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50TAこと奇才・狩野英孝

発端。

テレビ朝日の放送50周年企画として『ロンドンハーツ』が2009年2月3日放送のSP番組「50年に1人の勘違い男、ボク芸人やめますスペシャル」を企画する。内容は、前回のドッキリで自作の曲を歌唱した狩野英孝にCDデビューの話を持ちかけ、アーティスト名も「50TA」書いて「フィフティーエー」と名付け、曲を作詞作曲させ、仕掛け人の1000人の観衆の前でコンサートを行い、最後は落とし穴に落とすという大型ドッキリ企画。アーティスト名の「50TA」は、仕掛人の田村淳の指示を受けたプロデューサーから提案された。

そんなこんなで、50TA(狩野英孝)によるスタジオアルバムがこの世に存在するわけです。サブスクにもあります。僕はこっちで聴きました。

とある友人がしきりに、それはもうしきりに薦めていたので聴いたのですが、非常に評価に困るというか、低レベルな水準を保ちつつも何か突っ込みたくなる珍作となっております。

とりあえず、1曲ずつ見ていきましょう。地獄へのスタートレイン片道切符だ。

1. スタートレイン

「スタートレイン発車いたします」の声と共にアルバムスタート。ギリギリアウトな歌唱を披露するが、サビには意外性がある。「自動改札に引っかかる 彦星を見て 織姫ひそかに笑う2人の純恋歌」という歌詞は脱力しそうになるが、実はスタートレインが走る天の川の光景を、あの有名な曲の冒頭に繋げる意外なパスワーク。何というクソ作詞テクニック。パスされた湘南乃風としては迷惑極まりない。オープニング曲が列車の歌ということで、筋肉少女帯『レティクル座妄想』を思い出すが、全く関係がない。

2. ノコギリガール~ひとりでトイレにいけるもん~

現代のGIRL NEXT DOORというべき(?)あまりにもべたべたな打ち込みと、一から十まで滑り散らかす歌詞が特徴。あと狩野の歌詞は滑るだけでなく、韻を踏んだり字数を調整するといった概念がなく、何かの替え歌なんじゃないかというくらいメロと連動しない。基本的に狩野の歌唱に褒めるべき点はないが、大サビの前の「ほんとこの世は」のところだけはエモを感じる。

3. インドの牛乳屋さん

インド人へのヘイトソングなのでは?と疑問に思わざるを得ない歌詞だが、構成はかなり特殊。いわゆるJPOP的な枠にはまるアレンジではなく、かといって本格的にインドかというとそうでもない。っぽさを詰め込んだだけ。というか本当に、インド人に何の恨みもなくこの歌詞書いたのか狩野英孝。

4. GO TO HEAVEN

岡村靖幸が歌ったら名曲になりそうなタイプの曲。あるいは00年代初頭のSMAP。意外と真面目に作ってあるので、いじるようなコメントがしづらい。

5. 50TAラップ~東京寄り道メロディ~

Greeeenがドラッグキメながら作ったようなトラックとラップ。ラップというかちょっと節の付いた朗読。だって韻とかないし……。サビではいきなり無駄に歪んだギターが入ってシューゲっぽい雰囲気になる。これがエレクトロシューゲ!? マジでその意図が不明。

6. HOT WATER

アレンジは謎のテンポチェンジや色々な曲調を挟むことで、ロボトミー手術で倫理観を失ったヒャダインのような仕上がり(友情がどうとか言ってるせいかもしれない)。歌詞は虚無。全てが虚無。逆にここまで虚無を錬成できるのは凄い。

7. チャイナダンスホール

散々指摘したことだが、譜割りの悪さここに極まれりといった風情で、異常な字余りのせいでもはやトーキングブルースの様相を呈してくるが、アレンジは中華風。一瞬、坂本龍一の「undercooled」が頭によぎるが、歌が入れば何のことはない狩野英孝節a.k.a虚無。「ギョウザのように包みこみ 春巻のように巻きこみ(中略)チンジャオのようにいためて 今すぐ君を抱きしめたい」というサビは、愛する彼女を(中華風に)料理したいという超猟奇的趣味の告白に見えないこともない。

8. 紅葉に抱かれて

いきなり普通の曲。BメロからサビにかけてJ-POPの中に似た曲が200曲くらいありそう。下川みくにとか、連想しました。

9. ヘビーメタルステーション

冒頭のところ本当にOKテイクですか? メタル風のアレンジ、語りっぽい歌唱、そして曲中の"てっちゃん"というワードから、(またもや)筋肉少女帯の「鉄道少年の憩」を思い出す。意外と本当にネタ元かもしれない。それにしても狩野のリズム感が悪い上に、エンジニア側も基本修正する気がないのか、キメの部分の歌がズレズレすぎて引く。

10. PERFECT LOVE

冒頭のところ本当にOKテイクですか? サビの「愛しさと切なさを~」は多分わざとで、そこがまたうざい。歌詞はポリコレ的にイチャモンつけようと思えばいくらでもつけられそう(というか狩野英孝自体がそういう存在だが)。

11. 涙~アルバムバージョン~

サビで「色んな国に行ってみたい」とか言い出して、インドやら中華やらの伏線が(誰も頼んでいないのに)回収される。その割にメロディは謎のどっこいしょ感が強く、ほんとは都内から出たくねえだろお前と言いたくなる。ラストのサビはお遊び。そして面白くない。ある意味まとまっていると言えば、まとまっている。

ふぅ。

これを教えてくれた友達も言っていましたが、まず常人には作れないアルバムです。

メロはどっかで聴いたことのある感が強く、歌詞はもやは詞として成立していない(そういった意味では中村一義や七尾旅人的な手法を継承発展させているといっても大いに過言である)、そのくせアレンジはよくわからない方向に多彩という、音楽を真面目に聴ける人ほど、狐に包まれた気持ちになるでしょうし、あらゆる面でハイレベルさを求める人には全くお薦めできません。

多くを望まなければ聴ける、という言い方もできますが、そもそも音楽に多くを望まない層へ狩野英孝がリーチできるのでしょうか?ベッキー♪♯を聴くんじゃないでしょうかね、そいつらは。ともかく、奇才・狩野英孝の世界にどっぷり漬かれる(疲れる)46分です。

……普通にこっちを聴け。

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