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死にたい気持ちを受け止める研修会を対人支援職向けに企画した時に考えたこと

人のサポートがミッションの対人支援職は、たくさんの方とお会いし、対話を重ねます。その際、ときに深く重い語りと直面することもあります。
「これほど苦しいならいっそ…」といった、積もり積もったこらえきれない思いに触れる機会が、他の仕事と比べると少なくない回数あることも、対人支援職の特徴といえます。
そういう事象に備えた日頃からのトレーニングが、対人支援職にとってはめちゃくちゃ大事なんですね。

先日、対人支援職の課題を解決することを目的に立ち上げた団体主催で、「死にたい気持ちを受け止め、支援する」という研修会を行いました。
(団体の説明は長くなるので省きます。HPTwitterなどがアクティブです)

死にたい気持ち研修会1枚チラシ (1)
『「死にたい気持ち」を受け止め、支援する』研修会のチラシ


基礎編194名、実践編195名と、それぞれたくさんの方に受けていただけた一方、企画に苦戦した研修会でもありました。
今回は、企画段階で考えていたことなどの、後日談というかおまけのようなものを書こうと思います。
専門性は薄いので、よしなにお読みいただけると嬉しいです。

軽い内容の紹介

研修会は主に、統計/データ/エビデンスとその解釈が中心の基礎編と、現場で活用するツール紹介やロールプレイ視聴が中心の実践編の二段構え構成。長時間受講で集中力低下しないよう、二日に分け開催しました。
自死等の研究/分析に携わってこられた福島医科大学の竹林由武先生に基礎編を、日赤医療センター救命救急で緊急支援を続ける秋山恵子先生に実践編をそれぞれご担当いただきました。
通常録画視聴者が圧倒的に多いんですが、この時は当日参加が60名近く、チャットがかなり投稿されるなど熱量のある会になりました。

はがゆいのよ、そのタイトル

研修会を企画する際、一番時間をかけるのがタイトル決めです。
例えば「上手くなるための料理教室」とつけると腕磨きが周知の目的になりますし、「楽しむための料理教室」とつけるとアミューズメントっぽい雰囲気の場になるように、タイトルは、研修会の場の構造を決めるもので、研修会を開催する上でとても大切な要素だと考えています。

今回、そんな大事なタイトル付けのフェーズで激しくつまずきました。
いいタイトルが思いつかず、続く高橋真梨子さん状態(はがゆい唇の意)。
先人の知恵を拝借すべくリサーチしたところ、業界内研修会では「自殺予防」と記されることがほぼ定石のようで、大半のタイトルに記されていることがわかりました。(ex.自殺予防研修会など

自死の予防は、支援職が持つ重要な役割です。生きる術が見つからず、選ばざるを得ない死は悲しい。
ただこの「自死を予防する」という視点が、どうも腑に落ちない感じが漠然とあり、この状態で先には進めなかったので、そのことに考えを巡らせることにしました。

自死は「予防」するもの?

会内で「希死念慮のある大学生」のロールプレイを行なったんですが、セラピスト役である実践編ご担当の秋山先生は、慌てず落ち着きつつ、ただ、伝えることはちゃんと伝える、ということを丁寧にケース内で取り組んでいました。
先生が持つやわらかさの中にしなやかな強さもある、みたいなハイブリットさが、臨床に大きく影響を与えているなと感じた場面でした。(ロールプレイすごく良かったから是非みて欲しい
自死予防支援の文脈においてすれば、持っている知識を活用しつつちゃんと向き合う。そして伝えるべきことは伝える軸を持つ、といった印象。
あくまで個人的な解釈ですけど、そうして支援にあたった結果が予防、という結果であり、この順番って結構大事なんじゃないか?と思ったんです。

「予防しなければ、なんとかしなければ!」というスタンスと、ニュートラルでありつつ「あなたのことが心配だからできるだけサポートしたい」というスタンスの違いというか。
この違いは、支援を受けたクライエントさんにとってはきっと大きい。
「自死の予防」という観点が(支援職の意図なしに)クライエントさんの思いの否定となる可能性も、同時によぎりました。

この辺りに考えを巡らせ、ようやく、「予防」という単語をタイトルの一部にし、企画の顔にすることの違和感の、解像度が上がった感じがありました。

支援職にあるバイアスのエトセトラ

ではなぜ「予防」を前面に出しがちなのか。これは自分の支援経験でも身に覚えのあることで、想像を働かせやすかったです。

扱うのにちょっとエネルギーが必要な「死」というトピックは、講義で話に触れるだけでも気持ちがざわざわしたり肩に力が入り、他トピックと比較しても学びへのハードルが高いです。(少なくとも僕はそうです
そしていざ希死念慮を扱うとき。不測な状況に、なんとかしなければ!防がなければ!と焦る。
ここには、備えようと思えば思うほど、学びや介入のハードルが上がる構造が存在するように思います。

思い込み(いわゆるバイアス)は、その管理が求められる支援職といえどやはり介在はされるもので、僕自身も支援場面に当たって経験しました。
このざわざわする高いハードルとバイアスを、なくすというよりは適切な負荷に変える、ということができないかな、というところも、企画の指針の一つになりました。

終わりに

「予防」という単語を使わず、ハードルを下げ、魅力的なタイトルをつける。
いろんな人に意見を求めまくり、歯がゆい状態だったタイトルや企画が、ようやく形になりました。
(余談ですが、タイトル付けに時間がかかった理由が、noteを書くことで、半年の時を経てようやく明確化されました。分析と振り返りって大事!

このタイトルや企画内容が最適解かはわからないですが、講師お二人のしなやかで優しく、強い感じが伝わるよう名付けたつもりです。
(開催自体がチャレンジングだったのでSNSで叩かれるんじゃないかとビクついていたのは秘密です

「学びのインフラの整備」を研修会事業のミッションに掲げていますが、学びとは、知識提供のみならず、バイアスの変容や、新たな価値観の創出も含むと確信しています。
これからも良い学びの場になるよう、邁進していきたいと思います。

noteの最後に、会の雰囲気が少しでも伝わるよう、僕が事あるごとに見返しホクホクしているご参加者様のご感想を掲載します。
改めて、ご参加いただいた皆様、そして運営からの無理難題にノリノリで応えてくださった竹林先生、秋山先生、ありがとうございました。


“厳しい臨床の現場の実際を真っ向から扱った内容でありながら、研修会の雰囲気は終始穏やかで、しかしもちろん変な慰め合いではなく、きちんと支援者としてできることについて、静かに整理させていただく機会となった時間でした。”

ロールプレイを見ながら、自分だったら先生のように柔らかく丁寧に、でも重要なことは伝えるというのが難しく、すごく参考になりました。また、「深入りする時は計画性と覚悟を持つ」という言葉が印象に残り、重要なことだからこそ、しっかりと触れないといけないと思いました。明日からいかせる内容ばかりで、参加できて本当に良かったです。どうもありがとうございました。

先生たちのロールプレイや、具体的な言葉選び、また、ノンバーバルな面も、画面越しでも気持ちが伝わってくるような接し方…態度など、大変勉強になりました。心理の仕事をこの先続けていけるのかな、とバーンアウトになりかけていた自分がいたので、改めて明日からまた頑張ってみようという気持ちになりました。本当にありがとうございました。

「死にたい気持ちを受け止め支援する研修会」事後アンケートより抜粋

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