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山村コミュニティの距離感の近さについて

1.はじめに

 何度か早川町にフィールドワークに行った中で、私は山村コミュニティでの人と人の距離感の近さに驚かされた。都市部では近年人のつながりが失われてきている一方で、山村コミュニティでは住民同士の交流が深いのはなぜなのか。このレポートでは今まで早川町で実施してきたインタビュー結果をもとに、早川町の住民同士の関わり方について考える。

2.調査方法

 早川町で実施したインタビューを元にする。

  • 雨畑地区(29 世帯)でのインタビュー

  • 黒桂集落(16世帯)でのインタビュー

  • 千須和区(15世帯)でのインタビュー

3.調査結果

3-1.集落の住民のつながりの強さ
 早川町をフィールドにしてインタビューを行っていくと、集落内の人のつながりの強さを感じる場面が度々あった。以下の段落では、実際に私がつながりの強さを感じたエピソードについて述べていく。
 まず早川町のどの集落でも共通しているのが、集落内の人の名前やおおよその年齢、家庭状況やお仕事までを、ある程度お互いに把握しているということである。早川町内では、集落を運営するため区長や水道組合などの役を各家庭が担うが、例えば黒桂集落でのお話では、今の役の担当者や次の担当者まで把握していた。
 また、近所の方を自宅に招いてお酒を飲んだり、バーベキューをしたりするというお話も伺った。千須和区の方はこうした集落での交流について「一番小さな社会的な単位が家族だったとしたら、2番目に大きくなったのが集落みたいな。」という言葉を残した。これらのことから早川町の住民も、集落という集まりをかなり身近なものとして捉えていることが読み取れる。

3-2.山村コミュニティのむらしごとについて
 山村コミュニティの形成の中で、集落内のむらしごとは大きな役割を果たしている。この段落ではむらしごとが集落内でいかに「みんなの仕事」として捉えられているかを紹介していく。早川町でのむらしごととは例えば、集落内の水道や街灯の維持修繕、草刈りなどが挙げられる。都市部ではインフラ整備などの住環境の整備は行政が行うが、早川町では集落のむらしごととして、自分たちで集落のインフラを整える。また、集落単位で行うむらしごとへの住民の参加率はかなり高い。このことについて雨畑地区では「生きるための仕事だからみんな参加する」という言葉を聞いた。つまり早川町で生きていくには、こういったむらしごとが必要不可欠であることが集落全員の共通認識として共有されていると言える。
 また、集落によって異なるが、40代~60代の比較的動ける年代の方にこのむらしごとの分担は集中している。そのため他の住民は若い人にむらしごとを任せる形になるが、任せっきりにするのではなく、野菜などの差し入れをしたりする。このように、集落内のむらしごとは若い人が勝手にしてくれるものという考え方ではなく、集落内の「みんなの仕事」なので働いてくれた分にはお礼を渡すという考え方なのである。ここから、集落内のむらしごとは集落みんなの仕事だという捉え方をされていることが伺える。
 
3-3.山村コミュニティの行事について
   こういったむらしごとだけでなく、行事も集落の人たちが集まる場としての機能を果たしている。特に黒桂集落では行事の数が他の集落よりも多く、お花見などの飲み食いを伴う集まりの場も開催されている。逆に、千須和区柿島集落では飲み食いまで伴う集まりはほとんどないとのことだったので、一概に早川町では行事が盛んであるとは言えないが、それでもむらしごとや役の集まり、行事など、人が集まる場が定期的に開催されることは、コミュニティの関係を築くうえで一定の役割を果たしていると言えるだろう。

4.考察

 3の調査結果で述べてきたように、集落内の交友関係においてむらしごとと行事は大きな役割を果たしている。しかし、都市部でも町内会での共同作業や行事などはある中で、どうして山村の方が人のつながりが深くなるのか。ここからは山村と都市部の違いに触れながら、山村のコミュニティの距離の近さについて考察していく。
 まず3-2で述べたように、山村ではむらしごとが生活に直結していることが、コミュニティの形成に大きく影響しているだろう。山村では生活インフラすら自分たちで維持していく必要があるため、むらしごとは「集落みんなの仕事である」という共通認識がある。対照的に、都市部では行政が住環境を整えるため、町内会の共同作業に参加しなくても生きていくことができる。こういったことから最近は、町内会で共同作業を行う意義が感じられず、参加しなくてもいいという意見すら出てくるのだろう。
 このように山村のむらしごとと都市部の共同作業を比較すると、両者には作業への重要度の点で共通認識の違いがあることがわかる。この共通認識の違いを表すエピソードとして紹介したいのが、3-2で述べた、早川町ではむらしごとを代わりにしてもらえばお礼を返す、という文化である。若い人がむらしごとを行い、年齢的にむらしごとを行えない人は別の形でお礼をするという関係が生まれるのは、集落の中のむらしごとは自分たちの仕事であり、それを若い人に代わりにしてもらっているという感覚があるからである。ここは都市部の考え方とは大きく異なるところと言えるだろう。こうした山村独特の考え方により、誰かがむらしごとをしてくれればお礼をするし、修繕が必要な箇所が新しく出てくれば、それもまた若い人に頼むというように、何度も頼り頼られの関係が生まれることで信頼関係が深まっていったのではないだろうか。
 また、3-3で述べた行事の面では山村と都市部では規模感がかなり違う。早川町の中で行事の多い黒桂集落では16世帯で集まり、行事や共同作業を行う。この人数で共同体を作り、運営していくことは都市部の規模ではそうそうなく、規模感の違いはかなり大きく感じる。こうして少ない人数で同じ人たちと何度も顔を合わす機会があるため、年を追うごとに関係は深くなっていくのではないだろうか。

5.まとめ

 以上のようにむらしごとと行事に着目し、山村コミュニティの距離の近さについて考察してきた。やはり山村独特の事情として、生きるためのむらしごとということと、少ない人数での集落運営が、山村コミュニティの特徴を作り出す大きな要因としてある。移住者が山村で大きな役割を果たしているように、都市部と山村の両方の視点を持って今後もコミュニティの考察を進めていくことが大事だと言えるだろう。
(担当:山口)


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