早川町の環境教育と河川環境
はじめに
私にとって初となった8月の早川町FWでは、早川町の教育・環境・文化・生活などについて学ぶことができた。本エッセイでは、環境に関わる教育と早川町の河川環境に着目し、主にゼミによる事前学習と早川上流文化圏研究所(以下、上流研)・職員の上原さんへのインタビュー、現地訪問による情報収集をもとにして、その実際と私の所感を述べていきたい。
1. 早川町の環境に関わる学校・地域教育
1-1.学校教育
まずは、早川北小学校で取り組まれている“BEANS”について。これは、南アルプス生態邑(ヘルシー美里/野鳥公園)と早川北小学校が共同で実施している授業だ。“BEANS”という名称の由来である“BEcome A Natural Scientist!=自然科学者になろう!” (また“BEANS”は豆、そこから転じて“科学者の卵”という意味も込められている)の言葉通り、早川北小学校の児童が自然科学の研究を行う。「地域の自然を深く知り、児童たちに地元や自然への愛着を深めてもらうとともに、その過程で生まれた興味や疑問を科学的思考のもとに調査していくことで『生きる力』を伸ばしてゆく」ことを目的として、児童それぞれが調べたいテーマを決め、それを実際に調査・記録し、発表するのだ。上原さんによれば、この活動は早川北小学校の顔の取り組みになってきているという。
1-2. 地域教育
続いては、インタビューに応じてくださった上原さんもスタッフとして携わっている、“早川子どもクラブ”について。これは、上流研が教育委員会から事業委託を受けて実施しているものだ。遊び・文化・自然など様々な要素をもった活動を展開していて、今年度は16回の活動を予定しているという。8月のFWでは、その活動の一つである「集落散策/魚つかみ捕り」に参加させていただいた。
早川集落散策の道中では、子どもたちは草地で大きな昆虫を手掴みするなど、生きものへの抵抗をあまり見せない様子だった。私も子どもたちに倣って手ごろな石をひょいと裏返してみると、あらびっくりサワガニがいたことは、早川町の自然の多様性を実感した場面として記憶に新しい。また魚のつかみ捕りの際にも、子どもたちが沢山のアマゴやウナギを相手に臆することなく次々つかみ上げてしまったことに、上原さんや私も驚いた。そんなイベントの終わり際、上原さんは参加者にむけて、早川町を流れる早川の現状について「かつては早川にもアマゴが泳いでいた(今回は、プールに養殖アマゴを放流)。でも今は水質が悪化してしまって、生きものはほとんどいない。」とお話してくれた。また別の場面では、早川について「自分たちは自然を守り、よりよくしていく必要がある」ともおっしゃっている。
(↑石の下にいたサワガニ)
1-3. 早川町の環境に関する教育について、私の所感
早川町の環境に関する教育は、学校・地域のどちらにおいても早川町の豊かな自然を存分に活かしたものであると感じた。両者とも、地域の自然と触れ合うことを通して様々な物事を学ぶ場となっていると考える。“BEANS”では特に、南アルプス生態邑などの専門的知識をもった方々が身近にいるということも、その活動の効果を後押ししている要因ではないだろうか。“早川子どもクラブ”においても、遊ぶ場を提供するだけではなく、早川町の自然環境の現状やその課題について学ぶ機会にもなっていると考えた。また、そういった機会を得ることができるのは子どもたちだけではなく、保護者の方々や私のような学生も例外ではないと感じる。
今後また早川町の教育機関や地域の活動を見学する機会があれば、それらの取り組みや活動が子どもたちにもたらすものは何か、今回とは異なる視点でも考えてみたい。
2. 早川町の河川環境
2-1.早川本流
早川町を南北に貫流する早川について、上原さんは「魚がいなくなっている」とおっしゃった。この理由について伺うと、その答えは「ダム・水力発電所建設の影響がある。」ということであった。それを受けて早川町内のダムや発電所を調べてみると、大きなダムが早川上流部に一つ、支流である雨畑川に一つ、その間々に発電所が複数あるようだ。
治水や発電のために建設されたこれらのダムは、下流の河川環境を変化させる原因となっている。建設による発生土の流出、流量減少による水質の不安定化、下流へ土砂が運搬されないことによる河床の低下とそれに伴う水質悪化、ダム湖に堆積した落ち葉などがもととなったヘドロによる貯水の水質悪化などが、その例だ。水質や河床環境が悪化すると、河床に生育する藻類・水生昆虫などが減少し、それを餌にする魚の数も減ってしまう。そういった問題が、現在の早川本流には起きていると考えられる。
(↑早川本流の様子。降雨の後だったこともあってか、濁流となっている)
2-2. 早川支流
“早川子どもクラブ”のブログにある早川支流での“川遊び”の記事を参考にして、今度は早川支流について考えてゆく。
写真や動画が掲載されているのでそちらを見てみると、早川支流の水はよく澄んで、小魚の姿も見られるようだ。比較的清流に近いところに生息するアマゴやカジカ、またその餌となるカワムシなども確認できた。アマゴは放流を行っているそうだが、それ以外の生物の生息や繁殖も確認できるため、早川支流は多くの水生生物が生育できる環境であると考えられる。
2-3. 早川の河川環境について、私の所感
早川町は森林・河川環境などが豊かであると考えていた私にとって、「早川には生きものがあまりいなくなってしまった」という上原さんのお話は衝撃的であった。またそれと同時に、早川は本流と支流でその環境に大きな違いが見受けられることもわかった。この違いは、ダム・発電所の存在が大きく影響している可能性があるため、早川本流の環境を改善することは、早川町だけで解決できるものではないと感じる。だが、早川の支流には生きものが生息する基盤が十分に整っているため、本流の環境さえ整えることができれば、早川全体に再び魚が戻ってきてくれるはずだ、という希望を得ることもできた。
8月の早川町FWを通して、私は早川町の河川環境についての魅力と課題を確認、発見した。今後はこれらの情報をもとにして、ダム・水力発電所の仕組みや問題点などについて学習し、もっと様々な点から早川町の河川を見てゆきたい。
(担当:内山)
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