同期の休日の仁王立ちに参戦した話

定時5分前、僕は上司の許可を得てオフィスを飛び出した。最寄り駅まで全力ダッシュで10分強。ぜーはー言いながら駅の階段を駆け上がる。運動不足のアラサーにはキツい。乗り込んだ埼京線、新宿駅に着くのは開演15分前。ギリギリ間に合いそうだった。

勤務中にたまたま見た、キャンセルが出たと言うツイート。URLに飛んだらまだ席があった。ちょっと逡巡してスマホをタップする。その日の夜には予定がなかったし、今月は僕の誕生日だし、家族に許しを乞うLINEをして、新宿駅から会場まで走る。人混みを避けつつ走る。道に迷って遠回りをしたと気づいた時には殺してくれと思った。

でも、推しのライブを見たいがために仕事を爆速で終わらせて走る、それはちょっと幸せなことかもしれない。

仁王立ち、それは僕が推す同期の休日という芸人ユニットが行う、単独お笑いライブだ。

僕は阿呆だった。平日の仕事終わりに行けっこないって諦めて、配信チケットを買った次の日、ワンチャンいけるかもってリアルチケットを買っていた。整理番号は90番台で、どう考えても19:00の開演時間には間に合わないのに、頭で考えるより先に体が動いていた。

数分遅れて入った僕に、「(遅れてきたのは)男かよ!」ってつっこんだゆらくんは、僕のことを覚えていたのだろうか。男でごめんな、若干思ってたけど、ゆらくん僕のことそんなに好きじゃなさそうだから余計にごめんな!

生でお笑いライブを見るのは初めてだった。

空いていた席が前から2列目で、彼らの息遣いや唾の飛沫や額の汗まで見えた。声量が思ったよりも大きくて、心拍数は跳ね上がった。コントの衣装は意外とペラペラで、スケッチブックはダイソーの物で、マイクはSONYで。あのマイクのことはサンパチといって、C-38Bという型番で、コンデンサーマイクらしい。

彼らの胸元にピンマイクは見えなかった。だからこそ、彼らの声が、無機質な媒体ではなく直接耳に届くことが、こんなにも衝撃だとは思わなかった。それ一のコントは画面で見るよりも生で見た方が圧倒的に面白かったし、ライロクの漫才は仕掛けられた何かが爆発した時に笑いを掻っ攫っていった。

ネタの詳細については触れるのは野暮だから置いておこう。ただただ、とってもとっても面白かった。ウケた瞬間の彼らの「やったな」というアイコンタクトや笑顔は、舞台を見ないと感じられないリアルさだろう。

彼らは人間で、かっこよくて面白い、誰よりも輝く芸人だった。

直前まで考えていた仕事の悩みは、全て吹き飛んだ。暗転が開け、ライトの下に繰り出す彼らの姿と、声と、言葉と、「絶対に笑わせる」という強い意志が、拍手と共にはち切れそうなくらいに迫ってくる。もうなんか、すごいとしか僕の頭では考えられなくなっていた。オタクは推しを目の前にするとIQが3になるのだ。

ライブが終わってチェキ会を待つ間、整理番号が後ろの僕はただひたすらスマホを見つめて耐えた。周りは女性ばかり単独男性なんてどこにもいなくて、もう単なるキモい男がいるべき世界じゃなくて、二度と来たくねえとも思いかけた。ごめんな、世界。

とりあえずランダムチェキは2枚買った。手が震えた。「期待しないでおこう」と、物欲センサを捨てた。

我が推し長峯くんのソロチェキが来た。

そんなことある?誕プレじゃん。

もう1枚は4人が舞台裏で揃っているチェキだったが、長峯くんだけピースをしていた。どちらも推しのビジュが爆裂に良いのが手元に来てしまった。こんなおじさんの手元で良かったのか、ごめんな。

僕は以前、13人くらいの韓流アイドルを推していた時に推しを自引きする難しさを痛感していたため、こんな形で推しを自引きするとは思わなかった。しかもこれが500円だとは安すぎる。5万くらい払う。拭えないランダムチェキのギャンブル感。ドーパミン溢れて追加しようかと迷ったが、さすがに自引きしたので、ここは欲を出さず2枚だけにした。偉いぞ、俺は。

にしても、会場は女性ばかりで肩身が狭いとかいうレベルじゃなかった。Twitterでお友達作れば良かったものの、そもそもロクなツイートしない人間には到底できないのである。早く単独参戦するような男性ファンも増えてほしい。

チェキ会は、最後から2番目だったのでひたすら待った。実は待っている間にこのnoteを書いていた。呼び出しをしていた芸人さんに「話しかけようかと思ったけど迷っちゃって」と言われ、「今度来たら話しかけてくださいよ」と言っておいた。ジョーンズの(グングン)小川さんというらしい。いい人そうだった。芸人界隈、沼が深そうだが面白いかもしれない。

本命4人の登場。チェキは2枚購入した。

会った瞬間に長峯くんにハグされた。ここから意識が途切れそうになる。女の子じゃなくてごめんねって思ったけど、これ女性ファンにしてたらセクハラだ、男同士で良かったのかもしれない。

長峯くんから「(クラファンリターンの)手紙届いた?」と言われ、語彙力を失いつつ、気を確かに頷く。今日は僕の命日、南無。手紙に書かれていた僕の名前の漢字が間違っていたことを伝えると、「え、しめすへんやろ?」とさも当たり前のように答えていたので笑った。「ころもへんですね」と訂正したらすごく驚いていた。こんな可愛い天然なところもあるんか、この人。ていうか、彼ら漢字苦手すぎない?

「note読んでるで」と小林くん。小林くんの書く文章はどれも好きだから、すごく嬉しかった。僕が1番好きな文章は、小林くんが本名で別の媒体で投稿してたこの記事。僕は社会人もう5年目とかだけど、未だに大事だなって思って読み返すことがある。

ライオンロックの2人に「髪の毛染めた?」「垢抜けたね」と言われる。気づいてもらえて嬉しいのだが、オシャレになりたかったわけではなく、白髪隠しだとは言えなかった。じんくんがチェキのポーズを色々と決めてくれて助かった。ありがとう。ゆらくん、全然喋れなくてごめん。というか、この記事でゆらくんにずっと謝ってる気がする。

肩組もうって言われたんだけど、僕の身長低すぎるし腕短すぎるし肩硬すぎて回すのに時間がかかって笑いそうになった。肩組むのって同じ身長くらいの人たちがやる物だった。あとこれからは肩甲骨のストレッチしとこうと思った。

「今日チケット取ってくれたんやろ」「来てくれて嬉しかった」「気をつけてな」「面白荘に出られるように祈っとくわ」と色々と言われ、後ろ髪を引かれつつも終了した。僕は芸人にならないよ。

彼らがいつまで経っても輝く芸人として生きていけますように。彼らが志す道が開けますように。七夕の夜にそう願いつつ、僕は混雑すぎる新宿駅を後にしたのだった。

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