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ウクライナ語文法シリーズその10:中性名詞

中性名詞は単数主格の見た目上では大きく -о/е で終わるものと -я で終わるものに分けられます。

-я のときは女性名詞との区別が最初のうちは難しく感じられるかもしれませんが、見ていくうちに容易にだいたい予想がつくようになるでしょう。動詞から作られる抽象的な単語や、生き物の子どもを表す語が多いです。

中性名詞は基本的に無生物を表しますので、基本的に全て無生名詞です。つまり、単数も複数も主格と対格が同じ形になります。これは単数では生物の子どもを表す単語でも同様ですが、生物の子どもの場合には有生名詞扱いで複数対格が属格と同じ形になります。

 変化語尾として中性名詞に特徴的なのが、複数主格・対格で語尾が -а/я となることです。男性名詞や女性名詞では多くが -и/і となっていますので、この語尾は中性名詞を特徴づける要素の一つです。

 また、呼格は必ず主格の形と同様になります。そのため、以降の中性名詞の説明では変化表の中では呼格を省いておくこととします。

 基本的には男性名詞に近い変化ではあるものの、複数属格のみ、女性名詞のように無語尾となる場合が多いです。

 アクセントのパターンとしては、長めの単語だと単数も複数も同じ位置に置かれることが多いのですが、短い単語では単数と複数でアクセントの位置が変わることが多いです。具体的には単数で語幹にアクセントが置かれる場合は複数で語尾にアクセントが置かれ、単数で語尾にアクセントが置かれる場合には複数で語幹にアクセントが置かれます。

 

-о/еで終わる中性名詞

このパターンは女性名詞や男性名詞と同様に、硬変化、軟変化、混合変化があります。
女性名詞と男性名詞の変化を覚えていればそれほど難しくはないので一つづつ見ていきましょう。

①硬変化

格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。女性名詞や男性名詞よりは単純なパラダイムになっているのがわかります。ただし、一部の名詞では複数具格の語尾が二通りある場合もあります。

* -Øは語尾がつかないことを表します。


 

まず典型的な中性名詞として мі́сто 「都市、市」の変化を見ていきましょう。複数では語尾にアクセントが移動します。

мі́сто 「都市、市」 


次に単数で語尾にアクセントが置かれるパターンです。女性名詞同様複数属格では語尾がとれるため出没母音が現れたり о/е-і の交代が起こることがよくあります。 

село́ 「村、農村」 

 

長めの単語ではアクセントは移動しません。接尾辞 -ство は抽象名詞を作る際に用いられます(英語の -ness や -hood、-ity などに相当します)。

 товари́ство 「協力関係、協会、会社」 

 

一部の単語では複数具格に -ьми という語尾が現れることがあります。

 колі́но 「ひざ」

 

②軟変化

格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。こちらもかなり単純なパラダイムですが、複数属格で語尾 -ів をとる語が一定数あります。

まずは典型的な軟変化の名詞から見ていきます。

 мі́сце 「場所、席」

 

次の単語は語尾自体は典型的なのですが、語源による理由から複数属格でどこからともなく -д- が出てきます。重要単語なのでここで覚えてしまいましょう。また出没母音にも注意してください。

се́рце 「心臓」


次に複数属格で語尾 -ів をとるものです。残念ながらこの語尾をとる名詞をあぶり出す方法はこれといってありません。基礎語彙に多い印象ではあります。
ロシア語が分かる方々には、ロシア語で複数属格が -ей の語尾になる中性名詞がウクライナ語では -ів になりやすい傾向にありそう、ということをお伝えしておきます。

 

мо́ре 「海」

 

中には複数属格で無語尾(-ь)でも-івでもどちらでも許容されるものもあります。

по́ле 「野原、畑」 

 

③混合変化

中性名詞の混合変化はそれほどバリエーションがなく、ややこしさもありません。見た目上は単数の主格、対格、具格でのみ軟変化と同じ(軟変化と同じパターンではあるものの、正書法上 -я や -ю ではなく -а や -у が書かれる)、と考えれば良いです。

場所や地域などを表す接辞 -ище が付く場合などが多いです。下記の例は場所の意味ではありませんが、非常に基礎的な語彙ですのでこの例として挙げておきます。

прі́звище 「名字、姓」


-яで終わる中性名詞

格変化語尾をまとめると以下の表のとおりです。

-о/е で終わる中性名詞とも女性・男性名詞のパターンとも少々異なります。しかしながら、単数主格、対格、属格、複数主格、対格が全て同じ形になりますので、むしろ単純なパラダイムです。単数具格が -ям という語尾になることに注意してください。

このパターンの名詞は動詞から作られる抽象名詞が多く、この場合二重子音+я という形になります。

下記の пита́ння 「質問、問題」は動詞 пита́ти 「質問する、問う」から派生しています。この語は複数属格で語尾がとれますので、その際にはяの直前の子音は一つになります。

пита́ння 「質問、問題」

 

次に життя́ 「生命、生活、人生」を見ていきましょう。この語は複数属格で語尾 -ів をとります。基本的に複数で語尾にアクセントが来る場合には語尾 -ів となることが多いようです。

життя́ 「生命、生活、人生」

 

次の単語は複数属格でどちらの形もとれますので紹介しておきます。

 весі́лля 「結婚式」

  

同じパターンの変化ではありますが、я の前の子音が в や р の場合には子音は二重にならず、-в’я もしくは -р’я という形になっています。この場合、単数処格で語尾が і でなく ї となりますので少し注意です。

здоро́в’я 「健康」


隠れた子音を持つ中性名詞

語尾 -я を持つ一部の中性名詞は、単数主格・対格以外でどこからともなく子音が出てくるものがあります。-м’я で終わる名詞(-н- が出現)と生物の子どもを表す名詞(-т-)の 2パターンに分けられます。

 

①-м’яで終わる名詞

単数の主格・対格以外で -н- が出現し、また特に単数では少々変わった変化をします。

語源的にこのタイプであった名詞はウクライナ語に7~9個ほど存在するのですが、その大半は方言でしか使用されなかったり、もっぱら同じ意味の別の単語しか使用されなかったり、またこの特殊な変化を嫌ったのか変化パターンが単純化して普通の -я で終わる中性名詞と同じになったり、語形を変えて一般的な変化パターンになってしまったりしています。意味の上でも使用する状況が限られる単語が多いので、ここではこの変化パターンをよく保ち、かつ使用頻度の高い以下の2単語のみ覚えておきましょう。なお、この 2単語ですら単数属格・具格では普通の -я で終わる中性名詞と同じ変化形が許容されています。

ім’я́ 「名前」


пле́м’я 「一族、部族、民族」

 

②生物の子どもを表す名詞

生物の子どもを表す名詞は -я または口蓋音+а で終わり、単数主格、対格、具格以外では変化形に -т- が出現します。基本的には -м’я で終わる名詞と似たようなパラダイムなのですが、単数属格語尾の最後の母音が і ではなく и となること、単数具格では -т- が挿入されず必ず -я で終わる中性名詞と同じ語尾をとること、複数では有生名詞として対格が属格と同じ形となることに注意してください。

 теля́ 「仔牛」

 

курча́ 「ひよこ、ひな」

 

дівча́ 「女の子、少女」は明らかに女性を表すにもかかわらず文法上は中性名詞です。ウクライナ語ではなかなか珍しいので覚えておきましょう。

дівча́ 「女の子、少女」

 

注意の必要な中性名詞

以下の2つの中性名詞 о́ко 「目」と плече́ 「肩」は、単数では通常の-о/еで終わる中性名詞のような変化をしますが、複数の主格・対格と具格では少々変わった変化形をとります。ウクライナ語を含むスラヴ語には、昔、単数と複数のほかに 2つのものを表す「双数」という数もありました。о́ко と плече́ の複数主格・対格と具格の形はこの双数形に由来するものです。どちらも「目」、「肩」と、体の一部分で基本的に2つがペアになって備わっており、2つセットで言及されることが多いためにこの形が残ったのだと思われます。

まずはどちらかといえば簡単な плече́ の変化から見ていきましょう。

 плече́ 「肩」

 

о́ко の場合には複数の全ての形で к-ч の交代が起こること、単数処格で к-ц の交代が起こることに注意してください。

 о́ко 「目」

 

 

これで一般名詞の変化の説明はおしまいです。たくさんのパターンがあって慣れるまではとても苦しいと思います。本シリーズで説明したパターンから外れている名詞も少数ながらありますが、そういった名詞は出会ったらその都度覚えることで良いでしょう。

 

これでウクライナ語の文法の山を一つ越えました。お疲れ様でした!

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