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「SANチェック」という言葉の源流を紐解く

ネット界隈にいるクトゥルフ神話TRPGプレイヤーであれば「SANチェック」という言葉が広まっていることは承知であると思う。しかし興味深いことに、「〈正気度〉ロール」を指す「SANチェック」という言葉は、クトゥルフ神話TRPG(以後6版と呼ぶ)と新クトゥルフ神話TRPGのどちらのルールブックにも書かれていないのだ。

この言葉が広まった理由は明白で、ニコニコ動画に数多く投稿された6版のリプレイ動画の影響である。大半のリプレイ動画ではなぜか「SANチェック」という言葉が用いられる。現在はリプレイ動画よりもライブ配信にシフトしているが、クトゥルフ神話TRPG群の流行を牽引しているプレイヤーの多くが動画勢だというのが、この言葉が広まっている理由だろう。

最近 Charaeno という探索者シートサイトを製作したのだが、そこでは「ルールブックに準拠する」という点を非常に重視した。確認のためにルールブックを何度も読み返すうちに、一つの疑問が浮かび上がった。ルールブックに書かれていないようなワードを使ったということは、6版動画の作者らどこかでその言葉を仕入れた事になる。ではどこで知ったのだろう? その源流はどこなのだろう?

この疑問をTwitterで投げかけたところ、多くの方から情報をいただいた。せっかくなのでそれらの情報を記事としてまとめ、どのような因果があったのか推測する。あくまで推測の域を出ないことにご注意いただければ幸いだ。

古い版にも「SANチェック」の記載はない

SANチェックの源流として真っ先に想像できるのが「6版より前のルールブックでは公式用語だった」説だ。この説は以下の2ツイートの情報提供により否定された。

初出は日本公式シナリオ?

ルールブックには記載がないものの、他の出版物では「SANチェック」の記載があるようだ。寄せられた情報の中で最も出版年が古いのが「黄昏の天使」だ。これは1988年11月にホビージャパンより発売された日本独自のサプリメントで、シナリオの文中と思われるところに「SANチェック」の記載がある

リプレイでの登場箇所

リプレイとしては1990年の書籍 CTHULHU WORLD TOURにて記載があるようだ。

また、これに限らず各種TRPGのサポート雑誌であるRPGマガジンでは「SANチェック」というワードが出現しているとの情報もある。

英語版ではSAN checkは見つけられず

では英語表記はどうなるかというと、Sanity roll, SAN roll, Sanity checksが登場する。有志が確認した範囲ではSAN checkは登場しないようだ。

Sanity checksは先のツイートによると登場回数が少ない。しかし、Sanity Checkという名の商品があるくらいには一般に使われているようだ。

因果関係を推測する

「SANチェック」というワードはSANロールとSanity checkが混合して生まれたというのが考えられる一つの説だ。原文に触れる機会も多いであろう日本公式がなんらかのきっかけで言葉を混合させてしまったのだろう。

それが1988年の黄昏の天使や、一部のリプレイ、RPGマガジンで使われるようになった。それらに影響を受けたであろう6版動画勢まで繋がった。どのような経緯にせよ、公式リプレイ書籍であるCTHULHU WORLD TOURで「SANチェック」が登場する影響は非常に大きいだろう。初期の6版動画勢の中に古くからのファンがおり、公式書籍から直接の影響を受けたのかもしれない。

まとめ

「SANチェック」という言葉は日本公式のサプリメントやリプレイ、サポート記事で登場していた。それらが様々な媒体に影響を及ぼし、6版のリプレイ動画もそれらの影響を受けて「SANチェック」が使われるようになったのだと思われる。

これらの情報は6版以降しか知らない人物が、いただいた情報だけを使って推測したものである。当時の事情をご存知の方や資料をお持ちの方がいらしたら、コメントで補足などをしていただけるとありがたい。

また今回の疑問は Charaeno の制作中に思いついたものだ。Charaenoはルールブック準拠をテーマの一つとしたキャラシサイトで、用語や入力項目をルールブックの探索者シートに合わせている。この記事を読んでくれた「SANチェック」の源流を知りたいような人には肌が合うと思う。ぜひお試しいただきたい。

補足

BRP Central - The Chaosium forumsSAN checkと検索したところ、37件ヒットした。比較対象のSanity checkは29件ヒットした。SAN checkが英語圏でいつ頃から使われているかは不明だが、これが一般的に使われているとしたら日本語の「SANチェック」が英語の「SAN check」に由来する可能性も捨てきれない。

追記

原著についての記述で裏付けのない断定が2点ほどあったため修正しました。問題があったのは以下の部分です。ご指摘いただきありがとうございました。

修正点1:まとめにて、原文のルールブックにも「SANチェック」がないというような断定をしておりましたが、すべての版をの内容を確認していたわけではないため、裏付けはなく不正確でした。該当の記述を削除しました。

修正点2:Sanity checksが俗語であるという点は裏付けのない断定でした。修正し、補足しました。

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