幸福

彼に出会ったのは鳥がまだ青い頃。
音楽の趣味が良い。言葉の選び方が上手。特別な言葉を使うわけではない。選び方が上手い。インターネットセンスが優れている。たまにその言葉の選び方に嫉妬した。

私がゲロを吐くたびにツイートにいいねする。癪だからツイートをその度に消した。
お互いの可哀想な話にはいいねをしていた。なにそれ。毎日それでよかったじゃん。
それ以外も、私のほぼ全部のツイートにいいねをくれていた。彼は気を遣わない。だからありがたかった。コンプレックスもネタだった。だから、家に篭り始めてもうすぐ一年になった私にとって、なんならリアルの友達より近かった。

いくつか抜粋する。本当に遺したいことは公開しない主義は彼から学んだ。だから彼のいちばん好きな曲を知らない。それでも、私がもうSyrup16gを聴けない日が続いたとしたらゲラゲラ笑うんだと思う。

その時は昼からバリバリ働いてオンライン会議の20分前だった。彼に私の仕事を教えた。エー、羨ましい、それならコネで入らせてよなんて言った。彼がやりたいと話す職種は私の会社では万年人員不足。なんなら今からでも働いてほしいなんて話した。だから彼がコネで入れるようにあと3年ここで頑張って働いて誰も強くなることを約束した。そうでなければならない。

その日は会議が終わるまでミュートで30分もお待たせした。そろそろ寝ますや〜と言った彼に来月酒を奢ることになった。

何も考えなくていいから。忙しいと何も考えなくていいから予定をたくさん詰めていると話していた。だから飲みに誘うのは2週間前とかにしてねって。何を考えていたんだろう。

ある時はいきなり朝七時に電話をかけてきたことがあった。
ピクミンみたいな意味不明バイトをしたと笑っていた。彼は青ピクミンだった。笛を吹かれたら同じ色のピクミンたちが立ち上がってものを運ぶ。意味不明バイト。その時も確かストゼロ2本だった。もうストゼロ飲めなくなっちゃったよ。バカ。
にゃーん、とか言って今までの彼女の数は教えてくれなかった。私は先に言ったのに。絶対に来月酒を飲むという約束をした。なんなら高い寿司を私が奢ることになっていた。
奢るよ、そんなの。お金じゃないよ。

オレに恋したら危ないから!という理由で住所から何まで、個人情報をばら撒いていた。もしオレと恋に落ちてなんかあってオレに殴られてボッコボコになったら警察に駆け込めばいいっしょ?これで十分でしょ?と笑っていた。私はそんなことされても一途に恋してる間は警察にいかないよなんて言った。こんなことで個人情報を再確認してフォロワーに送る準備をしたくなかった。恋に落ちればよかったのか今でもわからない。

恋でも愛でもない、彼は私にとって久しぶりにできた私にとっての怖いことが関わらない友達。でも友達っていきなり距離を置かれることもある。自分では大親友だと思っていても、その大親友がプロフィール帳が流行った小学生の頃に一番の友達を書く欄はいつも私じゃなかった。だから友達だと思ってもらえているのかずっと不安だった。だから後悔した。全部遅かった。連絡に気を遣っていけない時がある。今から電話するよなんて言ってる場合じゃないときがある。

私の自撮りにいいねするのが悔しいなんていっていたこともあった。バカ。加工たくさんして歪んでる画像を悔しいくらいたくさんあげてやる。

彼にも好きな人がいる。私にも好きだった人がいる。恋愛的な意味で。だからお互いどうにかなってほしかった。恋愛の話も、私が話してばかりだった。ニヤニヤ楽しんでいた。それで自分のことは少ししか教えてくれないんだ。辛いことは電話で話さないのが私達だった。楽しいことだけ話していた。だから、一連の流れは青い鳥に頼るだけであった。
早く二人で飛び降りたいなんていった君は誰にその言葉を届けたかったんだろう。

ありえないほど不憫だったから不憫くんなんて呼んでたこともある。救急隊員と仲良し。年上の元カノに晒される。飲酒運転(彼が悪い)。病気のこと。バイトのこと。借金のこと。

あの日、1つ不思議なことがあった。
彼と交友のある素敵な友達から連絡が来て、私は急いで返信を打ち込んだ。
たくさん打った文字、送信ボタンをおしたらさ全て消えて行った。液晶は反応しないし電源を押しても画面が暗くなることはなくて、ただ文字が1文字ずつ消えていった。
こんなことを信じるタイプではない、職業がらバグは解決方法を探すものとして認知していた。もういいよって言ってるのかもしれないと苦しくなって、急いでPCにむかい同じ文を打ち込んだ。
今までそんなことはなかったから、サポートが終わっても使っているiPhone7のせいだと思った。あの時だったら私どうやって生きればいいのさ。

私の名前を友達に教えたことがあったらしい。そのおかげ、というのはおかしいが彼の最期を知ることになる。彼には、交友がある人として認知されていたんだとそこで理解した。ねぇお互い友達いないねなんて言ってたけどちゃんと友達だったじゃん。君まだ他にもたくさんいるんでしょ、じゃあまだここにいてもよかったじゃん。おいていかないでよ。バカ。

あの日私はまたいつものだと思って昼になったら電話でもしてやろうと思っていた。夜になっても誰のツイートにもいいねをしていなかった。震えが止まらなくて、彼が飲んだ薬を調べた。彼の素敵な友達から連絡が来ても、私は泣くばかりだった。彼女の行動がなかったら、私は今でも薄暗い気持ちといつか戻ってくるという希望のもと暮らしていた。こんなことを言うのもアレだが、彼女が私の命の恩人なんだと思う。彼女とたくさん泣いた、初会話なのに私は挨拶もできずに。後悔を一生背負っていく。

彼の言葉の選び方は全部秀逸だった。彼がやっている音楽を私は知らない。それでも私は一生音楽をやらなきゃいけない。彼のことではなくても、1人でも助けられたら音楽をやらなきゃいけない。

彼の話にはいつも私の同期に似た人物が登場していた。来月飲みに行った時答え合わせをするんだと思ってた。こんな形でその答えを知りたくなかった。私の同期はきっと私よりも近い場所で彼を見ていた。絶対に後を追わないようにと伝えたけれど、彼に伝わっているのかは不安だらけである。だから懇願してしまった。

苦しかったよね。たくさん記事を読んだ。私の周りには君と同じものを同じように飲んで苦しんだことがある子がいる。だから知ってた。きっと私の想像する何百倍もの辛さに耐えた。なにそれ。そんな辛さ経験する必要ないよバカ。あと借金どうすんのさ。生きてなきゃ変なことしても一緒に笑えないじゃん。
私ね、今度雑誌に記事が載るよ。それ読んでもらいたかった。あと音楽、まだ君のドラム聴いてない。
あとね、一生後悔する。11/27が来るたびに、2時になるたびに後悔する。とめたかった。止める資格は無いことは知ってた。それでも私があの時、いつものだなんて思わずに、ケロッとしてたら迷惑がられるとか気にせずに、今具合悪いから見れないかななんて気にせずに。やめてなんて言葉だやめられたらとっくにやめてる。ごめん。本当にごめん。ごめんなさい。

きっと明日からまた仕事に追われる日々が続いて、もどってしまうのに。置いていかれた気分だけど着いていかないから。だからさ。

よつばとの同人誌。
ラーメン屋。
ピクミンのバイト。ストゼロ。ハイライト。

躊躇しない。連絡を取りたい人には躊躇しない。
好きだと伝える。恋じゃなくても。
毎日音楽を聴く。やりたい放題でいい。
彼の50倍くらい生きる。あの世なんてないけど、あの世で会ったら本気で怒って泣いてゲラゲラ笑う。

またお会いしましたね。

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