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NHK交響楽団 第124回 オーチャード定期

■2023年7月8日(土) 開場14:30 / 開演 15:30
神奈川:横浜みなとみらいホール 大ホール

Artist
指揮:尾高忠明
ピアノ:角野隼斗
管弦楽:NHK交響楽団

Program
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1945年版)

アンコール
ラモー:新クラヴサン組曲 第2番—第5組曲「めんどり」
ストラヴィンスキー:組曲「プルチネルラ」—「セレナード」

開演前プレトーク
檀ふみ✖︎角野隼斗

開演前、14:50頃にプレトークがある旨のアナウンスが。
そう言えば、SNSにそんな告知があったなと思い出しつつ、ステージ上を見守っていると、檀ふみさんと角野隼斗さんが現れました。

当日、そのことをすっかり忘れていたので、早めに会場入りしてて良かったと安堵。

覚えている話を書いていきます。
※記憶違いもあるかと思いますが、あらかじめご了承下さい。

冒頭、檀さんが「すみたはやとさんです、どうぞ」と呼び間違えて、思わずずっこけました。(笑)

角野「こんにちは、角野隼斗です」

檀「すみません、間違えてしまいました(汗)」

「いえ、たまに間違えられるんですよ」と角野さん。(優しい)

檀「何ででしょうね?」

角野「ね〜」

とふわっとしたトークからスタート。
おっとりのんびりな雰囲気で進みます。

今日演奏する曲はショパン作曲。
ショパンはパリの暮らしが長かったこともあり、話はパリに。

檀さんが「行ったことある人はいらっしゃいますか?」と挙手を求めると、結構たくさん手が上がって、びっくりされていました。

檀「過半数はいます?」

角野「いや、さすがにそこまでは……」

檀「パリと言えば、ノートルダム大聖堂で火災がありましたけれど、その後に行かれた方と言うと、少ないんじゃないでしょうか。いらっしゃいます?――あ、一人いらっしゃった」

角野「(周りを見渡しながら)数人いらっしゃいますね」

檀「実は角野さん、火災前と後を当時(2019年4月15日から同年4月16日)、現地で体験されたんですよね」

角野「火災当時はウィーンにいたんですけど、その前後はいましたね」

檀「パリに留学されていたんですよね――もう、知らない方はいらっしゃらないと思いますけど、ピアニストとしては非常に珍しい大学、東京大学を卒業されておられて。どんなことをされていたんですか?」

角野「AIの研究をしていましたね」

檀「しかも、理系だったんですね。AIと言えば、今流行っていますけれども」

角野「そうです。当時、AIの技術の発展がどんどん進んで行っている頃で、音声分析の処理なんかをしていましたね。
フランスのIRCAMが、その分野では進んでいまして。教授の勧めで、大学の交換留学制度に申し込んだんですよ。
――留学中にジャン=マルク・ルイサダにピアノも習ってました」

檀「研究の合間に!?」

角野「研究、適当だったのかも。(笑)
いや、ちゃんとやっていたんですよ。初めは両立しようと思っていたんですけど、だんだん音楽の比率が増えてきて。
2020年に大学を卒業したんですが、そこから音楽へ……5年前のインタビューでは、大層なことを語っていましたけど、でも、いつか研究にも携わりたいですね」

角野「パリではよくフランスパンを食べてましたね。エシレバターを塗って」

檀「でも、フランスではフランスパンって言わないですよね」

角野「確かに。(笑)フランスパンって1ユーロで買えるんですよ。当時だと100円くらいかな。今はだいぶ高くなっちゃいましたけど」

檀「150円くらいですかね。それでも安いですね」

角野「当時学生であまりお金がなかったので、ありがたかったです――赤ワインが飲めるようになったのも、パリに行ってからかな」

パリ滞在中には、ショパンのお墓参りもしたそう。
有名な人がたくさん眠る墓地の中、特にショパンのお墓はお花がたくさんあったのだとか。

檀「ショパンの心臓はワルシャワにあるんですよね?」

角野「ワルシャワの聖十字架教会にありますよね。で、胴体はパリに埋葬」

胴体、の表現で笑いをとる一幕も。

角野「そうそう、IRCAMの隣には美術館があって、研究員のパスでフリーで見放題だったんですよ。IRCAMは、世界的に見ても珍しく、研究者よりな人と音楽家よりの人の両方がいるんですよね」

檀「パリはそう言った文化を大事にする国なんですね」

角野「街を歩いていても、伝統的な建物がそこら中にあるので、芸術に興味がない人も、自然と影響を受けるような所でしたね」

檀「パリの街が、ピアニストを生み出したとも言えるかもしれませんね」

角野「綺麗に締まりましたね(笑)」

檀「いや、今日は本当に直前にお話して頂いて、ありがとうございました」

角野「いえ、不慣れですが。明日(郡山公演)は一人で話して下さいと言われているので、一緒に話して下さって、心強かったです」

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番

檀さんと角野さんが一度、舞台袖に消えた後、N響の皆さんが登場。

扉が開いた時に、団員の方々の笑い声がかすかに漏れ聞こえて来ました。
和気藹々とした雰囲気に、直感的に今日のコンサートは素敵なものになりそうな予感がしました。
結果的に、その予想は的中したのですが、どんな感じだったのか、覚えている範囲で綴っていきます。

コンマスの方がピアノの鍵盤を鳴らして、それに合わせて、みんなで音出しをした後、しばらくして、角野さんが、その後ろから尾高マエストロが登場。

角野さんは客席に向かって、腰を九十度まで折り曲げるように深くお辞儀。
その様子をニコニコと穏やかな微笑みを浮かべながら見守るマエストロ。

指揮者の方も色んな雰囲気の方がいますが、包み込むような穏やかさのある、素敵な雰囲気の方に見えました。

角野さんがコンマスの方と握手し、椅子に着席するのを見届けた後、マエストロが指揮台に上がり、程なくして演奏が開始。

第一楽章

ふわっと広がった音は、独特な抑揚や癖のない、まっすぐな澄んだ音色で、すっと胸に沁み入ります。

N響の演奏を生で聴くのは初めてなのに、何ですぐに耳に馴染むのか、と考えてはっと思い付きました。
大河ドラマの演奏で、長年親しんでいるオケの演奏だからじゃないか。
毎年ではないものの、歴史が好きでよく見ていたこともあり、違和感なく聴けたのではないかと納得しながら、演奏を見守ります。

尾高マエストロの指揮は大仰な動きはなく、端的で明快な仕草で、素人の私でも、見ていてわかりやすい。
雰囲気は例えるなら、どんとした大樹のような安定感。
大きく広がった葉っぱの下で、のびのびと皆さんが演奏している感じ。
有名なCMソングの、この木なんの木に出てくる大木のイメージ。

冒頭、オケのみの演奏の時間がしばし続いた後、いよいよピアノの登場。
来るぞ、来るぞとドキドキしていると、角野さんが大きく息を吸う音が。
その直後に澄んだ音色が響き渡ります。

その一瞬で気合いや集中力が伝わりました。
きりりとしたオーラを纏った姿が格好良い。

第一楽章は、二や三と比べて郷愁を誘い、冒頭はやや暗いイメージを個人的には持っていたのですが、今日は明るさを感じる演奏でした。
味わい深さはそのままに、雑味がなくて、すっと胸に届く澄んだ音。

この時の角野さんの音色は、私的な印象ですが、音の輪郭がふんわりしていて、柔らかな光を纏ったような感じがメイン
ときたま、太陽に照らされた水面がキラキラ光るのを具現化したような音や、クリスタルが輝いて光っている様を思わせるような音が現れ、鍵盤上から光の粒が湧き上がってこぼれ落ちていくのが目に見えるようでした。

何と言う美しさ。

時折、オケとピアノの音の余韻を、全員が消えるまで聴き届けてから、次に進む場面が、全楽章通して見られたのですが、それがすごく良い感じでした。
客席も、ステージ上の皆さんも、一緒に曲の世界観に浸ってるような、そんな雰囲気です。

第二楽章

第二楽章中盤で、角野さんがゾーンに入ってるように見えたと言うか、彼が尾高マエストロ&N響さんと一緒に、ホールに魔法をかけたように感じたひと時がありました。

こんな経験は今日初めてなのですが……何だかふわっと薔薇のような良い香りが演奏から漂って来たように思えたんです。

ピアノのキラキラした音の粒に、オケの音が合わさると、ふわっふわっとステージ上から客席に薔薇の花びらが舞って、芳しい香りが……!

ふと鼻をすする音がして、隣の方をチラ見したら、涙を指で拭っておられました。
わかる、その気持ち……!と心の中で共感。

第三楽章

第二楽章の最後の音の余韻を、ホールの全員で聴き届けた後、第三楽章に入る前、尾高マエストロが角野さんをチラ見。

尾高さん「(良いかい?)」

角野さん「(はい)」と頷く。

みたいなやり取りで演奏再開。

がらっと雰囲気が変わって、軽やかに踊るように弾く角野さん。

彼の繊細な演奏も好きですが、リズムに乗った演奏も同じくらい好き、と再認識。
弾く姿が楽しげで、奏でる音色も飛んで跳ねてそう。

明るい光が差し込むような、温かさを感じる演奏で終演。

本当に素敵でした……!
スタンディングされたり、ブラボーの声がけをする方も。

最前列真ん中のおじ様が立ち上がって、うんうん頷きながら、めちゃくちゃ拍手してたのが印象的。
わかる〜と心の中で共感しまくりながら、私も思いっきり拍手しました。

ラモー:「めんどり」

今年はじめのツアーでも角野さんが演奏されていた、この曲。
ラモーもフランスの作曲家なので、選曲されたのかも。

懐かしいなと思って聴いていたら、何だか趣きが違います。
前のショパンのコンチェルトの雰囲気を引き継いでか、鶏さんが居る場所がお城や教会みたいな、高貴な感じで。
その中を生き生きと動き回る鶏さん。

同じ演奏者、同じ曲であっても、こうもイメージが変わって聴こえるのかと、驚きました。
こう言った体験が出来るのも、彼のコンサートに度々足を運びたくなる理由の一つかもしれません。

ストラヴィンスキー:「火の鳥」(1945年版)

1919版は聴いたことはありますが、1945年版は初体験。
冒頭の繊細な音色の響きから、物語の世界にぐーっと惹き込まれました。
大河ドラマの演奏でお馴染みなN響さんだからか、頭の中で映像が次々浮かんで来ます。

魔王カスチェイとの戦闘シーンに入る瞬間、激しいオケの音と同時にマエストロがダンっ!と床を踏み鳴らしたように見えました。

そこからの腹の内から揺さぶられるような音色が、次々と波のように押し寄せて来て、圧倒されました……!

皆さん、格好良すぎ。

RPGみのあるドラマティックな展開で、めちゃくちゃ楽しかったです。

トークタイム

カーテンコール時に、尾高マエストロがマイクを持って、しばしお話されました。

日本のソリストがすごい

「最近の日本はすごいソリストが多いです。特にピアノとチェロ。前は海外からヴァイオリン等のすごいソリストを呼んで演奏する感じだったが、今は日本のピアニストとチェリストがすごい。
最近はあの、亀井聖矢さんと共演しました。彼もすごいソリストですが、角野隼斗さんも素晴らしいソリストで。
彼とは昨日初めてお会いしたんですが、音の粒が素晴らしくて、自由な感じで演奏される。
まあ、合わせる方は大変なんですけども(笑)」

豪華なパンフレット

マエストロ、公演のパンフレットの出来の素晴らしさに驚いていたら、制作はオーチャードホールだったそうな。
(今回の公演はオーチャード定期で、今回だけ横浜みなとみらいホールなのだと、開演前のトークで言われていました)

ストラヴィンスキー:「プルチネルラ」—「セレナード」

「ストラヴィンスキーは、若い頃は激しい音楽ばかり書いていましたが、彼も年々それが嫌になって来て(笑)、とても静かな曲を書きました。新古典主義の頃ですね」
と話してすぐに、アンコール演奏。

確かに、静かで穏やか、味わい深い音色でした。

一番舞台前方にいたビオラの方が、ずっと小刻みに弦を揺らして音を奏でていたのですが、それが何だか郷愁を誘う演奏で、時折ヤギの鳴き声に聴こえたり、不思議でした。

終わりに

公演終了後、歩いているとスタッフさんから声掛けが。
「こちらから行くと、すぐに出られますよ〜」
まさかのショートカットルートが!
こんなのは初めての体験でした。

この日はすぐにとんぼ返りしなければ行けなかったため、帰りの電車に間に合うか心配していたのですが、予定よりもかなり早い電車に乗れたのは、この時のスタッフさんの親切な案内のおかげです。

実はその後、公演の余韻に浸っていたら、一度乗る電車を間違えてしまったのですが、同じ方面に複数の路線から何通りも行く方法があったので、救われました。
コンサートで感動すると、帰り道間違えるのは、あるあるですよね。(私だけじゃないと思いたい)

でも、それくらい余韻に浸っちゃう程、素敵なコンサートで、聴きに行けて本当に良かったなと思いました。

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