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第1部

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第1回~22回
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#チンパンジー

【12】進化心理学で考える性差(4)男が惹かれる女とは(後編)

ヒトとチンパンジーの違い〔前回の続き〕  前回はチンパンジーのオスが中年のメスを好むのに対し、ヒトの男性には20代を中心とした若い女性を好む傾向があり、その理由は文化的な要因だけでは説明できないことを述べた。では、この傾向は何に由来しているのだろうか。  チンパンジーはヒトに最も近縁な霊長類ではあるものの、第7回で触れたとおり、人類との共通祖先から分岐したのは600~700万年も前のことである。当然、生理的条件や生態はヒトと違う部分も多い。  チンパンジーのメスがヒトの女性

【15】進化心理学で考える性差(7)女が惹かれる男とは ③

男はたいして役に立っていない?〔前回の続き〕   第8回でも述べたとおり、現代の狩猟採集社会を対象にした研究によると摂取カロリーに占める動物の肉の割合は30%程度でしかない。イヌイットをはじめとした北極圏に住む狩猟採集民は、オットセイやセイウチなどの肉を中心とした食生活を送っているが、それ以外の地域では主に女性たちが採集する植物性の食料が摂取カロリーの大半を占めている〈1〉〈2〉。  パラグアイのアチェ族では、男性はイノシシやシカといった大型哺乳類の狩りと森でのハチミツ集め

【16】進化心理学で考える性差(8)女が惹かれる男とは ④

女性は地位の高い男が好き?  あまりに長くなったこのシリーズも今回でいったん終了である。今回は女性が地位の高い男性を好む理由について考えてみたい。世の中では一般に、経営者や管理職、大企業の社員、医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている男性はモテるとされている。実際、そうした肩書に魅力を感じる女性は多い(これもまた全ての女性があてはまるわけではないが)。  これはなぜだろうか。まず思いつくのが「地位の高い職業はたいてい収入も高いから」という説明である。しかし、例えば学校

【17】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

おそらく完全な一夫一妻ではない これまで私はたびたび「ヒトは一夫一妻の固定的な配偶関係を持つ」と書いてきた。これにはちょっとひっかかった人もいるかもしれない。「一夫一妻というのは法律上の決め事であって、実態は一夫多妻なんじゃないか?」とか、「世界には一妻多夫の文化もあるらしいし、けっこうなんでもありなんじゃ?」と。私も実感としてはそう思わないでもない。本当のところはどうなのだろうか。今回から4回にわたってヒトの配偶形態の本質について考えてみたい。  配偶形態は通常、一夫一妻

【19】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

ヒトとチンパンジーを比較することの意味 この連載では、ヒトの性的な在り方の起源を考えるにあたり、何度もチンパンジーとの比較を行ってきた。ここでいったん立ち止まりヒトとチンパンジーを比べることの意味について述べておきたい。  何回も触れているとおり、チンパンジーはヒトに最も近縁な動物である。しかし、それは彼らが「ヒトの一段階前の生き物」だとか「ヒトになりそこなった生き物」であることを意味しない。人類とチンパンジーが共通祖先(仮に「X(エックス)」と呼ぶことにしよう)から分岐し

【20】「ゆるやかな一夫一妻」というのが正解では ヒトの配偶形態 ④

めったに発情しないチンパンジー〔前回の続き〕   第16回でとりあげたようにチンパンジーではオス同士の序列争いが非常に激しく、より高順位のオスの方が、より多くのメスとより多く交尾することができる。チンパンジーは乱婚制であるため上位のオスであっても父性を極端に独占できるわけではないが、それでも基本的には上位オスほど高い繁殖成功をおさめている。  ここでちょっと不思議に思わないだろうか。オスとメスがだいたい同数ずついて両方とも乱婚(というか乱交)的に振る舞うのなら、どのオスも相