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種族の違いを超えて

春の風が吹き荒れる。
ここは、天国か地獄かそれとも現実か

ここは紛れもなく、現実である。

大地は揺れ、土砂が周囲に流れ込む。
まるで地獄そのもの。

私は合戦の最中、巨大な竜巻に巻き込まれ、右も左もわからないまま、何処かへ飛ばされていた。

そして、目の前は暗くなった。
私は人生はなんと儚いものであったか。

ーーー

「おい、うさぎ殿起きるんだ」

ここは、どこだ?
辺りはうす暗い。天国かそれとも・・・

身体を起こすとそこは見知らぬ場所であった。

「何奴!?」
私は話しかけてきたその正体不明な者に刀を向ける。

よく見ると、なんとそいつはカエルであった。

しかもただのカエルではない。幾度となく死闘を繰り広げた、殿カエルであった。

私たち、うさぎとカエルは種族間の争いを何代も何代も続けていた。

その戦いの中で私は幾度か、この殿カエルと対峙してきた。

私はうさぎの大将として、彼はカエルの大将として。

命を懸けて、戦っていたのだ。

そいつが今、私の目の前にいる。

「落ち着くんだ、うさぎ殿。今はそんなことやっている場合じゃない」

「ここで、お前の命を取れば、この戦いは終わる!」

私は刀を強く握り、カエルににじり寄る。

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「落ち着け。辺りを見てみるんだ!この有様だ。生き残っている者を探そう」

そう言われ、辺りを見回してみると酷い有様が広がっていた。
瓦礫が散乱し、土砂で道がなくなっている。

ここでいったい何があったのだ?
それに、殿カエルの様子もおかしい。
直接言葉を交わしたことはないが、噂はよく聞いた。

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傍若無人、我々うさぎを同じ生き物と思っていない。
そして何より、人の裏の裏を書くのが得意で、信用してはいけない。
幾度となくハメられ、仲間を失ったことか。

私もよく今まで、生きられたものだ。

だがこの状況、仕方がなくカエルと一緒に生存者を探したが、1匹も1羽も生存者を見つけることができなかった。


すっかり夜を通り越し、空が明るくなりはじめていた。
これからどうしたらいいのか。

そんなことをボケっと考えているとカエルが遠くを見ながら叫んだ。

「あ、あそこ!煙が上がっていないか?うさぎ殿」

よく目を凝らすと、かすかに煙が上がっているようにも見える。


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もしかしたら、あそこに私の仲間がいるかもしれない。
反対に、カエルの仲間かもしれない。

ただ、ここからも見てわかるが、かなり遠い山の上である。ここから歩いたら、一体どれだけかかるのか。

「行こう、うさぎ殿。きっと誰かがいるはずだ」

「ちょっと待て。私たち二人であそこまで歩いていくのに、どのくらいかかるかわからないぞ。食料だってあまりないんだ」

「食料ならここにあるぞ」

そういって、懐から皮の袋を取り出した。
2日分はありそうな量だ。

「うさぎ殿はどのくらい食料を持っている?」

「私は、」

私は本当の事を言うのをためらった。
カエルの事を信用できなかったのだ。

「私はどうやら、袋をどこかで落としてしまったらしい」

懐にある食料を隠しながら、答えた。

「そうかそうか。ならば半分、分けてやろう」

そう言って、その辺に落ちていた皮の袋に入れて、私に渡してきた。

このカエルは一体、何を考えているのかわからない。

「よし、出発するか!と、その前にその刀重たくないか?これから長旅になるから置いていった方がいいぞ」

私の身長ほどある刀、確かに重たい。

護身の為に持っていきたいのだが、確かにこの旅はこの先どうなるかわからない。
なるべく身軽な方がいいだろう。

先ほどの食料の事で嘘をついたことにより、後ろめたい気持ちがあったので、素直にカエルに従った。

刀をその場に突き立てて、歩き始めた。

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歩き始めてすぐにわかったが、かなり道が悪い。
春らしい暖かい風が吹いていて、心地がいいのだが、歩くのはとにかく大変だ。
でこぼこな道をカエルと二人、とぼとぼと歩いていた。

途中何度か休憩を挟みながら、無言のままひたすら歩き続けた。

「うさぎ殿、今日はこの辺で休まないか?」

久しぶりに声を聴いたかと思えば、周囲は既に暗くなっていた。

「そうしよう、少し疲れた」

二人で並んで、座り込む。
もはや話す気力も残っていない。

しかし、気を抜けなかった。
カエルが本当はうそをついているのではないかという疑いが残っていたからだ。

「なかなか歩きにくい道であったな、うさぎ殿。この分だど、あそこまで行くのにかなり時間がかかるかもしれないな」

カエルはまだ少し元気がある様だ。

軽い食事を済ませて、二人とも焚火にあたりながら寝転んだ。

私は素直に思った事を口にする。

「カエル殿、お主は強いな。これだけ悪道を歩いてもまだぴんぴんしているではないか」

「ん?そうか?それを言うならうさぎ殿だって、まだまだ歩けそうではないか」

「私はすでにくたくただ」

「それに強さというのは、誰かと比較した時にに出てくるもの。強さなんてものはないんじゃないか?いくら強くても、全生き物と力比べることなんてできない。二人だけしかいないなら、なおのこと。強いも弱いもないじゃないか」

そしてカエルは続けた。

「それよりも、うさぎ殿と二人でこうして一緒に旅をできて心強いと思っている。1人だと思うとぞっとする。これこそ、本当の強さではないか?」

カエルはニッコリして、そう言った。

たしかに、そうかもしれない。
私もカエルがいてくれてよかったのかもしれない。

今まで死闘を繰り返した者にそんなことを言われると思ってもみなかった。

そして、こいつは本当に殿カエルなのか?と心配にもなった。

けれど私は、心無しか嬉しかった。

ーーー

次の日、天気は悪かった。

雨が土砂降りで、移動するのは昨日よりも大変であった。

しかし、カエルは反対にテンションが高かった。

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら歩き出した。

足がぬかるんで歩きづらい。おまけに、霧がうっすらと出始めている。

にもかかわらず、カエルはどんどんと先に進んでいき、置いていかれてしまった。

しばらくすると、カエルがついに見えなくなってしまった。

「カエル殿!」

声を張り、カエルを呼ぶが返事はない。

一体どこにいってしまったのだ。
霧がどんどん濃くなり、辺りを見回すが何も見えない。

足元を見ながら、歩いていくが、自分が真っ直ぐ歩けている自信が無い。

次の瞬間、私は躓いた。

あるはずの地面がそこには無かったのだ。
そして、気づいた時には既に水中にいた。

驚き、辺りを見回すと流されている。
どうやら川に落ちてしまったらしい。

土砂降りの雨で川が氾濫していて、ほとんど泳ぐことができない。

息継ぎをするのがやっとである。

この流れの速さではとても泳げない。
もうダメかと思ったその時

ふいに、腕を引っ張りあげられた。

すぐに、川から陸にあげられた。

肺に何度も空気を入れる。

「うさぎ殿、よかった。うさぎ殿が急にいなかったものだから、もしかしたらと思い、川に入ってみるとやっぱりいた」

カエルは安心した表情だ。

そして、すぐさま何かに気がついたのか、表情が暗くなった。

「うさぎ殿、申し訳ない。今川に入った時にうっかり食料が入った袋を流してしまった」

カエルは申し訳なさそうに言う。

「これ」

私は懐から、食料の袋を取り出す。

カエルの表情が明るくなる。

「これは、食料てはないか!でも、どうして?」

「実はずっと持っていたんだ。カエル殿を騙していたんだ。本当にすまない」

私は素直に頭を下げた。

「なんだ、そんなこと気にする事はない。結局、食料はあるんだ。うさぎ殿のおかげで旅を続けることができる」

今度は私がカエルに食料を渡した。

ーーー

そして、さらに幾日か歩き、ついに目的の山に登ることができた。
煙が大きくなり、もう目と鼻の先だ。

二人とも、ろくに食べていないためか、もう歩くこともほとんど出来なくなっていた。

すると、二匹のカエルがふいに視界に入ってきた。

やった!助かった!
うさぎはそう確信し、カエル達に向かいふらふらと歩いて行く。

しかし、その考えは甘かった。

「貴様!何者だ!うさぎじゃないか!タダでは済まさんぞ!」
「あれは!殿だ!殿がいたぞー!」
その呼び声とともに、近くにいたカエル達がわらわらと集まってくる。

私は地面に倒され、何度か蹴りを入れられた。
ここまでの道のりで体力を失い、もう動けない。 

この辺りではまだ、戦争が続いているのか?
大勢のカエル達に囲まれ、なすすべがない。


やっぱり、うさぎとカエルは分かり合えないんだ。

ここまでやっと来られたのに、カエルとも仲良くなれると思っていたのに、無駄だったんだ。
何もかも。

もうだめだと諦めたその時、
私の前に誰かが立ちはだかった。

「貴様らこそ何者だ!」
カエルは懐から刀を出して、カエル兵士達に向かい刃物を向ける。
刀を隠し持っていたのか!?

「ご、ご冗談を、殿」
皆、慌てふためいている。

いったい、何が起こっているのだ?

「冗談ではない!おれはお前らなど知らんぞ!おれの親友のうさぎ殿を傷つけおって!ゆるさぬぞ!」

「待て。待つんだカエル。おまえの配下の者達ではないのか?」
私は訳が分からなくなりながらも、必死に声を絞り出す。

「おれには配下などいない。いるのは、うさぎ殿という親友ただ一人」

「あの日、目が覚めた時には、既におれの記憶はなかった。そんなおれとここまで一緒に旅をしてくれた。そんなうさぎ殿を傷つる輩はどんな奴であろうと絶対に許さない!」

なんだって!
そんな、私はなんということをしてしまったのだ。

カエルは、私のことを本当の友だと、そう思ってくれていた。

それなのに、私は・・・
涙がぽろぽろと頬を伝う。

「ははは、うさぎ殿。すまんな!刀は懐に隠していたのだ!おれは昔から裏の裏をかくのが上手かったらしいな!」

カエルは高らかに大笑いした。

こんな戦争はもう、終わりだ。

種族の違いなんか、どうでもいい。

私たちは、分かり合えるんだ。
涙を拭い、カエルに向き合った。

「ありがとう、カエル殿」

「いいってことよ、うさぎ殿」


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挿絵は「ダ鳥獣戯画」という素材サイトの絵を参考にさせていただきました。https://chojugiga.com/
ありがとうございました。


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