平和的Cookieの作り方

<材料>
無塩バター 120g 砂糖    80g
薄力粉   200g 卵黄    1個

※全部ゴムベラでオッケー
<作り方>
1.無塩バターをクリーム状に練る
(固い時は10秒ずつ温めて柔らかくする)
2.砂糖を入れてすり混ぜる。卵黄も入れる。
3.薄力粉を振るって入れて、さっくり混ぜた後
 擦るように混ぜる。
4.ラップに棒状に包んで冷蔵庫で5.6時間ほど
休ませる。
5.休ませた生地を1cm幅に切りながら、
 オーブンを150度に余熱。20分〜25分焼く。








私が、数年前に亡くなった母の遺品を整理していたら出てきたメモには、一つのレシピが書いてあった。

なぜ私が何年も前に亡くなった母の遺品を整理してるのかは、今朝の出来事が原因だ。
私には、もうすぐ小学生に上がる口が達者になった娘と、几帳面で少し口うるさい妻がいる。
せっかくの週末、やれどこかに連れて行け、やれ娘と遊んでやれ、と小言を言われ続けてきたが、こちらとしてもせっかくの週末だ。家でゆっくり休みたい。
しかし、とうとう娘からも出かけたい遊びたいと喚かれ、「よし分かった!!」と出かけた先が、今は私の姉が管理している両親が住んでいた持ち家だった。

実は少し前から遺品整理を手伝えと連絡が来ていたが、仕事の忙しさを理由に逃げ続けてきたのだ。まぁここへ来たのも、半ば私の姦しい家族への当てつけのつもりだ。約束通り出かけてやったぞという、ちょっとした反抗心だった。

思えば、私は両親が生きていた時間のほとんどが反抗期だったと思う。多少丸くなったにせよ、それは今も変わらないな、とふと思い、それが少し可笑しかった。

「何笑っとんね?」
顔に出ていたのか、麦茶が入ったコップを差し出しながら姉が話しかけてきた。
「いや、別にね」
姉とは仲が悪いわけでもないが、当時の反抗期の名残かそっけなく返してしまう。ちょっとバツが悪くなり、慌てて話題を変える。
「そういえば、娘たちは?」
さっきから姿の見えない娘と妻の居所を聞けば、少し前に娘が駄々をこねて、近所の河原まで遊びに行ったらしい。何もない田舎だから遊ぶものもないのだろう。今更になって悪いことをしたな、と思った。まだ遊び盛りなのに、休日を家で過ごすのもつまらなかっただろう。

「あの河原といえば、昔アンタが足滑らして溺れる〜!!いうて叫んだことあったなぁ」
姉が意地の悪い顔をしながらニヤニヤ笑う。
「ほんで、おかんが急いで助けに行ったらアンタ、めちゃめちゃ浅いとこでさ。足がつくどころか膝くらいまでしかつからん浅瀬で溺れとったん、あれは笑ったわ〜!」
堪え切れなくなり、声に出しながら笑い出す姉に苦笑しながら、そんなこともあったな、というかよく覚えてたな?と呆れた。
「あんときはまだアンタも素直で可愛かったやね。覚えちょる?泣きながらおんぶされて帰ってきて、アンタがずっと泣きよるき、おかんがクッキー焼いてくれたの」

そう姉に言われて、あっと思い、手元の紙切れを見る。
そういえば、そうだったな。

なるほど、そうか、これはあの時の……

「なぁ、姉ちゃん」

考えるより先に、私は声を出していた。



「ただいま〜。もうびっちゃびちゃよー、タオル持ってきてー!」

玄関の扉がガラガラと音を立て、廊下を通して妻の声が響いた。
僕はキッチンから顔を出し、おかえりと声をかける。残念だが手を貸せる状況ではないことを身振りで伝える。
姉が代わりにタオルを持って行き、娘のびしゃびしゃになった頭をわしわしと拭いた。
「なんかいいにおいするね、ママ」
娘がキョロキョロと辺りを見渡す。さすが僕の娘、食べ物に関しては目敏い、いや、鼻敏い。
「おばちゃんとクッキー作ってみたんだ」
焼き上がったクッキーを乗せた皿を見せると、娘は目を輝かせた。
「こーら、手を洗ってからね」
はーいと返事をしながらバタバタと走っていく娘を見届けながら、妻は僕をみて続けた。
「急にどうしたの?片付けしてたんじゃなかったの」
「まぁ、ちょっとね」
なんと伝えていいか分からず、曖昧な返事を返した。
「何十年ぶりの親孝行ってやつかも」


「おいしい!」
両手に持ったクッキーをぱくぱくと放り込みながら、満面の笑みを見せる娘。ちょっと焦げたものもあるが、それもご愛嬌だ。

「お袋のさ、レシピ集を見つけたんだ」
先ほどの妻の質問に、ゆっくり、ゆっくりと答えていく。
「反抗期ばっかでさ、飯なんて菓子なんかで済ませてたけど。毎日欠かさず弁当を作ってもらってたっけ」
「あんた弁当だけはちゃんと食べてたもんね〜」
「学生は常に金欠なんだよ!」
古臭い煮物が多く、華やかなおかずなんて滅多になかったけど、食べ盛りの胃を満たすほどの弁当だ。僕にとってはお袋の味と言えるものだった。
「なんか懐かしくなっちゃってさ。…なぁ、これさ、うちに帰ってからも少しずつ作っていってもいいかな?」
僕が出した提案に、妻は目を見開いた。
「めんどくさがりのあなたが珍しい。もちろん私は大歓迎よ、ご飯を作る手間も省けるし?」
ふふっといたずらっぽい顔をして、妻が笑う。
「パパ、ご飯作るの?わたしもいっしょにやりたーい!」
娘もご機嫌な表情で僕に戯れ付く。二人のこんな顔を見たのは久しぶりな気がした。これからはもっと家族のことを見ていこう。妻も娘も、ここにはいないお袋のことも。


「そういえば、なんでお前も一緒にびしょ濡れになってたんだ?」
「そうそう!あの子ったら、苔で足滑らせて転けちゃって。ママ助けてー!溺れるー!!なんていうから急いで近寄ったら、足がつくどころか膝までもないくらいの浅瀬なの!」
僕は姉と顔を見合わせて二、三度瞬きをして、堪え切れず二人とも吹き出してしまった。全く、誰に似たんだか。


おしまい。







………ン…ド……ドド……


ドン…ド………ドドン…ト…ン




ドンドンドドンドトロオドン!!!!


「ばあちゃん!もうやめてくれよ!!」

「黙りな!タカシ!!マザーとお呼び!これは村神・戸露王首領様に祈りを捧げる大切な儀式…!!!いくらお前でも止める事は許さないよ!!」

「だからって…だからってこんな格好しなくても…!!!」

「全裸で新品のニューバランスの靴を履き、フランス製のオシャレなステッキを振り回して舞を舞う…戸露王村はこうして戸露王首領様に守ってきてもらったのさ。今更この334年の歴史を変えるなんて事は出来ないよ」

「なんでばあちゃんがこんなことしなくちゃいけないんだよ!サトルくんちのミチコさんだっていいだろ!ミチコさんがいいよ!!誰が皺くちゃのババアの全裸の舞なんか見たいんだよ!!金払え!!」

「マザーとお呼び!!ボロボロになった歯も黄疸が出た目もこの村にゃ104年住んでるワシしかおらぬのじゃよ!!巫女は代々、戸露王首領様に近しい姿をした者を選んでおる!この格好もその為さ!年金は使い切ったよ!!」

「タカシくん、マザーは今、村の危機のために待ってくれているの…分かってあげて?」

「ミチコさん……」

村の皆が見上げる先は4K250インチの画面に映し出されたヤクルト対オリックス戦。4対5の終盤戦だ。このまま逆転劇を狙えるか否か、首首領ヶ首領音頭が響く中、戸露王村の皆は固唾を飲んで見守っていた。

「この試合、負ければ戸露王首領様の悲しみと怒り、この世の憎しみと憎悪を纏った嵐が起こる。その災厄を止めるために今、マザーは身を差し出しているのよ」

「ばあちゃん…いや、マザー…」


キャンプファイヤーと4K250インチモニターの明かりに照らされたマザーに祈りを捧げる村人たち。戸露王村の夜が更けていく………






次回はトロオドン夢小説です。お楽しみに。

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