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悪魔に魂を売ってでも他者の書いた推しカプを拝みたかった人間が二年間かけてマーケティング活動に取り組んだ結果#4

総勢11名によるアンソロジーを発行するに至りました!!!(結果)

あらためまして、いりえです。前回記事から随分と経ってしまいましたが…私はこの間、労働&原稿&労働&オタク活動に励んでいました。そして今回の原稿のゴールは10月10日に予定されていた同人誌即売会――いわゆる「イベント」です。過去最も仕事に追い詰められながらも、結果的には無事にアンソロジーと個人誌を出すことができました。

さて……私は前々より「イベントは展示会理論」を用いて、あの手この手で己の推しカプをアピールしようと試みてきました。何度かイベントに出るうちに、その成果も感じることができています。

そこで今回の記事では、この理論によって、「まだあまり世に知られていないカップリングを推しているということは、イベントに出ることや本を出すことを躊躇う理由にならない!」という話をしていきたいと思います。

#0「前置き編」はこちら

#1「マーケティング理論編」はこちら

#2「Twitter運用編」はこちら

#3「執筆活動編」はこちら


0.「イベント=展示会」とは?

私は過去、仕事で10回弱ほど「BtoBの展示会出展(企画・制作進行・運営・フォロー)」を経験しています。またプライベートではこれまで4回、サークル参加をしてきました。
どちらも玄人の方からしたら非常に浅い経歴ではありますが、この双方の経験をふまえて、やはり私は「イベント=展示会」であると思うのです。

類似点を挙げてみましょう。
不特定多数の人が訪れる/沢山のブースがある
「興味本位」の来場者も一定数いる
・新規顧客も既存顧客も訪れる
・出展者同士の繋がりもある
「偶然の出会い」が誘発される
・新規顧客獲得/課題解決に繋がる商談を求めている

お仕事で展示会というものに何らかの形で関わったことのある方なら、おそらく体感的に納得していただけるのではないかと思います。あまり触れたことの無い方も、まあそういうものなのか…といったん了承していただき、「イベントで本を出す行為」を「展示会出展」に置き換えて考えを進めていきたいと思います。


1.目標設定をしよう

お仕事で展示会に出展する場合には、当然、費用対効果の観点から「何をゴールとするのか」を明確にしておく必要があります。この「ゴール」としてよく言われるのが、以下の三つです。

①新規(見込み)顧客の獲得
展示会に来場するということは、少なからずそのテーマに関心のある層であると考えられます。自社に興味を持ってくれた方とはぜひ名刺交換を行い、今後の関係構築を目指しましょう。「新規リード○名獲得」など数値目標にされることも多いです。
②認知度の向上
不特定多数が訪れる展示会は、自社/自社製品を知らなかった方にもアプローチすることができる貴重な機会です。オンラインで検索されるためには、まず存在を知られている必要があるので、チラシやノベルティなどを配ってアピールしていきましょう。
③既存顧客との関係深化
既存顧客が自社ブースに立ち寄ってくれることもままあります。直接会って話をすることで、これまで引き出せていなかったニーズを探ったり、展示会に出している新製品のご紹介をしたり、新たな商談に繋げていきましょう。

イベントに置き換えると、
①頒布した本を手に取っていただく
②推しカプの存在を認識してもらう
③友人との交流
ということになるでしょうか。(なおここでの「新規リード」とは「推しカプの『生み手』になること」を意味します)

ここまで読んできてくださった方には言うまでもないことかもしれませんが、私はこのうち「②推しカプの存在を認識してもらう」ということを主たる目標として、イベントに参加しています!

まだ世に広く知られていないカップリングとは、まず第一に「認識されていない」ので、フォローしている方のいいねやRTでTwitterに回ってくるとか、Pixivのおすすめで出てくるとか、あるいは誰かが自発的に思いつくとか、そういう確率の低い偶然性に賭けないと「認知」されることがありません。

しかし、イベントに出すとどうでしょう。サークルチェックの段階で、Pixivでイベント名で検索する時に、イベント会場で目当ての島を歩いている間、「自然と目に留まる」確率をぐっと上げることができるわけです!!

マーケティング施策として有効なだけでなく、推しカプの本も(自分が書くので)手に入りますし、こんなにお得なことは滅多にありません。というわけで私は「認知度の向上」を主目標として、過去に複数回のイベントにサークルとして参加しています。

※ちなみに…「成約数(本をどれだけ頒布できたか)」を目標としてしまうと、思うように手に取ってもらえず心が折れてしまう方も多いでしょうし、何よりビジネスの展示会でも「その場での商談成立」は絶対的な目標ではないと思います。(展示会は時間が限られているので、よほど簡単に商談成立する商材でないと、かえってタイムロスになる)
なのでこうした観点からも、「認知度向上」を主目標とするのは、わりと良い手段なのではないかと考えています。


2-1.ターゲットを想定しよう

「とにかくまずはこの推しカプの存在を知ってほしい!」というのを、イベント参加の第一目標として設定しました。次にやるべきことは…?そう、「誰に知ってほしいのか?」「どんな人に訴えれば良いのか?」という「ターゲットの想定」です。

以前にも「ターゲットを想定しよう」という話をしていた気がしますが、今回は「イベント参加者の属性や行動」に限定して考えてみます。そこで、私は過去にこんな表を作ってみました。

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もう少し詳しく見ていきます。

①行動人数と参加形態
イベント会場を見渡すと、一人で回っている方と、友人同士で回っている方々を見かけます。またサークル参加者か一般参加者か、という違いもあるでしょう。このあたりの分類は、「推しカプを目に留めてもらう可能性のある層」を想定する際にあまり重要でなさそうだったので、突っ込んで考えてはいません。(「他者の書いた推しカプが拝みたい」という最終目的を考慮すれば、サークル参加者の方が生み手になる可能性は高いのかもしれませんが…)

②予算と事前チェック度合い
イベント会場では「お買い物リスト」を挟んだバインダーを片手に、無駄なく移動されている方もいらっしゃいます。かと思えば、どこかへ向かう途中なのか、あるいはお目当ての本をゲットできたあとにゆるりと歩いているだけなのか…といった方も。
「目に留めてもらう」という観点からすれば、「事前に予算と欲しい本をガッチリ決めて終わったら即退散!」という方はターゲットになりえないので、予算や事前チェック度合いは「ほどほど」の方を狙っていくのが良いのかなと思います。
(ちなみに私は「その場での出会いを求める」という名目のもと、ほとんど調べずに行ってしまいます。一般参加の場合はさすがにちょっとは調べますが…装丁の趣味が合う御本は中身も好きなことがわかるので、そういう「ジャケ買い」をよくします)

③カップリングと対象サークル
カップリング完全固定の方は、そもそも私の推しカプのことは対象外でしょうし、「知っているサークルさんのところにしか行かない」「いわゆる『大手』サークルさんが目当て」の方の目に留まることも難しいでしょう。となるとやはり、「このキャラが受けなら読みたい」とか、「初めて見るけど良さそう」とか、そう感じる可能性のある方に訴えかけるのが良さそうです。

いずれも大事なのは、「全部拾おうとしない」ことなのではないかと思います。お仕事で出す展示会でも、顧客となりえない層に振り向いてもらうことに、わざわざコストは割きません。また、いくら名の知れた企業でも、来場者の全員が立ち寄るようなことは無いはずです。同人イベントも、きっとそれと同じことなのでしょう。

2-2.ペルソナを描いてみよう

ペルソナという考え方は、マーケティングの世界ではだいぶ古典的手法とも言われているようですが…設定を考えるのが好きなタイプのオタクなので、おまけ程度にペルソナ分析もしてみます。
※おまけなので、あまり本格的ではありませんし、長いので読み飛ばしていただいて大丈夫です。

ペルソナ①「Pixivで見たかも」
オタク歴3年目の学生Aさん。前ジャンルではあまり同人が盛んでなかったけれど、このジャンルに来てからは「イベント」って文化を知って、作者さんに直接会えたりオンリーがあったりする同人イベントって楽しい!と思うように。メインの推しカプは決まっているけど、攻めも受けもキャラとして好きなので、趣味や解釈が合いそうなサークルは事前にPixivでチェック。調べている中で、攻めが絡む見たことのないカップリングがあって、珍しいなあと思っていた。会場で見つけられたら、サークルの雰囲気を見てみようかなとぼんやり考えている。あんまり近寄りがたい雰囲気だと、買うのもなんだか気が引けるし…。
ペルソナ②「Twitterの人だ!」
オタク歴10年超、社会人のBさん。イベントにはサークル参加をすることもあるけど、数か月後にメイン推しカプのオンリーがあるので、今回は一般参加することに。お友達にご挨拶したり、気になっていた本をひととおりゲットしたりして大半の目標は達成できたので、あとは会場内を何周かして気になる本があったら手に取りたいな、というかんじ。歩いていてふと目にしたカップリング名、これってどこかで見たことが…思い出した!フォロワーさんが時々リツイートしてる、公式での接点少なめのカップリングに沼ってる人だ。てっきりTwitterとかPixivだけかと思っていたけど、まさかオフ活動もしているとは…ちょっと近づいてみようかな。

ペルソナというか、「どんな方が自分のスペースに近づいてくださるか」というのを具体的に落とし込んでみるようなイメージですね。このペルソナと、実際にスペースに来てくださった方の情報を合わせて、また次の分析に生かしていきます。
※上記は実体験やそれに基づく推測ではありません。また後述しますが、私は自分のスペースで常にテンパっているので、人間観察する余裕もさほどありません。

私はこういうことが好きで、いくらでも考えられてしまってキリがないので、ペルソナについてはこの辺で…。

3-1.本を作ろう

本題(?)に入るまでに、すでに4000字も使ってしまいました。そして本当はこの「本を作る」というフェーズだけで考えることが山ほどあり、作業としても相当に時間がかかるのですが…今回はマーケティングの観点&個人の体験談に割りきって話を進めたいと思います。

今までに私の出してきた本は、ざっくり以下の分類になります。そしてこれらがそれぞれ、マーケティング的にどのような効果があったのかについて整理してみます。

①玄関マット本(1,000円以内)
・あらすじがわかりやすい、起承転結が明確
・推しカプの『らしさ』を出せている(はず)
・ラブコメ(風)&ハッピーエンド(たぶん)
・話の想像がつきやすいタイトル
などの要素を備えた本です。やはり「わかりやすさ=手に取りやすさ」なのか、比較的よく旅立っていく(初動が良い)ような気がします。マーケティング的には一定程度の効果がありそう。
②推しカプの可能性を詰め込んだ短編集(600~1,000円)
これはそのまんまです。「出会い」をいくつも書いてみたり、「ベッドインまで」をまとめてみたり…とにかく沢山の可能性を提示することに振りきってみました。
意外にも堅実に旅立っていく印象があり、会場でも「初めて見たけど買います!」と言ってくださる方がいたりしたので(ありがたい限りです…)、「初見だけどこのカップリングが知りたい」方に向けた本として良さそうです。
③趣味と癖に走った本(~1,200円)
このゾーンの本は正直、イベント会場でのマーケティング云々というよりも、「Pixivで読む⇒本でも欲しい」という導線で手に取っていただくことが圧倒的に多いようです。「オンラインでの集客をリアルに持ち込む」という視点では、こういった本があることも大事なのかもしれません。
④その時の衝動で出した本
これは自分が出したいだけなので、発行しただけで満足するタイプの本です。あまりマーケティングのことを考えて作っていませんが、原稿中にTwitterで踊り狂っていると面白がっていただけて、一石二鳥(?)かもしれませんね。
(衝動で上記①②③のような本になればいいのですが、私の場合は本当に「分類不可能…」というような話になりがちなので、④としています)
⑤アンソロジー
実は過去に二回、推しカプのアンソロを主催として発行させていただいたことがあります。最高であるのは言うまでもありません。マーケティングの観点からすると、普段は別のカップリングで書かれている方が多いので、そういった方々のファンの皆様にもお届けできるのは素晴らしいポイントです。

上記をふまえると、「知らないけど読んでみようかな」と思っていただくには、
わかりやすいタイトルで、
色々な関係性が見られる短編集で、
その中に「性癖に忠実」な話も混ざっている
というような本が、マーケティング的には最大効果を発揮するのかもしれません!言い換えるならイチオシ商品も入っている「アソートパック」的な本ということでしょうか。

そもそも推しカプの本というのは(たとえ作者が自分であっても)出るだけでハッピーなことですし、編集者でも商業作家でもないのにゴチャゴチャ考える必要もないので、衝動のおもむくままに出すのが良いんじゃないかと思うのですが…
いかんせん私の最終目標は「他者の書いた推しカプを拝む」ことで、そのためにはマーケティングが大事だと思うので、こうしてアレコレと考えながら本を作ったり(作らなかったり)しているわけです。

3-2.お品書きを作ろう

本ができた!となったら、TwitterやPixivで告知をしましょう。正直、ここが非常に大事なポイントだと思います。人間はわりあい「一度でも目にしたことのあるもの」を選びたがる生き物ですし、私の実体験としても「お品書きを見て気になる」ことが圧倒的に多いです。

またコロナ後の展示会では、「調べてから来る人」の割合が圧倒的に増えたと言われていますが、これは同人イベントにおいても同じことだと思います。気軽にフラッと来られる層は明らかに減っているはずなので、相対的に事前告知の重要性が上がってきています。

しかし私は…サークル参加を重ねるうちに、次第に「ギリギリを攻める」悪癖が出てきてしまい…個人誌について告知を満足にできたと思うことは一度もありません。なので、ここで語れる体験談は何もありません。

余裕をもって進行していればこんなことにはなりませんし、お品書きの制作を請け負ってくださるような個人依頼サービスもあるようなので、次こそはこのフェーズにも力を入れられるようになりたいです!


4.設営&運営をしよう

ここまで来れば、あとはもうスペースを設営することを考えるだけです。ターゲット像が明確なので、そうした方の目に留まるためには?というのを色々と考えて、過去の反省も生かした結果、私は以下のようなポイントを押さえるようにしています。

・大きいことは良いことだ
ポスターやお品書き、またそこに書くカップリング名(+小説本であること)を大きめにします。画面で見るより大きめに、特にカップリング名はガッツリ主張したいところです。「こんなカップリングがあるんだ~」と思っていただくだけで価値があるので…。値札なども大きいと良いと思います。

・アクションを誘導する
イベント会場で最も多く発せられる定型句は「新刊一冊ください」のはずです。どれが新刊なのか、お値段と合わせてわかりやすくしておくことが大事だと思います。また「無配だけでも貰ってください!」「今日は○○ってカップリング名だけ覚えて帰ってください」など、呼びかけ系のコピーをデカデカと書いておくのも効果がありそうです。

・手を動かしている状態にする
どこかのショップで、店員さんにじっと見られて話しかけられるの、ちょっと怖いですよね。逆に店員さんがスマホを触っていたりすると、どこかと連絡しているのかな?って話しかけづらいですよね。でも「ちょっとした作業」をしている(ように見える)最中だと、何となく声をかけやすくないでしょうか?
それと同じことかなと思って、私はスペースで常にものを折ったり何かを包んだりしています。実際には、単純に作業が間に合っていないだけなのですが…。
※このあたりは個人による部分が大きいと思うので、あまり参考にしないでください。

・ブランディングを意識する
推しているカップリングがラブラブハッピーなのに、スペースが黒い布で覆われていたら、何となくミスマッチですよね。逆も然り、だと思います。「この(私が描く)カップリング、こんな感じです!」というのは、スペース全体の雰囲気からも演出可能なものなので、色々と工夫してみると「同好の士」を引き寄せやすくなるかもしれません。

ちなみに…お仕事の展示会でも、
・キャッチコピーが目立つ
・立ち寄りやすい、話しかけやすい雰囲気
・その会社/商材らしさが出ている
というのは、ブースにおいて非常に重要な要素であるとされています。

ただ、偉そうに色々と書いてみましたが…一度でも私のスペースを訪れてくださった方なら、私がどれだけテンパっているかよくご存知のことと思います。(「これとこれください」と言われて「ありがとうございます!いくらですか!?」と聞き返す、など…)

まだまだ設営については研究&改善の余地がありそうなので、また何か気づいたことがあれば追記したいと思います!


5.おわりに

理屈っぽく色々と書いてしまいましたが、イベントって楽しい!!という思いが私の根底にあるからこそ、「次はどうしようか」というのを考えられるのだと思います。
Twitterでのお友達や、今までフォローしてくださったりPixivで自分の書いたものを読んでくださったりした方と直接お話しして、己の推しカプが好きな方の実在を確認できるのは、とても貴重な機会です。いつも良くしてくださって、本当に感謝の気持ちでいっぱいです…。

私はつい2~3年ほど前に同人誌即売会に参加するようになった身ですが、運営会社さんや印刷会社さんを含め色々な方の努力のおかげで成り立っているということは、これからも忘れずにいようと思います。

あと、ひそかな夢として、いつかMy推しカプのサークルさんと同じイベントで横並びになりたいなあ…というのがあるので、もしサークル参加をご検討されている方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお声がけください!


Next...「人はいかにして『生み手』になるのか?」について。気の向いた時に更新予定です!

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