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第1部

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第1回~22回
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#動物

【4】進化心理学は「科学」なのか (3) まるで当てにならないわけじゃない

昔からよくある批判だった 前回と前々回で、進化心理学はやや胡散臭く見られがちであり、これにはそれなりの事情があることを述べてきた。  実はネット上で、明確に「疑似科学」という言葉を使って進化心理学を批判している記事は私が調べた限り1件しかない〈1〉(まさに前回・前々回でとりあげた「進化心理学から考えるホモサピエンス」についての書評記事である)。  ただ、この記事についたコメントやその他ネットで時々みかける進化心理学批判を総合すると、批判の要点はだいたいこの「疑似科学」っぽさ

【5】進化心理学で考える性差 (1)オスとメスの違い

主な参考文献 今回からやっと本題である。ここからは進化心理学、または進化生物学に基づいて人間の性的な在り方の起源について考えていきたい。この二つはとても近い関係にあり、生き物全般の形態や生態について進化論的な観点から説明しようとするのが進化生物学、その考え方を人の心理や行動にも取り入れたのが進化心理学である。    最初に断っておくと、私は大学院などに通った経験はなく特に何の専門家でもない。研究ノウハウのようなものを持っているわけではないし、英語で書かれた最新の論文を読み解

【6】進化心理学で考える性差 (2)男と女の違い

種によって事情は様々〔前回の続き〕  哺乳類の大半が一夫多妻もしくは乱婚であるのに対して、鳥類は9割以上が一夫一妻でオスとメスのつがいが協力して子育てをする。とはいえ、そうした種であってもペア外の父親から生まれた子が多数確認されており、立地の良い場所に巣を構えていたり、餌をより多く採ってこれるなど優れたオス(とそれに惹かれるメス)による浮気傾向があるようだ〈1〉〈2〉〈3〉。 先ほど例にあげたクジャク、ウグイス、フウチョウは鳥類の中では例外的に一夫多妻でオスは子育てをしない

【16】進化心理学で考える性差(8)女が惹かれる男とは ④

女性は地位の高い男が好き?  あまりに長くなったこのシリーズも今回でいったん終了である。今回は女性が地位の高い男性を好む理由について考えてみたい。世の中では一般に、経営者や管理職、大企業の社員、医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている男性はモテるとされている。実際、そうした肩書に魅力を感じる女性は多い(これもまた全ての女性があてはまるわけではないが)。  これはなぜだろうか。まず思いつくのが「地位の高い職業はたいてい収入も高いから」という説明である。しかし、例えば学校

【17】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

おそらく完全な一夫一妻ではない これまで私はたびたび「ヒトは一夫一妻の固定的な配偶関係を持つ」と書いてきた。これにはちょっとひっかかった人もいるかもしれない。「一夫一妻というのは法律上の決め事であって、実態は一夫多妻なんじゃないか?」とか、「世界には一妻多夫の文化もあるらしいし、けっこうなんでもありなんじゃ?」と。私も実感としてはそう思わないでもない。本当のところはどうなのだろうか。今回から4回にわたってヒトの配偶形態の本質について考えてみたい。  配偶形態は通常、一夫一妻

【18】一妻多夫は超少数派 ヒトの配偶形態 ②

「多妻よりの一夫一妻」というべきか…? 〔前回の続き〕  次は様々な文化で実践されている、または実践されてきた婚姻形態から考えてみたい。人類学者のジョージ・マードックが世界中の849の社会の配偶形態をまとめた報告によると、一夫多妻の制度をもつ社会(国の数ではなく文化の数)が全体の83%(708件)、一夫一妻の社会が16%(137件)、一妻多夫の社会はごくわずかで0.5%(4件)となっている〈1〉。  これは1967年に発表されたものでかなり古いデータなのだが、当時は西洋的な価

【19】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

ヒトとチンパンジーを比較することの意味 この連載では、ヒトの性的な在り方の起源を考えるにあたり、何度もチンパンジーとの比較を行ってきた。ここでいったん立ち止まりヒトとチンパンジーを比べることの意味について述べておきたい。  何回も触れているとおり、チンパンジーはヒトに最も近縁な動物である。しかし、それは彼らが「ヒトの一段階前の生き物」だとか「ヒトになりそこなった生き物」であることを意味しない。人類とチンパンジーが共通祖先(仮に「X(エックス)」と呼ぶことにしよう)から分岐し

【21】進化心理学で考える性差(9)嫉妬と配偶者防衛

チンパンジー界に浮気はない 「進化心理学で考える性差」シリーズ、今回が最後である。前回までの記事で見てきた通り、ヒトは一夫一妻を基本とする方向に進化したと思われる。浮気や不倫が数多く発生するものの、あくまで一夫一妻が原則であり主流なのだ。というか、一夫一妻が原則だからこそ、そこからの逸脱として「浮気」という概念が成り立つのである。  もしチンパンジーやボノボが言葉を話すようになったとしても、人間の世界で言う「浮気」に当たる概念を表す単語は発生しないだろう。単に「相手が自分以