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ウクライナ語文法シリーズその4:子音の発音(2)

今回は歯茎音と硬口蓋音を見ていきましょう。
前回の唇音や軟口蓋音と比べると特に軟子音としての発音には一定の練習が必要です。


歯茎音(т д с з ц дз н л р)

歯茎音は硬子音としての発音はそれほど難しくないものが多いのですが、軟子音になると聞いたときの印象が大きく変わって全く別の音に聞こえるものが多いです。
ある程度の練習が必要なものが多いので、じっくり見ていきましょう。
2文字で表される дз と дж についても発音を見ておきます。
 

Т т

硬子音としての発音は日本語の「タ」「テ」「ト」の子音です。英語の t の音とは異なります。英語の t は帯気音で発音の際にかなり多くの空気が漏れて「トハ」と聞こえますが、ウクライナ語の т は帯気音ではありませんので、日本語の「タ」「テ」「ト」の子音だと思っていただいて結構です。
и が後に続く際には日本語の「ティ」の発音でも構いませんが、舌が平べったくならないことを意識して、「テ」との中間くらいの気持ちで発音しましょう。

та́то   タート  「パパ、お父さん」
теа́тр   テアートル  「劇場」
тут   トゥート  「ここ」
ти   ティ  「君、お前」


軟子音としての発音は日本人の耳にはかなり違った音に聞こえ、「チ」や「ちゃ」行のように聞こえます。しかし、実際には日本語の「チャ」や「チ」とは全く異なる音ですので注意してください。

この音を出すには練習が必要です。ті から練習していきましょう。

まず舌を平べったくすることを意識しながら「ティ」と発音してみてください。
そして、舌が上あごにくっつく場所に意識を集中して、「ティ ティ ティ」と発音しながら、舌が上顎にくっつく場所をだんだんと上に(喉側に)上げていってください。舌先が上の歯茎の裏あたりに来たところで「チ」に似た音になってくると思います。

決して日本語の「チ」の子音にならないよう、あくまで子音 т が元になっているのを意識してください。日本語の「チ」は舌のもっと後ろ、歯茎のもっと上の部分が触れているはずです。

それ以外の軟母音が続く音は、例えば「テャ」のような発音から、「テャ テャ テャ…」と繰り返しながら、ті のときと同じような音が出るよう心がけましょう。
ネイティブによっては日本人の耳に「きゃ」行に聞こえるような発音をする人もいます。

以下のカタカナ表記ではこの音を「チ」で表しています。しかし繰り返しになりますが日本語の「チ」とは全く違う音ですので注意してください。

ті́ло   チーロ  「体」
стіл   スチール  「机、テーブル」
тя́жко   チャージュコ  「重く、重大に」
по́тяг   ポーチャフ  「列車」
тютю́н   チュチュン  「(植物としてもしくは葉の)タバコ」


Д д

硬子音としての発音は日本語の「ダ」「デ」「ド」の子音です。
и が後に続く際には日本語の「ディ」の発音でも構いませんが、舌が平べったくならないことを意識して、「デ」との中間くらいの気持ちで発音しましょう。

давно́   ダウノー  「昔、かなり以前」
де   デー  「どこ」
ди́вно   ディーウノ  「驚くような、おかしく、素晴らしく」
до́вго   ドーウホ  「長い間、長く」
дуб   ドゥーブ  「カシ」 


軟子音としての発音は日本人の耳にはかなり違った音に聞こえ、「ジ」・「ヂ」や「じゃ」「ぢゃ」行のように聞こえます。しかし、実際には日本語の「ジャ」や「ジ」とは全く異なる音ですので注意してください。
この音を出すには一定の練習が必要です。ді から練習していきましょう。

まず舌を平べったくすることを意識しながら「ディ」と発音してみてください。
舌が上あごにくっつく場所に意識を集中して、「ディ ディ ディ」と発音しながら、舌が上顎にくっつく場所をだんだんと上に(喉側に)上げていってください。舌先が上の歯茎の裏あたりに来たところで「ジ」に似た音になってくると思います。決して日本語の「ジ」の子音にならないよう、あくまで子音 д が元になっているのを意識してください。日本語の「ジ」は舌のもっと後ろ、歯茎のもっと上の部分が触れているはずです。

それ以外の軟母音が続く音は、例えば「デャ」のような発音から、「デャ デャ デャ…」と繰り返しながら、ді のときと同じような音が出るよう心がけましょう。
ネイティブによっては「ぎゃ」行に聞こえるような発音をする人もいます。

以下のカタカナ表記ではこの音を「ヂ」で表すことにします。

дівча́   ヂウチャー  「女の子、娘」
ді́я   ヂーヤ  「行動」
дьо́готь   ヂョーホチ  「タール」
дюйм   ヂュイム  「インチ」
дя́кую   ヂャークユ  「ありがとう」 


С с

硬子音としての発音は日本語の「シ」を除く「さ」行の子音です。
и が後に続く際には「スィ」に近いですが、日本人が「スィ」と発音すると概して柔らかい音になりがちですので、舌が平べったくならないことを意識して、「セ」との中間くらいの気持ちで発音しましょう。

са́ло   サーロ  「サーロ(脂身の塩漬け)」
себе́   セベー  「自分を、自分の」
сон   ソン  「睡眠、夢」
су́ші   スーシ  「寿司」
си́ла   スィーラ  「力、強さ」 


軟子音としての発音は日本人の耳にはかなり違った音に聞こえます。なんともいえない音で、あえて仮名で書くなら「シ」や「しゃ」行でしょうか。しかし、これも日本語の「シャ」や「シ」とは全く異なる音ですので注意してください。

この音を出すには一定の練習が必要です。сі から練習していきましょう。
「スィ スィ スィ」と発音しながらだんだんと舌を平べったく、イッと口を横に開いていってください。日本語の「スィ」と「シ」の中間のような、なんともいえない音になってきたら成功です。

それ以外の軟母音が続く音は、例えば「スャ」のような発音から「スャ スャ スャ…」と繰り返しながら、сі のときと同じような音が出るように心がけましょう。

以下のカタカナ表記ではこの音を「シ」で表しています。しつこいですが日本語の「シ」とは全く異なる音ですので注意してください。

сім   シーム  「7」
сі́сти   シースティ  「座る」
сього́дні   ショホードニ  「今日」
сюди́   シュディー  「こちらへ」
вся/уся   ウシャー  「全ての(女性形)」 


З з

硬子音としての発音は「ジ」を除く「ざ」行の子音に似ています。しかし意識せずに日本人が発音すると別の音として発音してしまいますので注意しましょう。

口の中に意識を集中しながら「ザ」と言ってみてください。音が出るときに舌先が歯や歯茎のあたりにくっついているのを感じられるでしょうか。

次に、「アザ」と言ってみてください。こちらも口の中に集中してみると、音が出るときに舌先はどこにもついていないことが分かると思います。

つまり、日本人は普段気づいていませんが、日本語の「ざ」行は語頭では舌先が歯や歯茎にくっつく発音(破擦音)、それ以外では舌先が歯茎にくっつかない摩擦音と、2種類の発音が無意識に使い分けられているのです。
なお、このうち後者(舌先がくっつかない)がウクライナ語の з と同じ発音で、前者(舌先がくっつく)はウクライナ語では дз という別の子音になります。

дз は「дз、дз、дз」と一回ずつしか発音できませんが、з は「зззззззззз…」と息の続く限り発音できます。

и が後に続く際には「ズィ」に近いですが、舌が平べったくならないことを意識して、「ゼ」との中間くらいの気持ちで発音しましょう。

за́мок   ザーモク  「城」
зе́рно́   ゼールノ/ゼルノー  「穀物」
зо́лото   ゾーロト  「金」
зуб   ズーブ  「歯」
зима́   ズィマー  「冬」 


軟子音としての発音は с と同様、日本人の耳にはかなり違った音に聞こえます。с の軟音と同じく「ズィ ズィ ズィ」と言いながらイッと口を横に開いていってください(舌先がくっつかないように注意!)。сі に濁点を付けたような音色が出るようになったら成功です。

以下のカタカナ表記では「ジ」と表していますが、日本語の「ジ」とは異なる音であることを改めて繰り返します。そして何度でも言いますが、舌先がくっつかないように注意です。

зі́рка   ジールカ  「星」
зі́р   ジール  「視点」
зя́бра   ジャーブラ  「エラ」
Ізю́м   イジューム  「イジューム」 


з もわりと無声化しやすい子音になります。
接頭辞の роз-や без-が無声子音の直前に来るとき、特に早く発音される場合などに з が無声化して с と発音されることがあります。

розказа́ти   ロズカザーティ/ロカザーティ 「語る」
безпе́чний   ベズペーチュヌィイ/ベペーチュヌィイ 「安全な」


Ц ц

日本語の「ツ」の子音です。いわば「つぁ」行になります。日本語では「ツ」の子音と他の母音との組み合わせは「コンツェルト」や「カルツォーネ」その他ごく少数の外来語しかなく馴染みがないかもしれませんが、発音自体はそんなに難しいものではないと思います。

и が後に続く際には日本人が意識せず「ツィ」と発音してしまうとかなり軟子音に近い発音になってしまいますので、「ツェ」との中間くらいの気持ちで発音しましょう。

цар   ツァール  「ツァーリ(ロシアの皇帝)」
це   ツェー  「これ」
цу́кор   ツーコル  「砂糖」
цибу́ля   ツィブーリャ  「タマネギ、ネギ」 


軟子音としての発音は更に馴染みのないものとなります。ці は日本人が「ツィ」と発音したときの音に近いですが、さらにもう少し軟らかくなります。с や з の軟音の練習を思い出して、舌を平べったく口を横にイッと開いて発音してみてください。
慣れるまではかなり苦戦すると思いますが頑張りましょう。

ці́лий   ツィールィイ  「全体の」
ціка́вий   ツィカーヴィイ  「面白い、興味深い」
цього́   ツョホー  「これの(男性/中性形属格)」
цю   ツュ  「これを(女性形対格)」
ця   ツャ  「これ(女性形主格)」

ц の軟音がよく出てくる цей「これ」の変化形の発音がWiktionaryにはなかったため、forvoのリンクを貼っておきます。
цього: 
https://uk.forvo.com/search/%D1%86%D1%8C%D0%BE%D0%B3%D0%BE/

цю:
https://uk.forvo.com/search/%D1%86%D1%8E/

ця:
https://uk.forvo.com/search/%D1%86%D1%8F/


また、のちのち出てくる ся動詞という種類の動詞の三人称の現在形の語尾は -тьсяという形になりますが、これは ця の発音になります。

займа́тися  ザイマーティスャ 「勉強する、練習する、占める」
> займа́ється  ザイマーイェッツャ (三人称単数現在形)
 займа́ються  ザイマーユッツャ (三人称複数現在形)

знайо́митися  ズナヨームィティスャ 「知り合う」
> знайо́миться  ズナヨームィッツャ(三人称単数現在形)
 знайо́мляться  ズナヨームリャッツャ(三人称複数現在形)
 
 

Дз дз

ц の濁音バージョンになります。з の発音で触れたように、舌先を歯や歯茎にくっつけて発音する「ざ」行になります。登場の頻度は比較的低く、日本人には語頭以外での発音はしづらいですが、з とは異なる発音であることをしっかりと意識してください。
и が後に続く際には「ズィ」に近いですが、舌が平べったくならないことを意識して、「ゼ」との中間くらいの気持ちで発音しましょう。

この音はカタカナ表記では「ヅ」と表すことにします。

дзвін   ヅヴィーン  「鐘」
дзе́ркало   ヅェールカロ  「鏡」
дзи́ґа   ヅィーガ  「独楽」


あまり出てくることは多くありませんが、軟子音としての発音は難しいです。ц の軟音を思い出して、舌を平べったく口を横にイッと開いて発音しましょう。
また、このとき舌先がくっつくことをお忘れなく。日本語の「じゃ」行は дз の軟音で音訳されることがあります。

дзьоб   ヅョーブ  「くちばし」
дзюдо́   ヅュドー  「柔道」 


Н н

硬子音としての発音は「ニ」を除く「な」行の子音とほぼ同様です。ただし、しっかりと舌を歯や歯茎にくっつけて発音することを意識してください。
и が後に続く際には日本語の「ニ」にならないよう注意しましょう。
下記の例ではなん子音との区別のためにカタカナ表記を「ヌィ」としています。最初のうちは「ヌィ」のように発音してみても良いかもしれませんが、実際の発音はかなり異なります。

на́зва   ナーズヴァ  「名称」
нести́   ネスティー  「(歩いて)運ぶ」
нови́й   ノヴィーイ  「新しい」
нуль   ヌーリ  「ゼロ」
ни́ні   ヌィーニ  「現在、今日(こんにち)」 


軟子音としては「にゃ」行のように発音しましょう。この音は難しくないので大丈夫だと思います。

ні   ニー  「いいえ」
ніс   ニース  「鼻」
само́тньо   サモートニョ  「独りで」
нюх   ニューフ  「嗅覚」
знання́   ズナンニャー  「知識」 



Л л

「日本人はLとRの区別ができない」とよく言われますが、残念ながらロシア語にもその区別があります。
л は英語の L の音に似ていますが、硬子音として発音するときはもう少し口の奥で響かせるような音になります(英語の bottle の l に近いです)。
и が後に続く際には「ルィ」や「レ」に近い響きになります。軟子音との区別のために「ルィ」と表記することにします。

ла́ва   ラーヴァ  「ベンチ/列/溶岩」
ле́гко   レーフコ  「軽く、簡単に」
ло́жка   ロージュカ  「スプーン」
луг   ルーフ  「草原」
лист   ルィースト  「葉、手紙」


軟子音としての発音はイタリア語の foglio の gli の発音に近い音です。舌を歯茎から上あごのてっぺんあたりまでベタッとくっつけて「リャ」「リ」…と発音しましょう。

лід   リード  「氷」
лі́жко   リージュコ  「ベッド」
льох   リョーフ  「地下室」
любо́в   リュボーウ  「愛」
лягти́   リャフティー  「横になる、横たわる」 


Р р

江戸っ子口調の巻き舌の発音です。
巻き舌ができない場合には普通の「ら」行で問題ありませんが、舌で歯茎を強めに弾いてはっきりとした音を出すように心がけるとよいでしょう。
и が後に続く際には「ルィ」や「レ」に近い響きになります。軟子音との区別のために「ルィ」と表記することにします。

ра́да   ラーダ  「会議、評議会」
ребро́   レブロー  「肋骨」
рука́   ルカー  「手」
ри́ба   ルィーバ  「魚」 


軟子音としての発音は巻き舌の「りゃ」行のように発音して問題ないでしょう。巻き舌ができない場合には強めに弾くことを意識してください。

рі́вний   リーウヌィイ  「平らな、同等の」
рі́зати   リーザティ  「切る」
рюкза́к   リュグザーク  「リュックサック」
ряд   リャード  「列、一連の~~」 


1-3-3 硬口蓋音(ш ж ч дж щ й)

硬口蓋音のうちш ж ч дж щは音韻上常に硬子音で、正書法上でも і 以外の軟母音字が後に書かれることはありません(外来語を除く)。歯茎音と違って違いが分かりづらいのですが、これらの後に і が置かれると実際には多少軟子音化しています。
これに対してйはその音声的性質上、軟子音としてしか存在し得ません
 

Ш ш

英語の sheep の sh の音です。日本語の「シ」の音ではありません。舌先を持ち上げて「シュ」と発音しましょう。
後に и が続くときと і が続くときの発音の区別が難しいですが、ши のときに「シュィ」または「シェ」に近いような硬い発音を意識して、ші のときはむしろ自然体で発音するとよいかと思います。

ша́пка   シャープカ  「帽子」
ше́стеро   シェーステロ  「6つ、6人」
шовк   ショウク 「シルク」
шум   シューム  「雑音、騒音」
ши́я   シュィーヤ  「首」
шістдеся́т   シズデシャート  「60」 


Ж ж

英語の pleasure の s の音です。日本語の「ジ」の音ではありません。舌先を持ち上げて「ジュ」と発音しましょう。
日本人があまり意識せず発音すると дж のような音になってしまいます。з と同様に、口の中に意識を集中して舌の先がどこにもくっつかないように発音しましょう。(くっつくと дж になります)
「жжжжжжжжжж…」と息の続く限り発音できます。
これも後に и が続くときと і が続くときの発音の区別が難しいですが、жи のときに「ジュィ」または「ジェ」に近いような硬い発音を意識して、жі のときはむしろ自然体で発音するとよいかと思います。繰り返しますが舌先が口の中のどこにも触れないよう注意してください。

жа́ба   ジャーバ  「カエル」
жест   ジェスト  「ジェスチャー」
жо́втий   ジョーウティイ  「黄色い」
жук   ジューク 「虫、甲虫」
життя́   ジッチャー 「生命、生活、人生」
жі́нка   ジーンカ  「女性、妻」 


Ч ч

英語の chicken の ch の音です。日本語の「チ」の音ではありません。舌先を持ち上げて「チュ」と発音しましょう。
こちらも後に и が続くときと і が続くときの発音の区別が難しいですが、чи のときに「チュィ」または「チェ」に近いような硬い発音を意識して、чі のときはむしろ自然体で発音するとよいかと思います。

час   チャース 「時間」
черво́ний   チェルヴォーヌィイ  「赤い」
чо́рний   チョールヌィイ  「黒い」
чу́до   チュード  「奇跡」
чи́сто   チュィースト  「清潔に、純粋に」
чі́тко   チートコ  「明確に、正確に」 


Дж дж

ч の濁音バージョンです。英語の just の j の音です。日本語の「ジ」の音ではありません。舌先を持ち上げて歯茎の上の方にくっつけて「ジュ」と発音しましょう。
登場の頻度は比較的低いですが、дз と з の関係と同様に ж とは異なる発音であることをしっかりと意識しましょう。ж と違って舌先がくっつきます
例によって後に и が続くときと і が続くときの発音の区別が難しいですが、джи のときに「ジュィ」または「ジェ」に近いような硬い発音を意識して、あまり登場しませんが джі のときはむしろ自然体で発音するとよいかと思います。

джаз   ジャーズ  「ジャズ」
джерело́   ジェレロー  「泉、ソース(情報源)」
джи́нси  ジンスィ  「ジーンズ、デニムパンツ」
бджола́   ブジョラー  「ミツバチ」



Щ щ

ш と ч が合体した音です。ш のすぐ後に ч をいれて「シチュ」と発音しましょう。
ただし、現代の話し言葉では ш と全く同じように発音されることも多いです。

ща́стя   シチャースチャ/シャースチャ  「幸せ、幸福」
ще   シチェー/シェー  「まだ」
що   シチョー/ショー  「何」
щу́ка   シチューカ/シューカ  「カワカマス」
щі́тка   シチートカ/シートカ  「ブラシ」
щи́ро   シチュィーロ/シュィーロ  「心から、誠実に」 


Й й

「や」行や英語の you の子音 [j] です。軟母音字の説明で触れたように、日本語や英語よりもしっかりとした発音になっています。後に о が続くと「ヨ」の音になるのは説明したとおりです。
形容詞男性形の語尾は й で終わりますが、この [j] の音を末尾にしっかり出すことを意識してください。場合によっては「ヒ」の音が聞こえることがあるほどです。

йод   ヨード  「ヨウ素」
його́   ヨホー  「彼の、彼を」
мій   ミーィ  「私の(男性形)」
геро́й   ヘローィ 「英雄」
чо́рний   チョールヌィイ  「黒い」


今後また触れますが、単語の最初の文字が і のとき、й に交代する場合があります。その場合は自然体で「イ」と発音しても構いません。

軟音記号・硬音記号

文字一覧のうち ь と ' は文字として数えられてはいますが実際には記号として用いられます。日本語の濁点「゛」や半濁点「゜」が文字として数えられているようなもので、元の文字の音を変えるために用いられます。 

軟音記号 ь は直前の子音を軟音に変える働きがあります。
例えば т とだけ書かれたら硬子音として発音されますが、ть と書かれる場合は軟子音として発音されます。
母音が後に続く場合は軟母音字が書かれれば自動的に軟子音になりますので、ь は単語の末尾や別の子音が後に続く場合に用いられます。

украї́нський   ウクライィーンシクィイ  「ウクライナの」
гість   ヒースチ  「客」
тінь   チーニ  「影」
суспільство   ススピーリストヴォ  「社会」 


硬音記号 ‘ は軟母音字が後ろにつく際に硬子音として発音される場合に用いられます。例えば「ブイェー」という語を書く際、бєと書いたら軟子音として「ビェー」と読まれてしまいますが、б’є と書くことで正しい発音が表せます。(ちなみに б’є は「(彼・彼女が)叩く」と言う意味です)
つまり、「硬子音+[j]」という音の組み合わせが現れる際に用いられます。
ただし、硬子音としての発音を残すといっても、実際の発音ではわずかに軟音化しています。
主に唇音(п б ф в м)と р のあとに用いられることが多いです。

ім’я́   イムヤー  「名前」
п’ять   プヤーチ  「5」
бур’я́н   ブルヤーン  「雑草」 


このほか、軟母音字で始まる動詞などに接頭辞がつく場合にもよく現れます。

роз'єдна́ти   ロズイェドナーティ 「外す、接続を切る、分ける、分裂させる」
< єдна́ти   イェドナーティ 「繋ぐ、合体させる、結びつける、団結させる」

з'ї́сти   ズイィースティ 「食べる、食べてしまう(完了体)」
< ї́сти   イィースティ「食べる(不完了体)」 

外来語で用いられることも割と多いです。

комп'ю́тер   コンプユーテル 「コンピューター」
ад’юта́нт   アドユタント  「副官」 


なお、硬子音の後に「ヨ」が現れる場合は йо と表記されますので ‘ は用いられません。

серйо́зний   セルヨーズヌィイ 「真剣な、深刻な」


いかがでしたでしょうか?今回は難しい発音が多くあったと思います。
実際、ウクライナ語に限らず発音がある程度悪くても、カタカナ発音であっても文にすれば文脈の助けもあって通じたりします。しかし、日本人にとっては同じ音にしか聞こえなくてもウクライナ人には全く別の音なので頭の中で結びつけてくれず通じないということもいくらでもあります。
例えば日本人が「アカマの上」と言われたとしても、すぐに「頭の上」のことだ!とは思えませんよね。しかし信じられないかもしれませんが世界には t と k が音韻上区別されない言語というのも存在するのです。

そのため、やはり発音はある程度練習しておくに越したことはありません。発音を上達させるためには、最初のうちは常に口の中に意識を向け、正しい舌の運び方を体に覚え込ませることが重要だと思います。

今回で文字と発音の練習はおしまいです。次回は少し難しくなりますが、音の交代についてお話できればと思います。
お疲れ様でした!

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