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暗い気持ちなら静かな映画を

少し前までは、落ち込んでいる時や気分が暗い時、正反対の明るい曲を聴いたり、明るい映画を観るようにしていた。その方が明るい気持ちになれると思っていた。

以前友人から、暗い気持ちの時は暗い映画や音楽を聴くようにしている。という話を聞いた。
その当時は、いま暗い気持ちなのになぜ暗い映画や静かな音楽を聴くのかよく分からなかった。
余計に暗い気持ちになるのではないかと思っていた。
けれど、いま気持ちが少しわかるような気がして、ふとその話を思い出した。

しばらく体調が優れず気分がのらない時に『ケイコ 目を澄ませて』という映画を観た。
両耳が聞こえない主人公のケイコがボクシングをする映画だ。
普通の映画とは違うところ。
それはこの映画にはほとんど音楽が流れなかった。聞こえてくるのは環境音、生活音だけ。
ボクシングミットの音、高架下で響き渡る電車の音。唯一の音楽は弟の弾き語りのシーンのみ。

主人公の母がボクシングをしている娘を、写真で撮るシーン、主人公が今まで話をしていなかった弟の恋人とコミュニケーションをとったシーン、ケイコの日記と最後の試合のシーンは自然と涙が流れていた。

なぜ主人公はボクシングを続けているのだろう。なぜ始めようと思ったのだろう。
最後までケイコから語られることはなかった。
答えは出なかったけど、人にはわからない、伝わらない気持ちがケイコにはあって、上手くかわしたり、乗り越えながらこれからも日々を送っていくのだろう。
映画が終わった後、そんなことを考えながら、やっと外に出る気持ちになった。

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