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2023年8月に私が見た「先発投手・髙橋宏斗」を思い返す

 プロ野球ファンとして過ごすシーズン2年目が終わった。

 2021年の年末、一冊のノンフィクション本を読んだことがきっかけで、それまでスポーツ全般に縁がない人生を過ごしてきた私はプロ野球に興味を持った。落合博満監督と彼に人生を変えられた男たちを描いたその本と、おしゃべりが上手なOBたちによるYouTubeのおかげで、迷うことなく中日ドラゴンズを応援すると決めた(もうちょっと考えてもよかったかもしれない)。
 ちょうどコロナ禍による観客の人数制限が解除されたタイミングで開幕を迎えたこともあり、現地観戦の面白さに一気にのめりこんだ。そして特に応援したいと思える選手の存在が、私の中で漠としていたプロ野球という壮大な世界に、じんわりと輪郭を与えてくれた。

 2022年4月7日、神宮球場でのプロ初勝利を観て感動して以来、髙橋宏斗投手を応援している。
 「186cmの長身から投げ下ろされるえげつない速球」とか、ストレートとスプリットでシンプルに奪う三振の気持ちよさとか、いつもご自身にとっての等身大を世界に見せつけてるようなこざっぱりとした風情とか、「メジャーリーガーから世のお姉様までかわいがられる才能」とか、魅力は言い出したらキリがない。そういう無数の素敵さを引っくるめて、髙橋投手がどんな野球をしてどんなピッチャーになっていくのか、なるべく具に見ていたい。その過程で起こったことや見たこと、感じたこと、考えたことの積み重ねが、いつか時間が経ったときに私なりのプロ野球の醍醐味・テーマになるんじゃないか。そんな願望みたいな動機で、球場に通っている。

 そういうわけで、シーズンを振り返ろうとすると、どうしても「先発投手・髙橋宏斗」の記憶をたどることになってしまう。髙橋投手が投げていない試合の方がたくさん観ているのにも関わらずだ。北極星みたいなもんだから、仕方ない。

 以下、2023年の私の野球観戦を通じて一番印象深く濃厚だった8月の「先発投手・髙橋宏斗」について、思い返したことをまとめておく。実際に見たこと・起こったことと、そこから私が考えたこと・感じたこと・推察したことは、そうとわかるよう区別して記す。情報は慎重に扱っていますが、万が一、記憶違いや事実誤認、ルール・技術的なことに関する表現および知識の誤りがありましたらご容赦ください(その際はご指摘くださるとうれしいです)。


①2023年7月29日(土) 東京ドーム 巨人戦

巨人 6-3 中日 (● 3勝7敗)

 マツダでの後半戦開幕投手を経て、まだ勝てていない巨人戦。ストライクが入らず、初回から2者連続四球で満塁、2失点。丸選手にタイムリーを打たれ、ついつい昨年5月14日の同カードを思い出す。気が遠くなるほど長く感じた、あの日の5回裏は丸選手が先頭打者だった。5回5失点で降板。

 苦しいながらも精一杯の投球をしていると感じた。5回でマウンドを降りる髙橋投手を見るのがひさびさで、恥ずかしながら深くショックを受ける。
 翌30日の試合前練習では、コーチを交えてかなり丁寧にフォームチェックをしているようだった。ベンチに引き上げていく様子が見るからにしおしおで、「これは大変なことだ…」と思ったのをよく覚えている。加えて練習を見ている最中に早出の記事が出て、壮絶な気持ちに。

 この30日も先発・柳投手の、魂を見せてくるような投球(大好きだ)が報われず、とんでもない負け方をした。疲労困憊した水道橋からの帰路、「8月の登板はすべて観ておこう」と決め、翌週5日のチケットを手配。これが底であってくれと思えるほど苦しい状況に、どうやって対応していくのかが知りたい。あと、心配(オタクですからね)。

 最近になって出たインタビュー記事(中日新聞 2023年10月31日朝刊/電子版あり。閲覧は会員限定)で、29日の敗戦後、落合ヘッド・大塚投手コーチと「ファームで調整するかどうか」の話し合いがあったと知る。やっぱり大変だったし、ターニングポイントだったんだな〜。

②2023年8月5日(土) バンテリンドーム ヤクルト戦

中日 4-2 ヤクルト (◯ 4勝7敗)

 初回、バタバタしたところに暴投で1失点。それでもビシエド選手のタイムリーで即座に同点に追いつく。2回裏は見事に打線がつながって、土田選手の勝ち越しタイムリーから一気に3点リードに。7回で先頭に四球を出したタイミングで交代。マシンガン継投にざわざわするも、危なげなく試合終了。6月21日の楽天戦以来の勝ちがつく。9奪三振。

 3勝目からの1ヶ月半、あまりにも長かった。とにかく「一生懸命!」って感じの内容だったし、ヒーローインタビューでまず「申し訳ない気持ちでいっぱい」という言葉が出たのは、率直な気持ちだったんだろう。『Truth of Dragons2023』で柳投手も「ピッチャーって勝ちがつくと全然違うんですよ」と言っていたけど、勝ちがついて人心地つける感覚や、そこでようやく腑に落ちる試行錯誤もたくさんあるんだろうか。この日のヒロインで、髙橋投手は「少しずつ良くなってはいるけど、全然まだまだ納得がいくボールも少ない」とも発言している。それで思い出したのが、先述した7月29日の試合についての髙橋投手のコメントで、

「修正しながらいろんなことに取り組んでいるが、結果が出ないと、それが正解だとは言えない。しっかり修正しないと今後はないと思う」

東スポweb 2023年7月29日配信 記事リンク

 白星というわかりやすい結果が出たけれど、そうでない日もある以上、前に進んで続けていくために「納得できているか」の質量は大きいんだろうな…。

③2023年8月12日(土) バンテリンドーム 広島戦

中日 3-2 広島 (◯ 5勝7敗)

 初回から細川選手、宇佐見選手のタイムリーで一挙3点リード。髙橋投手のピッチングも文句なしの気持ちがいいもので、7回無失点でリリーフ陣へバトンタッチ。21歳初白星。

 7回裏ツーアウト1、3塁のピンチを切り抜けた際のガッツポーズが、ただただ泣けた。 前半戦の途中〜交流戦あたりは「淡々と投げる」ことと格闘している印象があったけど、アクシデントもあった7月を越えて、8月に入ってからはご自身らしく、素直に感情と向き合ったうえで気持ちを整えて投げているような印象で、特にこの日の7回裏は余裕を感じさせつつ「野球を楽しんでて、いいな!」と思うようなピッチング、立ち居振る舞いだった。髙橋投手に限らず、きっとプロ野球選手は子供の頃から好きだったことを仕事にした人が多いと思うので、彼らが「好き」の先にある世界で楽しんでる姿を見せてくれるのは、すごく嬉しい。

 今オフのTV出演やインタビューで、髙橋投手はシーズンを振り返って「メンタル面は安定していた」旨の発言をしている。それはいろんな助言や努力、試行錯誤、そして場数があってのことで、そういった普段は我々ファンにはわからない、見えないことを後からでも言語化してくれるのは、本当にありがたい。

 そして翌日、球団公式 SNSで公開された「ONEBLUE」が最高だった。

 この試合、本当に「EXIT」としか言いようがない…!  添えられた「努力は地続きだ」というコピーも完璧だ。
 この文章の最初に「輪郭」と書いたけれど、プロ野球を観て、贔屓のチームの今日の勝敗に一喜一憂し、応援する選手の1球1打席に情緒を持っていかれることは、どれもとんでもなく「線」の感動で、継続的な行いだと思う。
 じつは最近、冊子になったもの(『ONEBLUE Cuts!』)が届き、このページを見て「そうだ、2023年8月のことを書き残しておこう」と思い立った。感動の輪郭を何度もなぞるような気持ちで、このnoteを書いている。

④2023年8月19日(土) 神宮球場 ヤクルト戦

ヤクルト 3-2 中日 (● 5勝8敗)

 初回先制のツーランホームランを打った石川選手への頭部死球、さらにこの時期のドラゴンズファンにとって数少ない楽しい話題であった岡林選手の連続試合安打がストップで、3塁側スタンドは厳しい雰囲気。追加点が取れないまま、髙橋投手は6回四球にエラーが絡んだところに暴投で1失点、さらにバッテリーエラーから逆転勝ち越しをくらって7回3失点で降板。

 打線がつながらない中、それでもいい球を投げてギリギリまで踏ん張っていたけれど、踏ん張りきれなかった…という試合。

「長打を防ぐために、低めを意識しすぎました。キャッチャーも捕れないところへ投げてしまいました。ボール一つ一つはよくなっていると思います。あとは『ここ』という場面でのコントロールです」

中日スポーツ 2023年8月20日配信 記事リンク

 試合後の髙橋投手のコメントが、非常にはっきりしたディティールの話で、面白い。神宮は試合後にベンチから引き上げる姿をかなり近くで見届けられるけど、この日は結果はともかく、スッキリした顔つきをされているように見えた。そこにはコメントにあるような「納得」と「悔しさ」が一緒にあるんだととしたら、ピッチャーってすごい仕事だなあ、と改めて思う。先週の試合で感じたことと相まって、「もう大丈夫だな」という気持ちに(オタク)。

⑤2023年8月26日(土) バンテリンドーム  DeNA戦

中日 0-2 DeNA (ー  5勝8敗)

 延長12回までもつれた、4時間45分の長い長い投手戦。髙橋投手は7回無失点で継投へ、勝ちつかず。大島選手が2000安打を達成するも、チームは8連敗。

 とんでもない試合と不穏なニュースが連日続き、ぐったりしながらもなんとか名古屋にたどり着いて観戦。この日から髙橋投手の登場曲が、いきものがかりの「笑顔」に変更される(打席登場曲もシャイトープ「ランデヴー」に変更)。等身大で可憐な感じの、いい選曲だなあと思う。

マウンドを任せてもらうため掲げたのは、1イニング15球以内での投球。「ゾーンで勝負して、三者凡退で終わる形を増やしていきたい」と話す。

中日スポーツ 2023年8月25日配信 記事リンク

 前日に出た記事のコメントどおり、7回投げ切って105球。有言実行すごい! それにしても、この内容で勝ちがつかないとは…野球って、マジで大変だ。

おわりに

 わずか1ヶ月を振り返ってみて、見ているだけの私を襲った感情量のすごさに「週に6日試合があるプロ野球、とんでもないな…」と改めて衝撃を受けた。自分の人生や仕事を過剰に重ねることはしたくないけれど、野球を好きになったせいで明日がもっと楽しみになったり、来週の登板が待ち遠しくてたまらないのは、本当に幸せなことだと思う。

2023年9月16日バンテリンドーム 筆者撮影

 2024年も野球をたくさん見て、とんでもない状況に白目をむいたり、嬉しくって倒れそうになったりするはずだ。そして、見れるものは何でも見たいけど、M1背負ってマウンドに上がる髙橋投手が見れたら最高だな、と思っている。