シーソー

 シーソーは傾いたまま、びくともしない。

 彼女は笑いながら足をぶらぶらとさせ、

「今朝ねえ、初めて歯を削ったのよ」

 と言った。虫歯だったの。物凄く大きな穴が開いててね、歯にセメントを入れられたの。彼女は饒舌に話す。わたしは地面に足をついたまま、

「じゃあ、あなたは今日少し、石に近付いたのね」

 と、応えた。

 シーソーはびくともしない。わたしはいつも下で、彼女はいつも上。

 身長も体重も、彼女の方が大きいはずなのに(しかも今日彼女は石に近付いたのに)、彼女の方がいつも上にいるのは、わたしがシーソーの一番端に座っているからだ。もう少し前に行けば釣り合うのに、

「このままでいいの」

 と、彼女は笑う。

 何が良いのか、さっぱり理解ができなかった。そもそもシーソーというものは、お互いの重さがつり合ってはじめて成立する遊具ではないのか。こんなにびくともしないシーソーに乗って、彼女は一体何が楽しいのだろう。

 ほんの少し、あと少しだけ彼女の方へ行くことを許されたなら、きちんとつり合うはずなのだ。

「ねえ、そうじゃない?」

 わたしが不満気にそう言うと、彼女は一瞬きょとんとして、

「別にいいじゃない」

 と応えた。

「何が」

「つり合わなくても」

 平然と彼女は答え、空を見上げて少し笑った。

「あたし、ここが良いもの」

 ここで空の近くにいるのが良い。そのためには、あなたはそこにいてくれなくちゃ。

 彼女は屈託のない笑みを浮かべて、わたしに言う。わたしは彼女を見て、何か言おうと考えて、考えて、

「……わかったよ」

 口を尖らせた。

 シーソーは変わらず傾いたまま、びくともしない。

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