不登校 親の会や保護者会の場作りで大切にしたいこと
はじめに
はじめまして。
僕は、NPO法人D.Liveの田中洋輔と申します。
滋賀県の大津市でフリースクールの運営などをしています。
不登校支援に関わり、教員研修や人権研修なども全国でおこなっています。
仕事柄、いろいろな場によんでいただきます。
その中で、たまに不登校 親の会に参加して講演させていただくこともあります。
視察もかねて、参加者として行くこともあります。
そこへ行き感じることは、「もったいないなぁ」ということです。
運営されているかたは、みんな思いを持って活動をされている。
手弁当で、ボランティアでおこなっているところも少なくありません。
自分がしんどいを思いをしたから、少しでも気持ちを軽くする手伝いがしたいと、熱心に活動されています。
その思いには頭が下がる思いです。
だからこそ、僕は「モッタイナイ」と思うのです。
せっかく、素晴らしい活動をしているのに、足りない部分があるのです。
それは、『場作り』です。
テーマや話す内容、企画、ゲストなどは打ち合わせなどでしっかり決めていたとしても、当日の場作りが、僕から見るとどうしても「足りない」と思ってしまいます。
ただ、これは運営しているかたの責任ではありません。
場作りについて教わる機会がそもそもないのです。
そして、場の運営について指摘する人もほとんどいないでしょう。
(不満があるかたは、なにも言わず来なくなります)
自己紹介の方法、みんなが話せるようにするデザインなど、学んだことはないと思います。
場のデザイン、場作りを学べば、親の会や保護者交流会の満足度はもっともっと高まります。
運営する側としても、参加者の満足度が上がると嬉しいですよね。
なにより、やりがいがある。
僕は、不登校のことで悩み、苦しむ人がいなくなればいいなと思っています。
学校が合わないなど、学校へ行けない子は必ずいます。
でも、サポートする体制が整っていけば、親子で苦しむ人たちは減っていくのです。
そのためにも、「不登校 親の会」などの素晴らしい活動はどんどん増えていって欲しい。
「親の会に行って救われた」という人をもっと増やしていきたい。
そんな思いを込めて、この記事を作りました。
場作りについて
僕は、場作りのプロです。
ワークショップと言われる場作りをずっとやってきました。
毎週、ワークショップをする教室を運営し、子ども向けのイベントなども定期的におこなっています。
福島県と滋賀県の小学生交流企画、小学生の冒険企画、親子まち歩き、不登校講座……などなど、たくさんの場作りをおこなってきました。
イベントは、生き物です。
参加する人たちによって、空間は変わります。
開催する会場によっても違います。
「こうすればうまくいく」なんていう正解はなく、毎回難しいなぁと感じています。
たとえ同じ参加者であっても、時間や参加者の体調によって、反応はまったく違います。
しかし、その中で「こうすればうまくいく確率が高まる」という黄金律のようなものがあるのです。
失敗の確率を減らし、成功の確率を高める方法が。
この記事に書いている方法を実践するだけでも、会はきっともっともっと良くなると思います。
ぜひ、出来るところから試してみてください。
残念な会のあるある
僕が参加をしていて「残念だなぁ」「もったいないなぁ」と思うことがいくつかあります。いくつか典型的なものを紹介しましょう。
☆ ざっくり自己紹介
もうこれ、ほんと多いです。親の会だけでなく、どんなイベントでもあります。「では、まず自己紹介をしましょう。あなたから。はい、どうぞ」みたいな感じ。これね、困るんですよ。なにが困るか? なにを話していいのか分からないのです。僕は、人見知りなのでこういう自己紹介をされると、とても困る。そして、みんな名前をはっきり言ってくれないので、名前が分からないことも多くあります。
☆ 一人の人がずっと話している
ざっくり自己紹介でもあります。また、みんなで話す時間にもあります。一人の人が場を独占すること。涙ながらにとうとうと語られると、誰も口を挟めないですよね。本人も悪気があって話しているわけじゃなく、「聞いて欲しい」と思って語っている。けれど、それによって、本来話したかった人が話せなかったり、解決策を知りたいのに消化不良で終わってしまうことがあります。
☆ 悩みを話すだけで終わってしまう
参加者が自分の悩みや困っていることを1人1人が順番に話していき、気がつくと終わりの時間に。自分の話ができてスッキリできる人もいますが、もっとアドバイスをもらいたかったな……と、残念に思うかたもいます。
具体的な場作りについて
では、ここからは具体的にどのように場作りをしていくのか。どんなことを工夫すればいいのかを学んでいきましょう。
☆ 環境デザインについて
場作りの基本は、環境のデザインです。
簡単に言うと、席や机の配置です。
コの字型にするのか。机は必要なのか。円の字にするのか。
それによって、場は変わってきます。
なにを目的にするかによって、形は変わります。
人数によっても変わります。
たとえば、子ども向けにワークショップをするとき、出来るだけ机はなくすようにします。机があると、手が遊ぶから、違う作業をするのです。しかし、机がなくイスだけにすると、子どもたちは静かになります。これが、環境デザインです。
正解はないのですが、いくつかオススメの方法をご紹介しましょう。
・少人数の島をつくる
いくつかの島をつくるのが、場作りでは基本の形になります。学校でいうと、班ですね。人数としては、5人くらいがベストです。6人以上いると多過ぎます。5人くらいがちょうど話しやすいです。多いと自分の意見を言うときなど、躊躇してしまいます。
・イスだけの円座
自己紹介など、みんなで話す場合には、円座になるのがオススメです。そのとき、出来ることなら机はないほうが良いです。全員の顔が見えるのでとても良いです。自己紹介では円座。その後、島に分かれてワークに取り組むなどといった使い方がいいですね。
そのワークは、誰のため? なんのため?
ワークには、目的があります。学校の授業だと、めあてがありますよね。それと同じです。
それぞれの時間におこなうことは、「いったいどんな目的があるのか?」を明確に決めることが必要です。
たとえば、自己紹介の時間。この目的はなんでしょうか? なんのために自己紹介をするのでしょうか?
実は場を作るとき、イベントを運営するとき、ついなんとなくでやってしまっていることって多くあります。
「イベントなんだから、まずは自己紹介をする必要がある」と思うかもしれませんが、ちょっと待ってください。
なぜ、必要なのか?
どうして、自己紹介をおこなう必要があるのか?
じっくり考えて、目的を具体的にしましょう。
目的が決まれば、なにをして、なにをしないかが明らかになります。
たとえば、僕は講演をおこなうときに、参加者同士で話す時間をとります。
この目的は、「参加者をリラックスさせるため」です。
なぜ、リラックスさせるか?
それは、参加者がリラックスすることで、僕自身が話しやすくなるからです。
だから、リラックスできるような話をしてもらいます。
「最近、嬉しかったこと」
「私のマイブーム」
この時間、会場では笑い声があふれ、みんな楽しそうにおしゃべりをしています。
このように目的が明確だと、どんなワークをするのか。なにを話してもらうのか具体的になります。
自己紹介の方法
自己紹介は、なんのためにするのでしょうか?
お互いを知るため?
では、お互いを知るのはなぜでしょうか?
結論から言うと、僕は自己紹介の目的は、安心感を得るためだと思っています。
誰がいるか分からないと、人は不安になります。
始めてくる場、始めて参加するところだと、なおさらです。
「こんな人たちがいるんだな」ということが分かれば、安心することができます。
思い切って、自分のことも話せます。
☆ 共通項を見つける
人が仲良くなるポイントは、「共通項」です。たとえば、同郷の人とは仲良くなれますよね。話がはずみますよね。それは、共通項があるからです。共通項を見つけることで、自分と同じような人かいると思い、安心することができます。
☆ ポイントは、自己開示
悩みを話すというのは、勇気がいります。電車で隣になった人にいきなり人生の相談をするなんてできないですよね? 自分の気持ちをオープンにすることを自己開示といいます。そして、この自己開示には返報性があります。誰かが自分の気持ちをオープンにすると、他の人も同じように気持ちをさらけ出すことができるということです。つまり、悩みを話す場を作る場合、いかに参加者に自己開示をしてもらうかがポイントになります。このデザインを丁寧にすることができれば、緊張して参加している人でも、自分の悩みなどホンネを語ることができます。
では、どのように自己開示してもらうか?
ポイントは、徐々に徐々に、です。
いきなりホンネを話すことは難しい。そこで、ちょっとずつ自己開示をしてもらうのです。僕がよく使うのは「マイブーム」や「趣味」「私のリラックス方法」など、ご自身のことです。それくらいだったら、みんなに話すことができますよね。まずは、そうやって話しやすいテーマを自己紹介で話してもらい、少しずつ自己開示を促していきます。
-オススメの自己紹介-
僕がよく使うのは、A4用紙を四つ折りにして配ります。そして、4つの項目を参加者に書いてもらいます。
・私の名前(もしくは、ニックネーム)
・子どもの学年
・私が最近嬉しかったこと
・ここ最近の子どもの成長
たとえば、このようなことを書いてもらいます。
書いてもらう効用は、大きく2つあります。
1つ目は、名前が分かることです。基本的に、ワークをしている間もこのシートは机の上に置いてもらいます。すると、他の人たちが、「この人は、この名前だな」と認識することができます。
2つ目は、話しやすい、聞きやすいです。話すのが苦手でも、項目が決まっていると、書いていることを順番に言うだけなので気楽です。聞いている側も今なにを話しているのかが明確になるので、集中して聞けます。
そして、実はもう一つ効用があります。それは、早く来た人が手持ち無沙汰にならないってことです。僕は来てくれた人から順番にこのシートを書いてもらいます。すると、早く来た人が暇になることはありません。そして、書き終わったかたには、シートを見て声をかけます。「おっ! 登山が趣味なんですか?」などと。また、参加者同士でシートを見て、「私もです〜」などと勝手に会話が盛り上がっていることも多くあります。
☆【 私が最近嬉しかったこと】を聞く意図
保護者の会では、主役はどうしても子どもになります。子どもの話になります。しかし、参加しているのは親御さん自身です。だからこそ、自己紹介では親御さん自身のことが知りたい。どんな人か知る機会をちゃんとつくりたい。そう思うので、親御さんのパーソナルな部分を知る質問を入れています。マイブームや趣味を聞くのも個人的なことを知りたいからですね。
☆ 【ここ最近の子どもの成長】を聞く意図
不登校関連の講座や講演、イベントでは僕は必ずといっていいほどこの項目を入れます。
なぜか? 不登校のことで参加されるかたは、ほとんどが悲観的です。「うちの子、ダメだわ」「上手くいっていない」とネガティブに考えています。そうすると、開口一番から子どものダメなところを話したり、うまくいっていないことばかりが会にあふれます。すると、どうしても会として後ろ向きになってしまうのです。だから、意図的に子どもの良い部分を見つけるような質問を入れるのです。
話し合いに重要な「問い」
話し合いをするとき、一番大事なのは「問い」です。
いろんな会に参加するのですが、トークテーマがないことって多いのです。
「自由に話してください」といった感じですね。
参加者が話したいことを話して欲しい。
自由度を高くしたい。
などの気持ちは分かります。しかし、問いがないと場としてとても難しくなります。
目的が明確ではないので、参加者は思い思いのことを語ります。
子どもへの不平不満。
親御さん自身の自虐的な話。
子どもとの関わりについての質問。
異種格闘技みたいな様相になるのです。
そうなると、声の大きい人が勝ちます。
みんなの前に出て話せる人ばかりが言いたいことを言って、シャイな人はほとんど話せない。
「こんなこと言ってもいいのか?」
「途中で割って入るのは申し訳ない」
などと、遠慮も出てきます。
テーマや順番も決めずにフリーにすると、参加者に依存するかたちになります。
ファシリテーターなどをつけて、場をしきる人がいればいいですが、それがない場合には、みんなが言いたい放題になってしまいます。
そうなると、参加の満足度が人によって大きく変わります。
話したかった人は、自分の話ができたので満足。
自分の話ができなかった人は、ただただ疲れるだけで、モヤモヤして帰ります。
制約がないと、参加者としてはとても難しい。
だからこそ、問いやテーマが重要です。
なにも難しいテーマではなくていいのです。
「子どものことで今、心配に思っていること」
「どうしたらいいか分からないこと」
「今、一番不安に思っていること」
などなど、参加者が話しやすいテーマにすればいいのです。
どんなテーマか悩むなら、参加者に話し合いたいテーマを聞いてみましょう。
そして、テーマごとでグループに分けると、みんなが話したいことを話せます。
制約をつくろう
場作りにおいて、制約はなによりも重要です。
自由度が高いと、人は戸惑います。
「自由にしていいよ」ほど難しいものはないのです。
アイデアは、制約の中から生まれます。
「おもしろいアイデアをたくさん考えて」と言われたらどうでしょう?
なにも浮かびませんよね?
でも、「シャーペンの斬新な使い方を考えて」と言われたら、いろいろ浮かぶと思います。
制約があるからこそ、その中で考えることができるのです。
具体的に制約とはなにかといえば、「テーマ」や「制限時間」です。
テーマを具体的にする。
時間を区切る。
それをするだけでもまったく違います。
自己紹介を1人1分と決めるとそれだけで、話す内容は変わってきます。
「名前とお子さんの学年だけ話してください」と言えば、ながなが話す人はほとんどいません。(話す人がいれば、あとで聞きますと言って次の人へと促せばいいのです)
参加者のためと思い、ついつい自由にしてしまうことが多いと思いますが、制約こそがなにより重要です。
グランドルールをつくろう!
会に参加する人たちは様々です。
その中で、出来るだけ良い場を作りたいのであれば、グランドルールを作るのがオススメです。
みんなでルールを共有するだけでも、参加者の行動は変わります。
「これを大事にしたい」という運営側の気持ちも伝えることができます。
始めるときなどに、「これがここのルールです」と伝えることで、守っていない人には声をかけることができます。
「ルール、覚えていますか?」と、注意できますし、参加者同士で言うこともできます。
ルールを決めるポイントは、「こんな場にしたい」「こういうのはイヤだな」というところから考えてみてください。
1人がずっと話しているのがイヤだな。
みんなに話して欲しいなと思うのであれば、
『全員が話せる場にする』などでもいいでしょう。
そのルールを伝え、「自分から発言できない人もいるので、そのときにはこのルールを思い出して、なにかない? と声をかけてあげてくださいね」と言えば伝わります。
「否定しない」といったルールもオススメです。
参考になるサイトや書籍
ワークショップの専門家である安斎勇樹さんのブログやサイトは、すごく勉強になります。実際のワークショップに参加するのもオススメです。
ワークショップと言えば、この本というくらいです。とりあえず、場作りを学びたいならこの本を買っておけば間違いはありません。
さいごに
場作りは、とても奥深いものです。
僕自身も、「どうすればもっと良くなるだろう?」と迷い、悩む日々です。
完全にうまくいく方法なんてありません。
試行錯誤しながら、あなたのやりかた、団体のやりかたも模索していってください。
親の会は、不登校で悩む親御さんにとって、オアシスのようなものだと思います。
突然、砂漠に放り込まれた保護者が、やっと見つけた憩いの場です。
だからこそ、どんなかたが参加しても、「来て良かった」と思える場になって欲しいと思っています。
場作りでここが難しい。
このあたりがうまくいかない。
そんなお悩みがあったら、お気軽にご相談ください。
僕は、不登校支援はチーム戦だと思っています。
学校も先生もカウンセラーも親の会の運営者もみんな仲間です。
みんな同じ思いで親や子と向き合う。
出来ることをやっていく。
そうやって、支援することができると思っています。
そのために、僕たちとして出来ることはすべてやっていきたい。
知っている知識やノウハウは、すべてお伝えしたい。
困っていること、分からないことは、ぜひ言ってください。
協力していくことで、きっと今まで以上によりより支援ができ、結果的に良い社会に繋がっていくと思うのです。
ps
「ここが分からない」「この部分で困る」などがあれば、ぜひ教えてください。どんどん追記していきます。