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[不思議な話] 女狐と一緒に駆け落ちしようとしてできなかった下男の話。

2019年に雑誌「人間生活文化研究」に掲載された大喜多紀明さんの論文。文明開花以降,迷信を信じるひとの割合は減っているはずだが,憑依体験をするものの数は減っていないという飯田順三氏(1989)の考察が引用されている。

以下は上の論文にある憑依体験の一例。読みやすいように文体や表現は私が変更している。

明治のはなし。秋のころ,野にはそばの花が咲いている。熊本県八代市芝口村に,遠山という豪家にひとりの下男がいた。ある日の朝,下男は,主家の用事で隣村まで使いに行った。その帰りのこと,畠の中から一匹の狐が飛び出すのをみた。

主家に帰ったが,使いの結果がどうだったか問われても返事もしない。下男はすぐに自分の部屋に行くと,着物を着替え,そのまま姿をくらました。正午のことだdった。

夕方まで百姓はみんな仕事に出ていたが,その下男は顔を見せなかった。

夕方になって,下男は裏の馬小屋の2階に隠れているところを見つけられた。見つかると,下男は慌ててその馬小屋を飛び出し,家の横を流れる大河の土手を,東へと急足で歩いていった。

家人はすぐに下男を追いかけた。すぐに,100 メートル,200メートルくらいまで追いついて,声をかけるが,下男は止まらない。歌人が走れば,下男も走って,逃げていく。

やがて7人,8人でなんとかかんとか下男を取り押さえた。向こうから,たまたまきた人たちも取り押さえるのを手伝ってくれた。そうして,みんなで下男を主家まで連れて帰ってくれた。そうして,無理やりに,下男は布団に寝かしつけられた。

夜になって,下男は眼を覚ます。そして。「ここはどこだ」と聞く。「遠山の主家だ」とまわりにいたひとは答えた。

「へへえ」と言って下男はしばらく呆れた顔をしていたが,やがて,こんなふうにこれまでの次第を下男は話し始めた。

朝使いに行った。主人の家の近くまで帰ってきていたのは覚えている。そのとき,道ばたに一軒の家があって,格子の向こうに綺麗な女のひとがみえた。女は下男に「お入り」という。そこで,家の中に入って,下男と女はいろいろな話をした。そのうち,女は一緒にどこかへ行こうじゃないかと言い出す。そこで下男は女と一緒に家を出た。ところが,後ろから大勢のひとたちが自分を呼ぶ。一生懸命に女と走った。自分は女と一緒に駆け落ちしているつもりであったと下男は行った。


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