旅はつづく

ひとりの男は旅をしていた
その道は人知れず
我が道と言えば我道
人と交わること無く孤独であった
 
ある日、少女に出会う
ある村の端
その小柄の少女は男をじっと見つめている
 
珍しいものでも見るかの如き扱いには慣れている
男は通り過ぎようとした
 
 
「ありがとう」
 
 
少女が一言つぶやく
 
初めて出会う少女
その言葉は
男の心と体を捉えた
言葉は血が巡るように全身を巡り
心には今まで体験してこなかった感覚
 
一歩
二歩
 
少女を通り過ぎようとして
立ち止まる
 
振り向き
その顔を、、
 
見つめる瞳の奥に
黒き瞳の奥に
 
男は自分の中にある多くのものが消え
何もなき彼女の瞳の中にいた
 
心に沸き起こるものを感じる
 
 
一粒の光が男の心に光る
 
まだ小さい
まだ小さい
 
その光はやがて男の心を包むであろう
 
多くの旅をしてきた彼の
その先のにある人生と
そのはるか昔にある想い
 
まだわからない
 
少女は薄っすらと微笑みを浮かべると
その軽い足取りで走り去っていった
 
男は、その地にとどまる事を始めた
その先の人生に何があったのか
その前の人生に何があったのか
 
彼でさえ知ることはない

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