【短期集中連載第7回】落ちないための二回試験対策 民裁② 事実認定

 さて,民裁の一番の難関?と思われる事実認定をなるべく簡潔に確認していきます。
 民裁の事実認定は書き方の枠をしっかり頭に入れておくことと,記録中からなるべく多く事実を拾ってきて上手に並べることが重要です。

1 書き方解説② 事実認定

 民裁起案では指定された争点に対して事実認定を行います。争点が複数ある場合には,起案要領が何らかの絞り込みをしていなか改めて注意しましょう。だいたいのケースでは検討対象となる争点(事実)は1つか2つです。

⑴ 争点分析

 まずは検討対象となる争点の絞り込み作業が必要になることが多いです。大きく分けると,

・争点である法律行為(例:契約)のうち,申込みと承諾のどちら(あるいは両方)を実質的に争っているかどうか
・ある法律行為が認められれば,他の争点である事実も自動的に認められるような関係にないかどうか

に着目して,実質的に争点となっている部分を特定する必要があります。特に申込みと承諾に関しては具体的に分析をしておくと評価されやすいみたいです。時間がなければ無理に行う必要もない気はしますが。

 主張分析で争点として書いた事実はたいてい3個以上あることが多いので,設問で絞り込みがある場合は格別,事実認定に入る前に検討対象を確定する作業を忘れないようにしたいところ。

⑵ 判断枠組み

 判断対象が確定したら,次は判断の枠組みを示します。ここはジレカンに掲載されている4類型のどれで判断することになるかを示せばOKです。列挙しておくと,

❶直接証拠たる類型的信用文書があってその成立の真正に争いがない場合❷直接証拠たる類型的信用文書があってその成立の真正に争いがある場合❸直接証拠たる類型的信用文書はないが、直接証拠たる供述証拠がある場合❹直接証拠たる類型的信用文書も直接証拠たる供述証拠もない場合

類型判断のポイントは,
・類型的信用文書の有無
・成立の真正の争いの有無
・供述証拠の有無

です。

 ❶の場合には,直接証拠である類型的信用文書があること,その文書の成立の真正に争いがないことを指摘したうえで,特段の事情がない限り記載内容通りの法律行為の存在が認められると書いたうえで,特段の事情の有無の枠内で事実認定をしていくことになります。

・直接証拠であるかどうかは,体験者性事実対応性を指摘します。
(例)売買契約書はXのYに対する~の意思表示を内容とする文書である

・また,類型的信用文書であるかどうかは,意思表示の際に通常作成される文書かどうかを指摘すればOKです。
(例)売買契約書は売買の意思表示がなければ通常作成されない類型的信用文書である

 難しく考えず,いずれも端的に示せば済みます。

 ❷の場合には,直接証拠である類型的信用文書があること,その文書の成立の真正に争いがあることを指摘し,具体的な争い方を確認します。相手方の争い方としては,

・推定の前提事実(印影がその人の印章によること)を争う
・一段目の推定を争う
・二段目の推定を争う

この3種類が考えられます。1つ目の場合には二段の推定が作用しないこと,それ以外では二段の推定が働いたうえで反証の成否の問題であることを指摘し,相手方が立証に成功しているかどうかという枠内で事実認定をしていきます。

 ❸の場合には直接証拠である類型的信用文書がないこと,直接証拠である供述があることを指摘し,その供述が信用できるかどうかという信用性判断の枠内で事実認定をします。❶❷に比べれば割とあっさり示すことができるのではないかと思います。

 ❹の場合には直接証拠がないことを指摘したうえで,推認力のある間接事実を積み重ねていくなかで事実認定を行っていきます。

 このように,それぞれの類型で事実認定を行う枠組みは変わってくるため,事実の列挙に入る前に枠組み設定をしておかないと評価してもらえないことになります。

⑶ 認定根拠

 民裁の事実認定は,ジレカンのいう「動かしがたい事実」のみを抽出していくことになります。その認定根拠についてもジレカンに書かれていますが,原則として以下の4種類です。

❶争いのない事実
❷類型的信用文書であり,成立の真正に争いのない文書に記載されている事実
❸不利益供述
❹一致供述

 ❶は主張書面,❷は書証,❸❹は尋問調書から拾ってくることになります。有利な事情,不利な事情,両方からなるべく多く拾うようにしたいところ。

 また,ジレカンには記載がなかった気がしますが,❺弁論の全趣旨として以下の事実も認定根拠に登場します。起案の講評などでしれっと出てきたような気がするため,注意が必要です。

・契約書などがないこと
・証人の不利益供述
・証人と相手方の一致供述
・相手方が不知としつつも特段争っていない事実

 なお,会社が当事者である場合の代表取締役の尋問は当事者の尋問と同様に考えて差し支えありません。会社の従業員の尋問など,片方に与する証人の供述は当事者に準じて事実認定に使うことができますが,その際に❺の弁論の全趣旨をかませる必要があるようです。

⑷ 事実認定

 事実をある程度拾ったら,一定のまとまりごとに事実を並べ,結論にどう影響するか評価をしていきます。

 最低限❶事前の事情,❷当時の事情,❸事後の事情に分けて検討するようにと口酸っぱくいわれると思いますが,まずは確実にこの3つには分類するようにしたいところ,そのうえで,可能であれば動機,原資,〇月〇日の事情,甲〇号証の記載内容,事後の行動,などというように更に細分化して検討することが望ましいです。ただ,不合格回避の観点からは事前・当時・事後の3分割ができていればまず問題ないように思います。

 事実を示したあとは,それらから何が言えるか,どちらのストーリーに整合的かという評価を忘れないようにしていきましょう。この評価の仕方は事実1つに対し逐一評価を加えていくパターン,先に事実を列挙してあとでまとめて評価するパターン,いずれでも大丈夫です。評価をする際には,結論を支持するような要素だけでなく,結論に反するような事情があるかどうかにも留意して論述してあげると伸びやすくなります。

 最後に総合評価として,特に重要な事実を挙げたうえで結論への推認力がどうなっているか評価しましょう。ここでも一方的な見解だけでなく,バランス感覚を示した方が良さそう。

 

 次回は民裁の具体的戦略のコーナーです。

 

(続)

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