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Charaenoが生まれるまで

2021年1月、私の心は腐りかけていた。目下の目標であったBCDice 3の作業が完了してしまい、存在意義を失いかけていた。気心の知れた仲間たちとのオフラインセッションが私の心の洗濯なのだが、パンデミックによりかれこれ1年も開催できずにいた。外出もできない状況下で熱中できそうなことといえばリモートワークとなった仕事くらいなものだが、当時の仕事に対しては意義を全く見出せなかった。

このまま何もしなかったら、私は腐り果ててしまうだろう。一人で過ごす元旦の寂しさを紛らわすために、TRPG仲間である親友とDiscordで通話しながらそう思った。

そこで、生きる意義を見出すために一計を案じた。2021年中に何かを作るという、目標を設定するのである。私は、以前から構想のあった『新クトゥルフ神話TRPGの探索者シートサイトを作る』を目標にした。通話していた友人にその目標を話し、後退できないようにした。

新クトゥルフ神話TRPGで使える探索者シートサイトはいくつかあったが、どれも使いたいと思えるものではなかった。かねてから新クトゥルフ神話TRPGを周りに布教したいと考えていたのだが、ツールがしっくりこないとなるとオンラインで遊ぶモチベーションがどうしても生み出せなかった。セッションができない悲しみはセッションで癒すしかない。ならば、自分の手で満足のいくキャラシサイトを作って、それを使って遊べば良い。そういう発想だ。

決まってしまえば話が早い。正月休みを使って早速作り始めた。まずはHTMLとCSSのみを使って、見た目だけのハリボテを作るところからだ。これに関しては以前に着手した貯金が少しあった。この時点ですでに、ルールブックにある本来の探索者シートを絶対的な基準とし、そこにキャラクター保管所のエッセンスを取り入れるということは確定事項だった。私のクトゥルフライフはキャラクター保管所で生まれたが、Red Worm Sanatoriumが配布している公式そっくりの印刷用シートとともにオフセで育った。ハリボテは正月休みを少しオーバーした頃に完成した。

サイトの命名について触れると、構想段階でのコードネームはCthulhu Storageだったと思う。ハリボテが出来上がった頃にはCthustorageとCthurageが候補に上がっていた。

ハリボテの作成と並行して、どのような技術を使って実現するかの検討をした。決定までの詳細は省くが、最終的にフロントエンドをTypeScript + NuxtJSに、バックエンドとなるAPIの実装をGo + Echoに、DBをMariaDBにした。NuxtJSを採用したのは、Twitterカードの動的な表示にSSRという仕組みを使うためだ。技術選定についての細かな話は別の機会に話せたらと思う。

決め事が済んでからは、空き時間を使ってモーレツに開発を進めた。仕事が終わったら開発、土日も開発、たまにゲーム、というのを繰り返していたように思う。そんなとき、『風説たまゆら電報局』という企画が仲間内で目に留まった。そして友人曰く、『苦難の民は陰界と消ゆ』というシナリオが新クトゥルフ神話TRPGのインスト向きらしい。さらには、その友人がKPをしてくれるというのだ。このシナリオを遊ぶときに自作のキャラシサイトを使えるようにすべく、開発は加速した。その結果、1月20日には新クトゥルフ神話TRPGの探索者シートが作成・共有ができるまでになった。我ながら頑張ったものである。

ここまでの間にサイト名をCharaenoとすることが決まった。探索者シートサイトはいわば探索者の図書館であると考えていた。クトゥルフの世界で名前のついた有名な図書館がないか、それこそミスカトニック大学の図書館に名前がついていないかとネットを探していたところ、代わりにセラエノ(Celaeno)という場所が見つかった。これはなかなか良い名前だと思い、初めはそのままCelaenoと命名しようかと考えたが、検索性なども考えてcharacter と Celaeno を合成してCharaenoと命名した。

Charaenoの初めての実地テストは、1月30日に開催された『苦難の民は陰界と消ゆ』のセッションで予定通り行われた。私はプレイヤーとして参加し、とても楽しく遊ぶことができた。友人らのおかげで些細なバグは見つかったものの、使い勝手が非常によく、方針は何も間違っていないとわかった。Charaenoがどんなにマイナーのままになろうと私は使うだろうし、友人らも使ってくれるだろうと確信した。この時、Charaenoが世に生まれ落ちることが確定した。

ここからは6版の対応もしつつ、外部の意見を聞いていく段階に突入した。まず、新クトゥルフ神話TRPGをよく遊んでいる知人数人に声をかけ、触ってみた感想を聞いた。その中でクイックスタート・ルールに対応してほしいと要望をもらった。すぐに実装し、結果としてCharaenoの売りの一つになった。この時からすでに、技能のカテゴリ順や能力値一括ダイスロールや画像登録機能など、公開から現在までに寄せられている大体の要望が意見としてあがっていた。しかし、これらの提案は徹底して退けた。ルールブックへの準拠やルール参照の必要性、誰が見ても状況が変わらないことやサービスの継続性といったCharaenoの信念を貫くためである。

要望の内容を検討している中、意見をくれた友人の一人からシナリオテストプレイのお誘いが来た。これは好機とCharaenoの実地テストを相乗りさせてもらえないか打診したところ、快く引き受けてくれた。私がプレイヤーとして参加する1回目のテストプレイは2月20日に、観戦させてもらうテストプレイ2回目は2月23日の開催となった。

Charaenoのアイコンはテストプレイの日程を詰めている時期に完成した。検討はCharaenoという名前が決まった頃から始まっており、元ネタであるセラエノの設定に何か良いモチーフがないか調べて回った。図書館を管理しているのは円錐型の生物なのだが、絵に起こせそうにもない。この生物については情報が無さすぎて、もしかしたらイスの偉大なる種族なのかと考えたりもした。セラエノがハスターの支配下だからと、黄色のローブをモチーフにすることも検討した。しかし、ネットだけでは情報が十分でないこともあり、どのモチーフも決め手にかけていた。

こうなったら登場作品を読む方が良いと、セラエノの初出作品であるオーガスト・ダーレスの小説『永劫の探求』を読むことにした。永劫の探求の日本語訳は『暗黒神話体系シリーズ クトゥルー2』に収録されているので、ぜひ読んでみてほしい。手に入れてすぐに目を通すと、非常に面白く、するすると読み進めることができた。物語を楽しんでいたときに、モチーフとして黄金の蜂蜜酒が目にとまった。セラエノへ行くには初めに黄金の蜂蜜酒を服用し、そして笛を吹いて召喚したビヤーキーに騎乗するのだ。Charaenoという場所に来てもらうために黄金の蜂蜜酒を持ってもらい、加えてハスターの証である黄の印をつける。このアイディアのシンプルかつメッセージ性がとても腑に落ちた。その発想から少ない画力を使って実現したのが現在のアイコンである。

アイコンが完成してからしばらくして、予定していたテストプレイの1回目が開催された。様々なアイディアやフィードバックをもらい、項目の折り畳みやダイスロールタブが実装された。Charaenoへの評価は非常に良好で、もう公開できるレベルまで仕上がっていることを確信した。私は早くCharenoを公開したくてたまらなくなったが、次のテストプレイが控えているからと、なんとか辛抱した。2回目のテストプレイでも問題は見つからなかった。セッションとヒアリングが終わり実地テストに協力してくれた人々と別れた。その直後に、私は胸を高鳴らせながらリリース作業を行った。

こうして、この記事の公開日からちょうど10ヶ月前である2021年2月23日にCharaenoが生まれた。

このポエムはTRPG Advent Calendar 2021で12月23日を担当している。

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