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ウクライナ語文法シリーズその21:所有代名詞


所有代名詞

ウクライナ語ではそれぞれの人称に所有代名詞があります。英語では例えば一人称単数で my と mineの二通りがありますが、ウクライナ語では「~の~」と「~のもの」のどちらの意味も一つの所有代名詞で表されます。

Це – моя́ су́мка. 「これは私のカバンだ」
Ця су́мка – моя́. 「このカバンは私のだ」 

一人称と二人称の所有代名詞は形容詞と同様の変化となります。対格は、/の左側が無生名詞、右側が有生名詞の場合です。

мій 「私の、私のもの」

твій 「君の、君のもの」


一人称・二人称の複数の所有代名詞では男性の主格形のみ、наш、ваш という形になり -й では終わらないことに注意してください。

наш 「私たちの、私たちのもの」

ваш 「あなた方の、あなた方のもの、あなたの、あなたのもの」


三人称の所有代名詞は大変ありがたいことに不変化で、どの格でもどの性の名詞に付いても形が変わりません。いずれも人称代名詞の属格形と同じ形です。 

його́ 「彼の、彼のもの/それの」
її́́ 「彼女の、彼女のもの」
їх 「彼らの、彼らのもの」 

これらは人称代名詞の変化形ではなく、あくまで所有代名詞であり、名詞を修飾する場合には直後に置かれる名詞とのつながりの方が強く、前置詞の影響は受けません。
どういうことかというと、人称代名詞の він、воно́、вона́、вони́ の属格・対格形である його́、її́、їх は前置詞が直前に置かれると н- が付いてそれぞれ ньо́го、не́ї、них という形になりますが、所有代名詞の його́、її́、їх では語順の上で直前に前置詞が置かれていても н- は付かず元の形のままということです。

Марі́я пішла́ до ньо́го. 「マリアは彼のところへ行った」
Марі́я пішла́ до його сестри́. 「マリアは彼の姉/妹のところへ行った」

なお、三人称複数の所有代名詞「彼らの、彼らのもの」については変化をする ї́хній という形が使われることもありますので、紹介しておきます。

ї́хній 「彼らの、彼らのもの」

再帰所有代名詞

所有代名詞にも再帰代名詞 себе́ のように、「自分の、自分のもの」を表す再帰所有代名詞 свій があります。変化の仕方は мій、твій と同じパターンですので割愛します。
себе́ と同様に свій を使うか別の所有代名詞を使うかで意味が変わってきますが、特に複文になったときに関係性がややこしくなりますので、複数の例を挙げて比較してみましょう。

① Я взяла́ свою́ ру́чку.
② А́нна взяла́ свою́ ру́чку.
③ А́нна взяла́ її́ ру́чку.

以上の3例は себе́ の説明の際に挙げたものと同様の構造です。①は「私は自分のペンを取った」で、この свою́ を мою́ としてしまうと、通じはしますが不自然な表現です。
②は「アンナは自分のペンを取った」、③は「アンナは(別の)彼女のペンを取った」という意味で、③ではそれぞれ А́нна と її́ で表される「彼女」は全くの別人になります。 ただし、③の場合でも、話者や文脈によって強調などの意味合いで її́ が「アンナ」を指す場合もあり得はします。

次は複雑になってきます。いずれも「~は~に~のペンを取るよう頼んだ」という意味ですが、ペンが誰の所有物なのか注意して考えながら見てみてください。

④ А́нна попроси́ла мене́ взя́ти свою́ ру́чку.
⑤ А́нна попроси́ла мене́ взя́ти її́ ру́чку.
⑥ Я попроси́ла А́нну взя́ти свою́ ру́чку.
⑦ Я попроси́ла А́нну взя́ти її́ ру́чку.
⑧ А́нна попроси́ла її́ взя́ти свою́ ру́чку.
⑨ А́нна попроси́ла її́ взя́ти її́ ру́чку. 

パズルのような感じですが、いかがでしょうか。
まず④と⑤を比べてみましょう。どちらも「アンナは私に~のペンを取るよう頼んだ」という意味になります。себе́の説明の時に言ったとおり、再帰の代名詞が使われるときは主語と同じ人・モノを表します。
上記の④~⑨では入れ子のように「~が~に頼んだ」という文の中に「~のペンを取る」という句が入っていると考えられます。主語というのは通常の文での動詞などの述語の動作主体ですから、後半の「~のペンを取る」という行為を行うのが誰なのか、ということに注目してみましょう。
④と⑤では、「私」がアンナに「取る」ように頼まれていますので、「取る」行為をするのは「私」になります。
すると、④の свою́ は「取る」行為の主体と同じ人物を表すことになりますので、例文④ではペンは「私」のもの、ということになります。
それでは⑤はどうかというと、「取る」行為の主体が「私」であるのに対し、目的語のペンは「彼女」のものですが、通常、 її́ は文全体の主語である「アンナ」を表し、このペンは「アンナ」のもの、ということになります。 しかし、文脈によっては全く別の「彼女」のものを指す場合もあります。

⑥はわかりやすいですね。例文④・⑤と同様に、взя́ти 「取る」の主体に注目すると、⑥の「取る」主体はアンナですので、再帰所有代名詞で修飾されるペンはアンナのものです。
⑦は少々曖昧性が出てきます。「取る」主体はアンナですが、これに対して再帰所有代名詞ではない通常の三人称女性の所有代名詞がついていますから、ここでのペンは「私でもアンナでもない別の女性」のもの考えられます。しかし、③と似た理由で「アンナ」のものを指す場合もあります。

ここまでの説明で⑧と⑨のペンの持ち主が誰かは予想がついてきたのではないでしょうか。
⑧と⑨では頼まれているのはアンナとは別の「彼女」です。
⑧では「取る」主体はこの「彼女」で、再帰所有代名詞が使われていますので、このペンはこの「彼女」のものになります。
対して⑨では、通常の三人称女性所有代名詞が付いていますが、例文⑤と同様に、このペンの所有者は普通、「アンナ」になります。しかしこの文も一定の曖昧性があり、全く別の「彼女」のものを指すとも解釈し得ます。

長々とした説明になってしまいました。
繰り返しになりますが、日本語や英語では再帰と通常の代名詞の使い分けに関し比較的曖昧性が強いのに対して、ウクライナ語ではこれらがかなり明確に使い分けられますので、是非とも理解していただきたいところです。

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