隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密 (Harvard Business School Press)

先日東京でお会いした方の紹介で、『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密 (Harvard Business School Press)』を読んだ。

隠れた人材価値 Harvard Business School Press | Jeffrey Pfeffer, Charles A. O’Relly III, 有賀裕子, 廣田里子, 長谷川 喜一郎 | 実践経営・リーダーシップ | Kindleストア | Amazon

本書内では、下記の7つの会社のサクセスストーリーを人材戦略というカットで述べられている。

サウスウエスト航空 / シスコシステムズ / メンズウエアハウス / SASインスティチュート / PSSワールドメディカル / AESコーポレーション / NUMMI

 本書の切り口はこうだ。
「ビジネスモデルが特段イノベーティブであったわけでもない、これらの企業が一体どうしてこれほどまでの成功を収めたのか?しかもそれを他の大会社が真似しても、決して成功し得なかった。これはまさにミステリーだ!」

 成功の要因についていくつか述べられているが、
一貫して強調されているのは、以下の2点にまとめられる。

* 真に従業員満足を重視した。
* 『文化によるインテグレーション』を重視した。

シスコやSASインスティチュートの章で述べられているように、人材側が超売り手市場であった(現在もだが)当時のシリコンバレーのコンピューター関連企業と比べるとべらぼうに高い報酬を与えているわけでもない。 それなのに離職率は非常に低く、一桁パーセントであり、社員の満足度も高い。 それに伴って顧客満足度も高水準となる理想的なスパイラルができあがっている。 例示された企業は、従業員の満足を真に重視し、素晴らしい労働環境を用意されることで、生き馬の目を抜く業界でもそれぞれ圧倒的な顧客満足を実現し、競争を勝ち抜いてきたというわけだ。

話が少し逸れてしまうが、エンタープライズ分野の(大規模でない)ソフトウェアカンパニーが目指す1つの形だろうと思う。
エンタープライズでは、瞬間で潤沢なキャッシュフローを得る機会が極めて少ないため、
いきなりスーパースター人材を次々と獲得し、個人のパワーで競争を勝ち抜くという芸当が難しく、
現有戦力を中心としたチーム力での勝利が自然と要求される。
ただ、決してそれはマイナスではなく、チームでより大きな成果を出すという経験ができるし、それは相当に尊い。
エンタープライズという特徴を活かして、腰を据えてチーム力や技術力の向上にも力を注げる。
例えば私が所属する会社であれば、波はあるものの、他の地方ソフトウェア企業とは比べ物にならないくらい、帰宅時間は早いし、その分新しい知識の習得に時間を使えている。
サービス提供形態が年額または月額による課金形式であるために、当然継続的な Add value が要求される。そのために新たなチャレンジをする継続的な動機付けもある。

ただ、転職市場において、やはりエンジニアやセールスは圧倒的な売り手市場だ。潤沢なキャッシュフローを持つ企業からの引き合いは常にあり、技術力をつけるのはどの会社でもその人次第で可能であるため、
より条件の良い企業に流れるのは経済合理性から見ても正しい。

そこを文化、更に掘り下げると、価値観を以て自社に従業員をインテグレーションし、かつ真に従業員を重視し続けた結果、圧倒的な従業員満足と顧客満足度を獲得したのが本書で述べられた 7 社なのだろう。

ちなみに、本書の初版は 2002 年であるが、少なくとも2014年時点でシスコは世界最大のコンピュータネットワーク企業の地位を盤石に保っているし、SASインスティチュートも、FORTUNE 紙 の「100 BEST COMPANIES TO WORK FOR(最も働きがいのある会社ベスト100)」にて 2010-2011年連続で1位を獲得し、2013-2014年もGoogleに次いで2位を獲得しており、安定した市場基盤を保っている。

また、文化で組織をリードした会社といえば、DEC社が有名であり、古典的名著『Engineering Culture(邦題:洗脳するマネジメント)』にて詳細が民族誌の形式で述べられている。ただし残念ながらDEC社は(原因は様々語られているので割愛するが)コンパックに買収されてしまったため、企業としては既に存在していない。

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