ICRA 2019 Tactile分野をまとめる part1

ICRA (International Conference on Robotics and Automation) 2019の論文がオープンになったので,筆者の興味の対象であるTactile分野に関する論文の調査を行います(* arxivに乗っているもののみ掲載します).

IEEEのICRA2019のリンクで,"Tactile"のキーワードでヒットした33論文をざっくりまとめます.ビジョンとの統合をどう学習させるかというところが多くヒットしました.一方,GelslimやElectric Impedance Tomographyなど最近でも着目を集めている1次元情報取得の工夫が多くみられました.

随時更新する予定です.間違いや議論のポイントなどありましたら,Twitter やNote上で気軽にご連絡ください.


なお,触覚センサについて,基本的な知識を得たいと考えている方には,下条誠先生の素晴らしいSlideShareが掲載されていますので,そちらを参考にしてください.

1.GelSlimを用いた滑り予測検出(MIT Siyuan Dongら)

論文リンクはこちら

触覚情報は,主に物体の重さや位置検出,滑り検知などを知るために用いられます.とりわけ滑り情報を予測することは,安定的な把持のために必要です.

GelSlimとは,視覚情報を用いた触覚センサです.

対象物との接触部に柔らかく透明なGelを搭載し,物体表面付近にはドットを複数打ち込みます(せんだん力測定のため).圧力によるゲルの変形で,ドットの構成が変化し,カメラが変形をとらえ,垂直抗力及びせん断力を評価します.

2016年にMITのグループが発表して以来,数々の発展がなされてきましたが,今回の論文では滑り予測にフォーカスされたというわけです.

ちなみに,同じグループから,有限要素法によるGelslimの変形の解析が行われています.こちらは映像付きなので,実際の動きについて理解しやすいかもしれません.

https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/8794113落合さんの形式になぞらえて

 (i). どんな手法?技術の肝は?

(ii). 先行研究と比べて何がすごいの?

(iii). どうやってその有効性を実証した?

(iv). 議論はある?

(v). 次読むべき論文は?

という感じでまとめていきます.

(i)どんな手法?技術の肝は?


上図のように,ペットボトルキャップの開閉を行うときに,マーカーの変位場を予測(赤色)するベクトルと,実際の変位(黄色)を比較します.その差が大きい場合,エッジ領域で初期滑りが生じ,オブジェクトがずれていることになります.しかし,端の変位なので,まだ全体が滑ってしまうわけではないことが,滑り予測のポイントです.

摩擦係数や質量,形状などの物体の事前情報がなくとも24Hz程度で観測が可能であるため,ひねる動作において安定的であるということが分かります.

肝は接触エリアの中心が滑らないと仮定していることです.接触エリアから中心を検出し,中心のトルクや速度計算を行うことで変位場の予測を行っています.真性的に滑りやすい物体での把持を行うときには注意が必要な設計です.ただ,初期滑りは一般に接触部の端っこから始まるので,この仮定は妥当といえそうです.

OPEN CVのライブラリを利用します.

Step1:接触領域の顕在化
Step2:実際の変位場の計算
Step3:基準点の剛体運動を推定
Step4:上式より各点の変位の推定
Step5:初期滑り領域の算出

という流れで初期滑りを検出するようです.ライブラリの詳細はおそらく2017年のGelsightの滑り検知の論文に書かれているはずですのでリンクを張っておきます(フォローできてなくてすみません).

(ii). 先行研究と比べて何がすごいの?

先行研究例として1.振動型センサと2.相対運動検出(視覚情報ベース)センサの比較がされていました.振動型センサは高速,広範囲で動作可能,柔軟性がありますが,センサ空間分解能が低く位置検出機能がないです.

相対運動検出は,エラストマー(弾性のある材料,ゴムなど)と物体の直接変位を観測するので,滑りやすい物体では検出が困難です.

これに対して提案手法は,Gel表面のドット変位を検出するため,表面材料は可変で,摩擦係数を任意設計できます.また,画像解析の計算コストを減らしリアルタイム性を向上させました(24Hz).

センサ応答速度:カメラフレームレート(30Hz?)

フィードバック応答速度 : 24 Hz

測定面積 : 3*4cm

測定空間分解能 : ドット間距離(記載なし)

柔軟性 : Gelの弾性率

摩擦耐性 : 表面のフィルムは簡単に交換可能

感度: 記載なし

(iii). どうやってその有効性を実証した?

検証方法は2つありました.1つは,10個の摩擦係数,形状,重量が異なる日常的なオブジェクトを用意します.把持時に,滑りを与える試験,滑りを与えない試験を並進運動と回転運動に分けて検証し,滑ったか否かの判定の正答率で評価します.

2つ目に,(i)のようなキャップ開閉の試験を行い,リアルタイムでの滑り観測を行います.滑りを検出すると10~60Nの間で把持力を上げます.トルクが60Nで動作終了となります.位置ずれが無いようにあらかじめペットボトルを固定し,キャップをある程度かぶせた状態からのスタートのようです.

 (iv). 議論はある?

滑り試験ではGelSlimの課題である柔らかい物体に対する把持の問題が指摘されていました.つまり,Gelより変形しやすい対象物では把持時に十分な変形を観測できないため,接触中心などを検出しにくい問題があります.それでも10個の対象物のうち滑り検出精度は86.25%であり,24Hzでの検出は従来の8倍高速だそうです.

個人的な見解では,人間の手を考えれば,手より柔らかい物体も知覚可能であり,非剛体の検出が今後の課題でしょう.

キャップ開閉試験では,特に問題なく終了しています.非常に簡単なアルゴリズムですので,動作のスムージングが進むでしょう.

(v). 次読むべき論文は?

光学触角センサの分野は,GelSight以外にもICRA2019でもうひとつ紹介がありますので,そのあたりでしょうか.


まとめ

本リサーチでは,ICRA2019のTactile をキーワードに調査をし,そのうちGelsilmを使った滑り予測を調査しました.本論文のまとめと展望は以下の通りです.

GelSlimで変位場の追跡機能を用いた初期滑りアルゴリズムを確立

硬い形状のものであれば,ほぼ確実に滑りを検出(滑りやすくても可能)

変形しやすい物体には接触位置を検出するため大きな力が必要

最小把持力制御により,壊れやすいものの安定把持に貢献


今後もバシバシ載せていきますので,おかしなところ,分かりにくいところがありましたらご指摘ください!!

参考資料

下条誠 これからの触覚技術の補足資料(Slideshare)

IEEE ICRA 2019