ザ・シンフォニーホール

Artist
指揮:飯森範親
ピアノ:角野 隼斗
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
合同演奏:パシフィックフィルハーモニア東京

Program
J.アダムズ:Must the Devil Have All the Good Tunes?
R.シュトラウス:アルプス交響曲 作品64

ソリストアンコール
カプースチン:8つの演奏会用エチュードOp.40-7より間奏曲

Must the Devil Have All the Good Tunes?

日本人ソリスト、オーケストラでは今回、初めて演奏されると言うこの曲。
最初にサブスクで聴いた時には、難解な曲だなと言う印象で、チケットを買うのをしばし躊躇したけれど、実際に生演奏を聴いてみたら……いや、買って大正解でした!

生で聴いたら好きになっちゃうこともあるのだ、と言う体験をした今回のコンサート。
記憶がまだ残っているうちに、こちらに綴っておきます。

たちまち完売となったこのコンサートですが、演奏当日に少しでも楽しめるようにと、ソリストの角野さんが自身のYouTubeに解説動画を上げたり、noteに記事を書いて下さったりと、心遣いが嬉しかったです。

もともと彼のファンではありますが、こんな気遣いをされたら、その人間性に、ますます惚れてしまいます。自身の練習だけでも大変でしょうに、何て素敵な人なんでしょう。

角野さんのピアノと言えば、これまでは美しい弱音が印象的でしたが、今日は冒頭から低音でガンガン、フォルテで鳴らしまくる姿が新鮮でした。

グルーヴ感たっぷりに弾くピアノの、何と格好良いこと!

時折、角野さんが飯森マエストロと視線を合わせて頷き合った直後に、大きく息を吸い込んで、ピアノを鳴らす場面も。
席がそこそこ離れてるのに聴こえて来て、何だかゾクゾクしました。
ペダルを踏む足は踊っているようにも見えます。

私はちょうど角野さんのお顔が見える側の座席で、譜面台は見えなかったのですが、他の座席の方のお話によると、あのすごいペダリングをしながら、iPadの譜めくりボタンも踏んでいたらしいので、とんでもないことです。

飯森マエストロの指揮もリズミカルかつダイナミックで凄い。
二人から目が離せない。

でも、オケの演奏も見るのが楽しい!

サブスクで聴いていた時には、色んな音が重なり合っているので、どのタイミングでどの楽器が鳴らされているのかよくわからなかったのですが、生でステージを見ていると、それが何となくわかって、面白かったです。

弦楽器だけを見ると、冒頭はコントラバスが演奏していて、曲が進むにつれて、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリン……と、演奏する人が左側に広がって行く。

時折、曲全体にかけるスパイスみたいに、弦で楽器をリズミカルに打ち鳴らす音が聴こえる。(素人が遠目に見た感想なので、間違っていたらすみません)

ソリストとマエストロの人柄やオケのカラーもあってなのか、サブスク音源と比べて、悪魔が何だか親しみやすい印象です。

剽軽な悪魔があっちへふらふら、こっちへふらふら、名曲を追い求めている感じ。

ピアノと打楽器の音が溶け合った時の、不思議な音色が可愛らしい。

曲に切れ目がないので、リズムの変化での判断ですが、第二楽章の辺りの、静謐な空間に繊細なピアノの音色が響き渡る場面は、悪魔が夜の森の中で彷徨っているようなイメージが思い浮かびました。
角野さんの演奏が幻想的で、魔法みたいに吸い寄せられるような魅力があります。
最後の方は悪魔が洞窟から月を見上げながら、夜が明けるのを不安げに待つイメージ。

第三楽章は、悪魔のピョコピョコした足取りが目に浮かぶような音が滑稽で、聴いていて楽しい。
緊迫感を増しながら進み、最後は、鐘を打ち鳴らしたような音が静かに響き渡る形で終演。

音の余韻が消えるまで、ステージ上の皆さんも、客席も微動だにしない。

すべての音が消えてしばらくした後、わっと拍手が広がった、その空気感の気持ち良さと言ったら……!

チケットを買って良かった、生で聴けて良かったと心から思った演奏でした。

8つの演奏会用エチュードOp.40-7より間奏曲

鳴り止まない拍手に四回程カーテンコールをした後、角野さんがアンコールに選んだのは、カプースチンのこの曲。

「お口直しに、楽しい曲を」と言われて演奏開始。
(はっきりとは聴こえなかったので、間違っていたらごめんなさい)

軽快なピアノの音色が、先程まで演奏していた第三楽章の雰囲気をそのまま引き継いでいるような感じで、剽軽な悪魔が陽気にダンスを踊っているようなイメージが思い浮かびます。

名曲を求めてあちこち彷徨った悪魔が、色々あったけれど、最終的には幸せになれたような、ハッピーな気分になれる素敵な演奏でした。

アルプス交響曲

演奏前、オケの皆さんが入場後にまず驚きが。
今回は、日本センチュリー交響楽団さんとパシフィックフィルハーモニア東京さんの合同演奏でしたが、大人数で、何と舞台袖ギリギリまで椅子が並んでいます。
うっかりすると、落ちてしまうんじゃないかと心配になるくらい、演奏者が客席と近くてドキドキ。
こんなにみっちりステージが埋まっているのを見たのは初めてでビックリしました。

飯森マエストロはどうやって人の間を掻い潜って指揮台に上がるのか、そわそわして見ていましたが、席と席の隙間にちゃんと道が作ってあったらしく(そりゃそうですよね)、颯爽と歩いて行かれました(笑)。

そして演奏開始、最初の一音目で会場の空気ががらっと変わって、アルプスの山の空気がさっと吹いて来ます。

薄い絹を重ねるように繊細に紡がれる、音と音が重なって溶け合う様が本当に美しい。

大人数での編成ということもあってか、全身が音に包まれるような感覚で、心地良さにうっとり。

そんな中、演奏開始後しばらくして、舞台袖からさらにオケの方数人が入場。
元々多いのに、まだ増えるとは……!

そんなことに驚いたりしつつ、曲を耳で追います。
音色だけで、山の情景、登山の様子等がありありと浮かんで来るのがすごい。
これも大人数なのに、音がバラつかずに綺麗に溶け合って響いているからこそ。

ヴァイオリンが弱音を静かに弾き続ける音が、幾重にも重なった美しい音色が作り出す空気感、雄大な山の風景を想起させるホルン、鳥の囀りのような音色……映画を見ているような解像度の高さとスケール感を覚える演奏が、もう圧巻です。

終演後、割れんばかりの拍手がいつ終わるんだろうと言うくらい鳴り止まず、オケの皆さんも客席も笑顔でいっぱい。

今日は何て良いコンサートだったんだろう、と幸せで胸がいっぱいになりました。


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