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スタートアップの資金調達方法「J-KISS」とは|納得感の高いコンバーティブルエクイティとは

ファイナンスブログ#7

今回はJ-KISSと呼ばれる転換価額調整型新株予約権を発行することによる資金調達方法について紹介します。

J-KISSとは、J(Japanse)-KISS(Keep It Simple Security)の略であり、日本版かんたん契約書というような略語になります。coral capitalさんが海外から持ち込み、日本用に修正した雛形です。

J-KISS(転換価額調整型新株予約権による資金調達)は、個人的には起業家側が有利に資金調達できる方法かつ納得感のある資金調達方法だなと思いました。特に、スタートアップに向いているとも言えるでしょう。

J-KISS(コンバーティブルエクイティ)による資金調達について

J-KISSは主にPMF前のスタートアップにとって嬉しい資金調達方法です。

通常、どのくらいの伸びが望めるか不明なスタートアップに対しての評価は交渉時に「1年後にどれくらいの時価総額になるのか」「果たしてこのバリュエーションは適切なのか」といった問題が発生します。しかしJ-KISSを使うことで、将来、その時の時価総額に応じて株式を放出するため、現在の株式を渡すことなく、迅速に資金調達が可能です。

簡単に言うならば、転換できる株式の%を明確に決めておかないまま新株予約権を発行し、それを投資家側に渡すことで、主にシード期での株式の希薄化をスキップすることが可能です。

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これにより、予測以上にトラクションが生まれ、調達直後に業績がよくなったときに「あの時あの価格で放出しなければよかった、、、」といった、投資金額や放出株式比率に対する起業家側の納得感が生まれやすくなります。

これまでは、投資家側としては投資したスタートアップが次のステージにいった際に時価総額がかなり上がっていればよいのですが、起業家側の納得感はそ

こまでありません。そういった意味で、転換価額調整型新株予約権はフェアな契約だと言いやすいでしょう。

転換価額調整型新株予約権を発行する際の論点

J-KISSでの調達(転換価額調整型新株予約権)の際に論点となるのは2つであり「ディスカウント」「バリュエーションキャップ」です。

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ディスカウント

ディスカウントとはその名の通り、割引率のことです。これは投資家にとって不利にならないようにする条項です。

例えば、シード期に調達する際に出資を受ける側のアップサイドが大きいと起業家・投資家共に判断している場合、時価総額1億円で1000万円(株式比率10%)を放出するのが適さない場合があります。(次のラウンドで時価総額が20億円以上になるかもしれない)

そういった時に、時価総額を決めず新株予約権を発行するのがJ-KISSですが、時間価値が考慮されていません。(シード期に投資した投資家の方が先にリスクを取っている)

そのため、次のラウンドの際に「本来株式を割り当てるよりも安くするよ」というのがディスカウントです。

例えば、シード期に時価総額1億ディスカウント20%で2000万円分の新株予約権を発行し、次のラウンドで時価総額が5億円になったとします。

本来であれば、時価総額5億円の場合、2000万円では株式を4%しか取得できませんが、J-KISSで新株予約権を取得している場合、時価総額を20%割り引いて株式を取得(時価総額5億円の場合、時価総額を4億円として株式取得可能)できます。そのため、時価総額5億円の企業を2000万円で5%保有できます。(1%増加=投資家は1000万円分の得)

バリュエーションキャップ

また、こちらも投資家保護の観点で入っている条項です。バリュエーションキャップとは、簡単に言うと「株価が大きくなりすぎた時に投資家がほんの少ししか株式を取得できないリスク」を低減するものです。

極端な例ですが、シード期に時価総額1億円で2000万円分の新株予約権を発行したが、次のラウンドで時価総額がいきなり20億円になってしまった。という場合を想定すると、投資家はディスカウント20%を受けても1.25%しか株式を取得できません。

そのため、新株予約権発行時にあらかじめ「時価総額がこれ以上になったら、この数字として株式を取得する」とします。

「次回調達時の時価総額(プレバリュエーション)は最大でも5億、それ以上超えたら5億円として株式と転換する」と決めておくと、スタートアップの時価総額が20億円になっても4%取得できます。(2000万円で8000万円分の株式を取得)

まとめ

とりきめる条項が多いため、スタートアップがコストをかけるのはもったいないですが、テンプレートとして誰でも使えるよう公開するのはかなりよい活動だと考えています。

投資家も「高すぎる」という判断を回避でき、起業家も「安すぎる」という判断を回避できるため、これからもJ-KISSの利用が増える気がします。

coral capitalさんが持ち込んだJ-KISSのように、海外のファイナンスなどはもっと日本に持ち込まれてもいいかなと思いました。

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