マガジンのカバー画像

第1部

22
第1回~22回
運営しているクリエイター

#動物行動学

【4】進化心理学は「科学」なのか (3) まるで当てにならないわけじゃない

昔からよくある批判だった 前回と前々回で、進化心理学はやや胡散臭く見られがちであり、これにはそれなりの事情があることを述べてきた。  実はネット上で、明確に「疑似科学」という言葉を使って進化心理学を批判している記事は私が調べた限り1件しかない〈1〉(まさに前回・前々回でとりあげた「進化心理学から考えるホモサピエンス」についての書評記事である)。  ただ、この記事についたコメントやその他ネットで時々みかける進化心理学批判を総合すると、批判の要点はだいたいこの「疑似科学」っぽさ

【16】進化心理学で考える性差(8)女が惹かれる男とは ④

女性は地位の高い男が好き?  あまりに長くなったこのシリーズも今回でいったん終了である。今回は女性が地位の高い男性を好む理由について考えてみたい。世の中では一般に、経営者や管理職、大企業の社員、医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている男性はモテるとされている。実際、そうした肩書に魅力を感じる女性は多い(これもまた全ての女性があてはまるわけではないが)。  これはなぜだろうか。まず思いつくのが「地位の高い職業はたいてい収入も高いから」という説明である。しかし、例えば学校

【17】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

おそらく完全な一夫一妻ではない これまで私はたびたび「ヒトは一夫一妻の固定的な配偶関係を持つ」と書いてきた。これにはちょっとひっかかった人もいるかもしれない。「一夫一妻というのは法律上の決め事であって、実態は一夫多妻なんじゃないか?」とか、「世界には一妻多夫の文化もあるらしいし、けっこうなんでもありなんじゃ?」と。私も実感としてはそう思わないでもない。本当のところはどうなのだろうか。今回から4回にわたってヒトの配偶形態の本質について考えてみたい。  配偶形態は通常、一夫一妻

【18】一妻多夫は超少数派 ヒトの配偶形態 ②

「多妻よりの一夫一妻」というべきか…? 〔前回の続き〕  次は様々な文化で実践されている、または実践されてきた婚姻形態から考えてみたい。人類学者のジョージ・マードックが世界中の849の社会の配偶形態をまとめた報告によると、一夫多妻の制度をもつ社会(国の数ではなく文化の数)が全体の83%(708件)、一夫一妻の社会が16%(137件)、一妻多夫の社会はごくわずかで0.5%(4件)となっている〈1〉。  これは1967年に発表されたものでかなり古いデータなのだが、当時は西洋的な価

【19】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

ヒトとチンパンジーを比較することの意味 この連載では、ヒトの性的な在り方の起源を考えるにあたり、何度もチンパンジーとの比較を行ってきた。ここでいったん立ち止まりヒトとチンパンジーを比べることの意味について述べておきたい。  何回も触れているとおり、チンパンジーはヒトに最も近縁な動物である。しかし、それは彼らが「ヒトの一段階前の生き物」だとか「ヒトになりそこなった生き物」であることを意味しない。人類とチンパンジーが共通祖先(仮に「X(エックス)」と呼ぶことにしよう)から分岐し