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【忍殺初心者向け】サイバーパンクが分からない人へ / キャラの陰影と伝奇要素からニンジャスレイヤーに入る

ニンジャスレイヤーtwitter連載10周年おめでとうございます。

はじめに

ニンジャスレイヤーはすさまじい完成度を誇る総合エンターテイメント小説であるものの、おもしろフレーズによる勘違い日本のイメージがなぜか強すぎて、「すごい面白いよ」と紹介すると「ギャグ?」という反応をされやすく、骨太激熱サイバーパンクニンジャアクションとしての真の魅力に辿り着いてもらいにくい、とかいう話はもう色んな人が散々語ってるからやらない。

結論から言うと、サイバーパンクとアクションが両方ピンときてない場合ですらニンジャスレイヤーは面白いのでそういう人にも読んでほしい。自分がまさにそうだった。読み始めの頃は特に。

ところで以下の「昔の思い出 / 最近の思い出」の項は読み飛ばせるので、ニンジャ未読者の方で早くニンジャの入口を知りたい方は「おすすめ」までワープしてください。

昔の思い出

自分にはサイバーパンクが分からぬ。自分は、一次創作の者である。日本史と変な地名と九州地方と樹木と後味悪エンドを愛し、エセ和装デザインと遊んで暮らしてきた。けれども面白いコンテンツに対しては、人一倍敏感であった。

2017年4月、自分はFGOの副長で爆死したことにより、絵師の方つながりでニンジャスレイヤーというコンテンツの存在を知った。夏ごろには副長が2人引けたので、もののついでに『キリング・フィールド・サップーケイ』というエピソードを読んだ。ニンジャスレイヤーは「どこから読んでもいい」と公式にアナウンスされているのが特徴だ。

自分にはこのときサイバーパンクとかそういう前知識は全然なく、既読者の友だちに良い小説をたのむとだけ伝えたら『サップーケイ』を差し出されたかっこうだ。

この『サップーケイ』が最高だった。サイバーな近未来日本とルール無用のかっこいい死合いは十分入ってるものの、個人的にはもうとにかく、このエピソードだけに登場する邪悪なニンジャ、デソレイション=サンの造形が最高だった。ちなみにニンジャとはバトル物に出てくるいわゆる能力者のことで、普通の人間がある日突然半神的な不老存在になることがあるのだ。

デソレイションは残虐極まりない卑劣な殺し屋で、堕落した元武道家だ。デソレイションは、キリングフィールドというジツ(※術。ニンジャの特殊能力)を使う。キリングフィールドは、モノクロの精神世界に敵をひとりだけ引きずり込む。殺しの風景を具現化させる。デソレイションというニンジャは、がさがさに荒れ果てた精神世界の冷風に魂を削り、急所潰しなどの非道もためらわず、殺し、嘲笑い、闘い、殺され、その殺風景で他人の精神をやすりがけしていった。そういう荒廃と墨のにおいの化身がたった1話、6セクションの中でキャラを立て、退場する。えっ暗黒キャラもの荒涼絵巻としてのニンジャ最高やんけ……

そして12月ごろになって1部と4部をワーッとwebで読んだ。ニンジャはネット連載なのでtogetterで本編は全て読めるし、togetterよりも見やすいnoteアーカイブもどんどん収録中だ。それとあわせて友人宅で2部と3部を単行本で読んだ。卒論を触りながらだったのでのんびりとは読めなかったものの、2018年夏ごろには駆け足でリアタイに追いついた。

そこからはいつも最新の連載を追い、サツガイ=サン(作中最も好きな存在。邪悪で不気味で雑で軽くておちゃめ)に轢かれて死んだり、現行連載に轢かれて死んだり、現行連載にちらちら覗くサツガイ=サンの気配に轢かれて死んだりしている。

最近の思い出

この現行連載が最高だ。今は、ニンジャの織田信長の腕を自分のものにして4本腕となったニンジャの明智光秀が、暴力と圧制を掲げて現代カナダを足掛かりに世界を自国・ネザー京で呑み込もうとしているのでニンジャスレイヤーが一騎討ちしにきたところだ。不老の異能者が歴史の闇に暗躍していたという設定自体、伝奇小説の味わいがあってすごくいい。味わいどころか完全に伝奇小説な過去編まである。五輪書を呪いの五つの指輪と解釈したり遊び心もいっぱいだ。インターネットと霊的空間に相関があるというSFファンタジー的設定が絡んで来たり、情景描写が不意打ちで目をみはるほど美しかったり、そういう細かなところもいい。

現行連載の最大の魅力はキャラクター間の感情の縺れにあり、リアルタイムで刻一刻と激変していくキャラクターへのイメージにもある(特に明智が凄まじい。強くてかっこいい邪悪圧制者→不気味→明智に救いは無いのか……という変遷を経ていつの間にかどうしようもなく好きなキャラになっていた。初登場でいきなり武力第一主義を前面に押し出してきて、世間での知将イメージと全然違うなあと思っていたところ、もともと不器用で折衝に苦心する男だった明智がなぜそこまで変質してしまったのかが後から全部説明されて轢かれて死んだ)。詳しく書くとネタバレになるのでとりあえず読んでみてほしい。現行連載はなにせ今twitterでやってるので「とりあえず読んでみる」のハードルがものすごく低いのもいい。

できたら明智編(下記リンクのメインストーリー:シーズン3)を全部読んでみてほしいものの、なんなら最新話「タイラント・オブ・マッポーカリプス」だけで十分に事足りる。

あとこれは完全に個人的な好みの話として、明智の息子であるところのジョウゴ親王殿下がすっかり刺さりまくっており困った。初登場時、あまりにも刺さる要素の数え役満(切れ長 / 三白眼 / 痩身 / 蒼白 / 短気 / 父子間コンプレックス / 顎髭 / 和装 / 暗君)だったせいでウワッどう見ても超好みの存在がいる……と思っていたら、細身青銅鳥型逆関節巨大兵器・コヒバリとか魂の欠損とか[※重度ネタバレ事項]とかでどこまでも役満を重ねてきたので本当にやばい。青天井だ。最終的に何点払えばいいのか。殿下の魂はどこから来てどこへ行けばいいんだ……何か満ち足りるということはあるのか……もし満ちることがなかったとして孵らなかったそれはどうすれば……はい。

おすすめ

話がそれた。要するに、「ただのおもしろ小説じゃないよ!骨太激熱サイバーパンクニンジャアクションだよ!」というフレーズに全然惹かれなかった人にもニンジャはおすすめということが言いたい。

もしも自分が人からニンジャを勧められたとして、相手方に「骨太激熱サイバーパンクニンジャアクションだよ!」と言われただけだったら、まず確実に読んでない。そしてそれは非常にもったいない。自分がもしニンジャ未読時の自分にニンジャを勧めるとしたら、「キャラの魅力が特盛のIF日本史エンタメ殺伐伝奇異能絵巻だよ」と言っているはずだ。ニンジャ読者メイン層の、感想記事とかバンバン書いたりするたぐいの諸氏はサイバーパンクとしてニンジャをお勧めすることが多いものの、自分みたいな読者の方も(自分の観測範囲内には)とてもたくさんいる。サイバーパンク以外の部分の魅力は確実に多い。

さらに言えば、IF日本史殺伐絵巻に全然惹かれない人にもニンジャはおすすめだ。ニンジャはごった煮総合エンタメであり、任侠とか美少女とかノーフューチャーな若者の眩しさとかスシとか邪悪ニンジャ巡りワールドツアーとか色々なフックがある。ニンジャを説明するとき、誤解を招かない真に正確な表現は「おもしろい小説だよ」しかないのかもしれない。

とりあえず、この記事のタイトルにつられるようなニンジャスレイヤー未読者の方には、明智編ことエイジ・オブ・マッポーカリプス(AoM)シーズン3の推定最終話「タイラント・オブ・マッポーカリプス」から入ってみてほしい。絶賛連載中。最終話から?と思ったかもしれないが入口として全然あり。まだ前編。新規読者の機運を察知した公式=サンの手により毎回ていねいなあらすじが付く。追いつくなら今。

本編を追うならtogetter。リアルタイムで見るならtwitterで公式=サン(@njslyr)をフォローするといい。リアルタイムに感想があふれていくのを眺めて楽しむならハッシュタグ(#njslyr)を覗こう。ぜひ!

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