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2022.8.14 映画『PLAN75』

 75歳以上の志願者が対象の安楽死政策を始めた、日本が舞台のフィクション映画。
炊き出しで人を集め、PLAN75に勧誘する。その日を迎えるまで毎日15分間は電話で若い人に話を聞いてもらえ、お小遣いの10万円までもらえちゃう。
78歳で独居のミチさんは長年勤めたホテルを突然解雇され、数少ない友人も亡くなってしまう。頼みの綱の生活保護受給もうまくいかず、ハローワークでパソコンを使うのもままならない。一人ぼっちで公園のベンチに座っているとPLAN75の炊き出しを勧められるのだが、偶然のようで故意なのだろう。すでに社会問題となっている高齢者の貧困と社会的孤立の現状を理解した上で提示される、短絡的なディストピアを見ているようだった。ちゅうちょなく加入を希望したミチさんは、心を揺らすこともなく処置室にいるのだが、なぜか上手に脱走して朝日を見る。東北の住んだ空気と早い冬の訪れが物悲しく、生きていることすら幻のようだった。

 途中からは所々で胸焼けがするような展開で、ミチさんに苦難が次々と訪れる。フィクションだと思いたかったが、おそらく現実でも近いことが起こっているのだろう。PLAN75を促進する立場の物語も並行していて、他人と身内のグラデーションパターンを描いているのが面白い。血がつながっていても会わない身内、教会を通じた仲間の思いやり、仕事上のつながり、電話でしか話したことない関係・・・などなど。人と人との様々な関係性の中で、孤立を生まないためにはどうすればいいのか考えさせられる。超高齢化社会の行く末で、未来の自分はどうしているんだろうか。もはや草花のような存在でもいいから、誰かが存在して返答してくれるだけで充分に満足するような気もする。その頃に感情は揺れるだろうか、それとも何も感じなくなっているだろうか。ラストシーンでミチさんと同じ朝日を見ながら、なんでもいいから生きていってほしいと願った。こんなにも強く生を願った映画は、いつぶりだろう。

 市役所職員の磯村勇斗は、最近よく社会派の良い作品に出演している気がする。前月は映画『ビリーバーズ』で、孤島で修行中の新興宗教の中の人を演じていた。独特な作品の中で自然に振る舞っているのが面白い。また、この映画は日本・フランス・フィリピン・カタールの合作で、日本人女性が監督していたりと、なぜこのようなユニークな成り立ちなのか知りたいところである。フィクションではあるが、上質なノンフィクションを見ているようで、こういう映画をもっと観てみたいと思った。

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