Yusaku Maehara

いろいろと練習の記録。

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雨の日は、お気に入りの靴を履く

「雨の日は、お気に入りの靴を履く」
 新鮮だったアイデアは、やがて使い古されて、その鮮やかさを失う運命にある。 それはあくまで個人的な問題として。 いつからだろうか。 雨の日を楽しむことは”逆”ではなくなり、退屈な考えと化していた。 * 一般的な話として、雨に付随する言葉というのは陰か陽かでいうと、陰の言葉が多いように思う。 憂鬱、じめじめ、退屈、寂しさ…… ここでは、農家にとっては雨は恵みだとか、熱心でない高校球児は雨で部活がなくなって喜ぶとか、個別具体的な話を

    • 感情が言葉になる、ということ

      名もない感情に名前がつく瞬間が好きだ。 自分でもぼんやりとしか認識していなかった感情が、はっきりとした輪郭を得て、それまでよりも鮮やかに感じられる。 私の感情は外の世界に居場所を見つけて、私だけのものではなくなる。 もうひとりで抱え込まなくても良い。 「言葉」は、ときにそんな快感をもたらしてくれる。 * 先日、本屋で歌集を手にとってみた。 いつもなら素通りするところだけれど、少しだけ背伸びしたくなったのだ。 わからないとは思いながらも、わかるかもという希望に全身を預け

      • ある夜の分析

        私は炎天下でコンクリートを練ったり、レンガを運んだりしていた。カンボジアの雨季は日本の梅雨なんかよりはるかに過ごしやすい。スコールは大抵昼から夕方にやってくるので、午前中は照りつける太陽の下活動することになる。現地の子どもたちも一緒である。子どもたちの名前は1週間ぐらいで大体覚えてしまったし、ほんの少しだけクメール語も勉強した。簡単でもコミュニケーションがとれると楽しいし、世界のどこでも子どもは同じように可愛いと思う。大工さんは私たちの何倍も作業が早く、学校建設は順調に進んで

        • 彼女は頭が悪いから

          ※フィクションです。 「彼女は頭が悪いから」 佐久間祥平はそう答えた。 腹わたが煮え繰り返るとはこのことか、と思った。 途方もない絶望を覚える。 彼と、社会と、私自身に対する、ぐちゃぐちゃとした絶望であった。 小学5年生の頃、担任の先生に憧れて教師になろうと決めた。 小中高と地元の普通の公立に通い、特別勉強ができたわけではなかったけれど、大学にも行かせてもらった。そこそこ勉強して、そこそこ遊んで、きちんと4年で卒業して、中学校の先生になった。3年目になって、初めての担

        雨の日は、お気に入りの靴を履く

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        • 短編集
          3本
        • 気まぐれ日記
          4本

        記事

          事実

          明日は晴れ、洗濯物があるよ。 君は住所を教えてくれた。君の家に向かっているよ。 プリンが冷蔵庫にあったんだ。 そんなことで自殺するなんて聞いたことない。 あら、洋服が、素敵ですね。 ねえ、僕の家から見る夜景が綺麗なんだ。 君を抱いた時は、酒を飲んでいた。 外に出る人がいる。感染が拡大している。 ちょっと、風呂がいつもより熱いよ。 ママは酢豚にパイナップルいれない。 事実と、何か。

          地震

          僕はひとりだ。 ひとりとは孤独である。 ひきこもりは孤独ではない。 孤独とはみんなのひきこもりだ。 関わりは僕の問題ではなく、みんなの問題になる。 僕はただ無力の中、引きこもらないことにわずかな希望を託す。 あおぎりの木があった。 松の木ではないのかと、思う。 * 朝起きると、アイツは隣にいた。 アイツとは長い付き合いになる。 形式上は幼稚園に入った頃からの友達だが、いつ友達になったのかなんてわからない。 かといって、気づけば一緒にいたというわけでもない。

          手紙

          東京の街は静まりかえり、柔らかい夕陽。 初めての帰り道は電車。 君の頭が私の肩にいる午後6時。 どんな意味があるのだろう。 考える私、何も考えてない君。 カバンの中の手紙。 決意とためらいの終着点。 伝えなくても、伝えても、二人の距離は同じ。 結末を変えるためじゃない行為。 怖い、迷惑、自分勝手。 言葉に守ってもらう、弱い。 思い出を過去にするため。 素敵な女性になると決めたから。 前に進む、終わらせる恋。 黒いシャツの奥に小さな気遣い。 みんな

          鶏肉

          朝のやわらかな光が窓から、冷たい風と共にやってくる。今日はここで一番に起きたらしい。いつもは無駄に声がでかいアイツに起こされるから、これはいい朝だ。自分で睡眠を終わらせることができた時は気分がいい。自分の意思を感じられるからね。それにしても今日はいい朝だから、今日も労働か、なんて思うと気が滅入るので、そうは考えない。僕は生きているだけなんだ。毎日生きている。朝起きて、生きているんだ。生きていることを労働にするのは僕ではないアイツらなんだから。今日の朝は気分がいいが、あいにく僕

          2020年4月9日 うしろめたさと負い目

          昨日の今日、この本が家に届きました。 ここ1年ぐらい、本屋で見かける度に気になっていたものの、タイトルが好きすぎて実際に手に取ることはなかった本です。 本に限っては、あまりにもタイトルがドンピシャすぎると思考のストレッチが効かない気がして、実際手に取らないことが割とあります。今考えている心地いいところをなぞるだけな気がするのです。この本はまさにそんな印象を抱いていた本でした。 自粛期間で家にいる時間が増え(というかそれだけになり)、本を選ぶ幅を奥にも手前にも広げることが

          2020年4月9日 うしろめたさと負い目

          2020年4月8日 距離感

          カンボジア、シェムリアップ。 6号線と呼ばれるこの道路は、国道の割にひどく狭い。バンを運転するカカダはかなりのスピード狂のようで常にウインカーを出しながら追い越しの機会を窺っている。片道1車線しかない道路に、トゥクトゥクや大型バス、農作業車、極めつけに1家族が全員乗っている原付までごちゃ混ぜに走っているのだから、そのスリルはたまったもんじゃない。初めて車が4台横並びになった時は大事故がよぎった。今となってはそんな光景にも慣れてしまって、日本から持ってきたスピーカーから呑気にJ

          2020年4月8日 距離感

          2020年4月7日 理不尽さ

          家にテレビがない。だからニュースは基本スマホで見るか、気が向いたらPodcastで聞くぐらいだ。引っ越す前、無駄にテレビを見る時間がものすごく無駄だと思っていたので、テレビは持ってこなかった。テレビがなかったらなかったで、今度は無駄にスマホを見る時間がものすごく無駄だと思うようになったので、テレビは関係ないらしい。ただ、テレビがなくて良かったと思うことがあるのも事実だ。 先日、ふらっと昼食を食べに行ったお店で久しぶりにお昼のニュースが流れているのを見た。何の番組だったか思い

          2020年4月7日 理不尽さ

          2020年4月6日 落としどころ

          できることなら、 できることなら何もかも自粛して 誰とも会うことなく ただ、大人しくしていたいと思う。 3月30日、京都の空気が変わった。 どこもかしこも満開の桜、まずまずの天気。例年なら花見客で賑わい、一年の中でも特に活気のある時期なのに、京都の街を歩いている人はまばら。前日まではまだ観光気分が微かに残っている気がしていた。元気に仕事をしていても、浮くような雰囲気ではなかったと思う。しかしその日は、どこか大きな声で話してはいけないような空気が漂っていた。これほどまでに、仕

          2020年4月6日 落としどころ