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第1部

22
第1回~22回
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2022年1月の記事一覧

【19】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

ヒトとチンパンジーを比較することの意味 この連載では、ヒトの性的な在り方の起源を考えるにあたり、何度もチンパンジーとの比較を行ってきた。ここでいったん立ち止まりヒトとチンパンジーを比べることの意味について述べておきたい。  何回も触れているとおり、チンパンジーはヒトに最も近縁な動物である。しかし、それは彼らが「ヒトの一段階前の生き物」だとか「ヒトになりそこなった生き物」であることを意味しない。人類とチンパンジーが共通祖先(仮に「X(エックス)」と呼ぶことにしよう)から分岐し

【20】「ゆるやかな一夫一妻」というのが正解では ヒトの配偶形態 ④

めったに発情しないチンパンジー〔前回の続き〕   第16回でとりあげたようにチンパンジーではオス同士の序列争いが非常に激しく、より高順位のオスの方が、より多くのメスとより多く交尾することができる。チンパンジーは乱婚制であるため上位のオスであっても父性を極端に独占できるわけではないが、それでも基本的には上位オスほど高い繁殖成功をおさめている。  ここでちょっと不思議に思わないだろうか。オスとメスがだいたい同数ずついて両方とも乱婚(というか乱交)的に振る舞うのなら、どのオスも相

【21】進化心理学で考える性差(9)嫉妬と配偶者防衛

チンパンジー界に浮気はない 「進化心理学で考える性差」シリーズ、今回が最後である。前回までの記事で見てきた通り、ヒトは一夫一妻を基本とする方向に進化したと思われる。浮気や不倫が数多く発生するものの、あくまで一夫一妻が原則であり主流なのだ。というか、一夫一妻が原則だからこそ、そこからの逸脱として「浮気」という概念が成り立つのである。  もしチンパンジーやボノボが言葉を話すようになったとしても、人間の世界で言う「浮気」に当たる概念を表す単語は発生しないだろう。単に「相手が自分以

【22】改めて、男女の非対称〈第1部 終〉

こんなに手間がかかるとは 昨年6月から約8カ月にわたって続けてきたこの連載、ここで一区切りである。私は第1回の終盤でこう書いた。  なぜ「順序だてて体系的に書かれたもの」が見当たらないのか、その理由の一つがよくわかった。本気でやろうとすると、すごく大変なのだ。  いやー、大変だった。「進化心理学で何がどこまで言えるかを私なりに整理する」というのを、前回までで一通りやり終えたつもりなのだが、可能な限り資料を集め、読み込み、自分なりの推論や解釈も加えつつなるべく科学的に正確な