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【イタリアの安田侃 vol.8】 2016年の「時に触れる」展

塔が傾いていることにより世界中から観光客が多く訪れる町、ピサ。そんなピサで2016年6月から10月にかけて安田侃の野外彫刻展が行われました。

ピサ市主催、日伊修好通商条約締結百五十周年の一環として開催されました。

ピサ市には思惑がありました。斜塔だけではない、多くの魅力的な場所が市内にあることを知ってもらいたい。そのために安田侃の彫刻が選ばれました。

ミラノ、ローマ、トリノ、タオルミーナでの展覧会を成功させてきたことが参考になったでしょうが、特にフィレンツェ市への特別な思いはあったかもしれません。フィレンツェの町にできて、ピサでできないわけはないと。小国分立時代の対抗心を引きずっているのは「イタリアあるある」です。

安田侃の彫刻は、歴史的な街並みと対峙できる存在感を持ちながら、違和感を感じさせない形と、触れること、乗ること、中に入ることを導く彫刻が23点、次の作品へと誘導される絶妙な距離感を保ちながら、18ヶ所に設置されました。

6月30日のオープニングには日伊財団の関係者、在伊日本大使も出席、ピサ王国当時の衣装をまとった人たちと練り歩き、テープカットが行われました。

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斜塔の前、ミラーコリ広場には《妙夢》と《意心帰》が設置されました。斜塔や大聖堂と同じ石切場から来た大理石が使われています。馴染まないわけがありません。

カヴァリエーリ広場にはホワイトブロンズの《意心帰》と《天秘》、白大理石の《風》が、ヴァザーリが設計したルネッサンス時代の建築に囲まれていました。

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アルノ川沿いの可愛らしい教会、サンタ・マリア・デッラ・スピーナ教会の前と中にも作品が並びます。

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ピサ大学はイタリア最古の大学の一つでもありますが、多くの学生が勉学に勤しむ学生の町でもあります。

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斜塔から駅まで全作品を見て回ると3キロメートルの距離でした。

「時に触れる」は、平穏に満ちた位相において彫刻と対話し、作品のもつ形とその形が内包するものを愛でることを示唆するものです。その一方で歴史は急速に展開し、既存の秩序に混乱をきたします。我々が汲みとるべきメッセージは、おそらくこれらのコントラストのうちにあります。そのコントラストについてよく考える様、我々を促しているのです。

安田侃ピサ展カタログ、ピサ市市長マルコ・フィリペスキ

栄枯盛衰を知るピサ市にとって記憶に残る展覧会だったと思います。市民、観光客、学生それぞれの心に刻まれているでしょうか。