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都営地下鉄一筆書きの旅

「JR大回り乗車」や「青春18きっぷ利用の旅」等を代表に、鉄道を利用した様々なチャレンジが行われている。動画共有サイトを開けば、多くの鉄道ファンが「最長レコード」等に果敢にチャレンジする姿を垣間見ることができる。そしてそのレコードも既に確立されていることが多く、誰かがそれを実行したからと言って、注目を集めることはよっぽどのことがない限り難しいだろう。

今回私が実行したのは都営地下鉄一筆書きの旅という、タイトルだけでもつまらなさそうな地味なものである。都営地下鉄は合計4路線と路線も少なく、大廻り乗車は浅草駅ー蔵前駅間、一筆書き最長距離、および最大駅数乗車は、共に大江戸線の光が丘駅から新宿線本八幡駅と答えは出ている。さらに、地下鉄は文字通り地下を走るため、JRのように景色を楽しむことも望めない。都営地下鉄は地下区間は圧倒的に多い。

それでも、一筆書きの最大駅数に挑戦したいと思うのはなぜか。こういった酔狂な物事には大抵理由は無い。誰にもわからないが、やりたいという欲求が、ただただ湧き上がってくる。大げさに言えば、人間ってそういうものではないだろうか。人によってはくだらない、意味のない物事であったとしても。旅もまた同じ、もちろん大げさに言えば。
旅の形は人によっても異なる。だったら、これが私にとってのささやかな旅でもいいじゃないか。この旅は、13:00に西高島平ではじまり、16:57に見沼代親水公園で終わる。そんな小さな記録である。

ルートの選定

都営地下鉄には4つの地下鉄路線があるが、大江戸線、三田線、淺草線が他の路線と接続しない終着駅を持つ路線で、それぞれ光が丘駅、西高島平駅、西馬込駅がそれに該当する。いろいろなパターンが組めそうではあるが、最長距離、最長駅数は、共に大江戸線光が丘駅から新宿線本八幡で59駅、64.2km、430円だが、経路はといえば、光が丘~都庁前~大門~新宿~本八幡と、大江戸線全線を乗車し、最後に新宿から本八幡まで乗りとおすという、極めてシンプルなルート。そしてやる前から「おもしろくなさそうであること」が明白である。

今回は、最長ではないけれど、限りなく最長と、限りなく最大駅数リーチ数という非常にいい加減なルールで進める。重複しないのに同じ列車に乗車するところがあったいすると、醍醐味がありそうに見えるかもしれない。何か明確な記録をつくらないとうことは、このようなメリットもある。取り敢えず、23区最北端の駅西高島平駅から、千葉県本八幡駅へ向かうことに決めた。

出発駅へ

都営三田線西高島平駅は、他の路線と接続をしない行き止まり駅である。なので、西高島平を起点にするためには、いったん西高島平まで乗車しないといけない。私は山手線との接点である巣鴨駅から向かう。片道22分。

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いったん西高島平まで向かい、仕切り直して、今回の目的の遂行開始となる。尚、片道切符で乗れる最安値とかの記録にもこだわらないし、もし間違えって不正乗車になってしまっては困るので、「都営まるごときっぷ」という東京都交通局の電車、バス、都電に乗り放題の一日乗車券を購入した。

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三田線 西高島平13:00~春日13:29

さて、西高島平駅についた。お昼もまだだったし、終点駅だから駅前に何かしらあるよねと何も情報を持たずに駅を降りる。駅前には、「スリーマート」というコンビニみたいなスーパーが1件あるだけで、それ以外の飲食店はすぐに見つからなさそうだった。そんなわけで小腹をすかせた状態で、一筆書きを開始する。

券売機の上に掲示された路線図、料金表で見ると、都営地下鉄って4路線ながら守備範囲が広いと改めて思う…。430円の切符って誰が買うんだろう。

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そんなことを考えながら1番線ホームへ向かい、13:00発白金高輪行きに乗車する。念のため、普通に言った場合、どれくらいの時間でいけるのか確認してみたところ、神保町で新宿線に乗り換えれば、1時間後の14:09には到着できるみたい。

途中、志村三丁目までは地上を走るので、元来た道を戻るだけでありながらも、それほど退屈はしない。志村三丁目なんかは高台に家やマンションが建っており、「耳をすませば」的な雰囲気が漂う。しかし列車はすぐに地下にもぐってしまう。

あと社内アナウンスで気になったこと。「白山」だが社内放送では「サ」にアクセントを置いて放送されていた。私は「ハ」にアクセントだとばかりおもっていたので、「たくさん」みたいにアナウンスされているのが衝撃だった。

大江戸線 春日13:33~蔵前13:40

蔵前では、大江戸線と浅草線に乗り換えができる。乗り換えができるといっても、同じ駅構内ではなく、いたん地上に出ての接続である。人形町=水天宮前とか、築地=新富町のように名称が異なる駅間であれば、地上の乗り継ぎもしょうがないと思うのだが、同一の駅名のケースで地上乗り換えはちょっとどうなのかなと思う。しかも距離にして290m。慣れていない人で迷い人も出るレベル。60分以内の乗り換えだけど、昔は30分以内の乗り換えが条件だったような気がする。60分あれば、食事もして、買い物もできる。駅間には、ラーメン屋やファーストフード、おもちゃの問屋などがある。私はラーメンを食べ(無料のライスまで)、浅草線のホームに到着したのは14:00ちょうどだった。

浅草線 蔵前14:06~東日本橋14:09

蔵前のホームにつくと、次の列車は通過列車だった。エアポート快特だろう。次の14:06発の三崎口行きに乗車をする。この後1時間以上かけて蔵前から森下に向かうのだけど、森下まで大江戸線に乗ればわずか2駅6分である。

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いったい私は何をやっているんだろうか…。

新宿線 馬喰横山14:18~新宿14:29

東日本橋と馬喰横山は乗り換え可能駅。ちなみにJR総武快速線の馬喰町駅も同様に乗り換え駅。3つの路線が乗り換え駅にも関わらず、それぞれ別な名称を名乗る。馬喰横山はダンジョンのように深い駅で、結構歩いた。ちなみに乗り換えのJR馬喰町駅は、国鉄時代、もっとも深い位置にある駅で海抜-30.58mだったらしい。しかし、後に高さが−27.14mに修正され、−29.19m京葉線東京駅ができたことにより、その座を譲ることになる。3メートル修正って、いったい何があったんだ…

あと、この駅名、当たり前のように読んでいるけど難読駅らしい。

大江戸線 新宿14:36~森下15:08

新宿線から大江戸線の乗り換えは、絶対に迷わない導線だった。

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今回は大江戸線に乗り換えるのが目的だからいいんだけど、ここまでアピールされると、新宿駅で降りたい場合、この階段の向こうに、出口が本当にあるのか自信がなくなってしまう。

新宿線(急行) 森下15:21 本八幡 15:43

一本前の電車があったが、今度は急行。岩本町で抜かされるので、後続の急行を待つ。

東大島で地上に出た。江戸川を超え、江戸川区に入る。とまたすぐに地下にもぐってしまった。

千葉と東京を結ぶ路線は多くあるが、中でも総武線のバイパス線として利用されているものだけでも、5路線あるのではないか。総武快速線、都営新宿線、京成線(+浅草線と北総線)、京葉線(+武蔵野線)、東西線(+東葉高速線)。

東西線が総武線のバイパス線として開通したとき、沿線はまだ宅地開発されておらず、地上に真っ直ぐな線路を敷くことができたそうだ。その後急速に開発が進み、今となっては日本有数の混雑路線となっている。その後遅れること新宿線が開通するわけだが、そのころには宅地開発が進んでいるため江戸川を越える箇所のみ地上を、それ以外の区間は、地下に建設せざるを得なかったのかもしれない。

上記のどの路線も高い乗車率を誇っているわけだが、平日の日中ということもあり、列車が本八幡に着くころには、私の乗車する車両には誰も乗車していなかった。そして列車は15:43、本八幡に到着する。55駅、57.5kmといういささかな中途半端な移動である。

京成本線(快速特急) 京成八幡16:04 日暮里 16:24

本八幡で終わろうと思っていたのだけど、せっかく「都営まるごと切符」を購入したので、最後に日暮里・舎人ライナーを終点の見沼代親水公園まで乗ってみようと思う。都営線を戻って乗車しようとするとなると、三田線の王子、そして王子駅前から都電荒川線で熊野前、熊野前から日暮里・舎人ライナーとなるのだが、今回は一筆書きがテーマであったので、別途乗車券を購入し、京成本線で日暮里まで向かうことにした。

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京成八幡をでると、高砂、青砥、日暮里とわずか3駅である。快速特急の名に恥じない飛ばしっぷりの列車種別である。成田空港から都心に出る方法としては、本線経由よりも、スカイアクセス線経由のほうが早いのだが、料金が安いこともあり、本線のほうでも外国人旅行者と思しき姿が、ほんの少し前までは多くみられた。大きな荷物で溢れた車内の混雑っぷりが、もうずいぶん前に感じる。外国人旅行者が成田について、最初に乗る列車が京成であることも多いが、今はスカイライナーも含め、空港アクセスとして京成電車を利用する方も格段に減ってしまったのは、なんとも寂しい限りである。日本からのアウトバウンドもそうだが、インバウンドが回復するのも、まだ時間がかかるのではないだろうか。

日暮里・舎人ライナー 日暮里16:35 見沼代親水公園 16:57


日暮里・舎人ライナーは、ちょうどラッシュが始まる時間帯であったため、車内は混雑していた。

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車両が小さい…ここまで混雑することを、東京都交通局は予想することができなかったのだろうか。赤土小学校前と西日暮里間は、日本有数の混雑区間である。鉄道関係で「日本有数」の場合、それはイコール「世界有数」であることが多々ある。

Googleで調べてみると、案の定そのようなニュースがでてきた。CNNによれば、「グーグルマップ」に公共交通機関の混雑を予測できる新機能が加わり、ユーザーから寄せられた情報をもとに、世界の主要路線について混雑状況を比較するランキングを発表したようで、ブエノスアイレスやサンパウロなどのメガロポリスの地下鉄が並ぶ中、日暮里・舎人ライナーは9位にランクインしていた。

参照:https://www.cnn.co.jp/travel/35139401.html

そんな列車に揺られ、16:57、日暮里・舎人ライナーの終点、見沼代親水公園に到着をする。ここで目的を果たしたことによって、小さな旅も終了する。

終わりに

本来であれば、より早く、より快適に移動をしたいと思って然るべきではあるが、こうして遠回りをすることによって、普段見えないものが見えてくることもある。通勤、通学で利用することが多い地下鉄という移動手段を、目線を変えればそれは小さな旅にも成りえるかもしれない。

この世の中につまらないことなんてなくて、それはつまらない見方があるだけだと思う。もちろんそれは「興味」という言葉で置き換えることができ、たいていの人が興味を持たないものであっても、人に興味を持ってもらえるかは、二の次、三の次であって、誰かに迷惑をかけなければ、自分の世界で楽しめればそれでよいと思う。でも、誰かとこういうことを共有出来たらいいな、とも思う。だから文章としてこうして残すことにする。


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