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早川町内の3集落の行事との向き合い方

1. はじめに

 山梨県早川町は人口が少ない町であり、町内には数世帯ごとで構成される集落がある。今回は、黒桂集落、雨畑地区本村集落、千須和区柿島集落にお住まいの方へのインタビューで伺った現状や事実をもとにそういった人口減少が進む集落はどのように行事と向き合っているのかについて考察する。

2. 黒桂集落

2-1.集落と行事について
 
黒桂集落は16世帯人口36人の集落である。集落内には町営住宅があるため移住者が多く住んでおり、子どもの人数もほかの集落より多い。 
 黒桂集落では、年におよそ7回の行事や活動が行われている。4月に春祭り、6月に草刈り、8月にお施餓鬼、9月に金毘羅という神社の掃除とお祭り、11月に秋祭り、1月にヤナギマキという道祖神にお飾りをするもの、3月にまた金毘羅のお寺の行事があるそうだ。この行事数は他の集落と比べても多く、行事を運営する側の人は大変だと語る。

2-2.現状
 
4月の第1日曜に行われる春祭りは黒桂集落の行事の中でも最大規模の行事である。岩殿神社でお祭りをし、その後公民館でバーベキューをする。集落内の人々はそちらを楽しみにしているらしい。先述の通り、黒桂集落には移住者が多いため、新しく越してきた移住者の、集落へなじむための場所にもなっている。
 準備は主に区長の仕事であり、以前はバーベキューの買い出しもすべて担っていたそうだが、今は会計も手伝っている。また、祭りの際のおぶく[1]作りは女性陣が担当しており、移住者の方も手伝っているそうだ。祭事には決まりごとが多く、それらを覚えたり、後に残しておいたりするために、移住者が率先して写真や動画を撮り、伝統の保存をしている。
 しかし、行事や掃除などに参加しない、できない人もいるという。特に子供のいる移住者の方は、子どもの行事とかぶることが多いらしく、参加したいが難しいということもある。

2-3.地元の方と移住者の方の行事への思い
 
集落の行事に対する思いは、地元の方と移住者の方で共通する点が多かった。「黒桂集落は昔から行事が多いため、コロナ禍で少し簡略化されたくらいがちょうどいい」、「行事によってお互い仲良くなれるきっかけとなり、円滑にコミュニケーションをとれるようになった」などが共通した意見であった。しかし、地元の方の中には、「もう少し移住者にも参加してほしい」、「草刈りやゴミ拾いなどの集落をきれいにする作業などを一人一役ずつでも移住者がきっかけで始めてくれれば、より集落内のコミュニケーションにつながっていいのではないか」などの感想もあった。

3. 雨畑地区本村集落

3-1.集落と行事について
 
雨畑地区本村集落は29世帯で人口は60人弱と、早川町内では比較的人口は多いが、その中でも80代、90代が約7割を占めるほど高齢化が進む地区である。
 本村集落では、年間10数個の行事が行われているが、そのほとんどは女性のみが参加するという。この行事というのは、大きなお祭りというよりは、神事でありお祈りをするだけというものが多くを占めている。

3-2.現状
 
中でも大きいものが春祭りと秋祭りで、春には宮司が来て秋には地元の方が宮司となってお祭りをする。数十年前までは青年や子供が神輿を担ぐなどしていたそうだが、青年も子供もほとんどいなくなったあとは、神社の境内に参拝し、合掌した後公民館に集まり、直会という宴会をしていた。しかし、コロナ禍の今はその宴会もなくなり、神事だけはきちんとし、お弁当を配り解散となってしまっている。
 本村集落には4つの組があり、その組が輪番制でお祭り当番を担う。総代は二人しかおらず、秋祭りの神主は二人で毎年どちらがやるか決めているそうだ。お祭りの準備は総代とお祭り当番が協力している。人が少ないからこその輪番制や協力体制がしっかりしていると感じた。

4. 千須和区

4-1.集落と行事について
 
千須和区には千須和集落と柿島集落があり、千須和集落には10世帯、柿島集落には5世帯9人の人々が住んでいる。今回は柿島集落にお住まいの方にお話を伺ったため、柿島集落の情報を多く教えていただいた。柿島集落の人々は付き合いが大変長く、家族のような存在となっているそうだ。
 行事は集落ごとではなく区で行っている。1月に道祖神のお祭り、8月に道づくり、お盆に川供養、秋に弁天のお祭りの年4回だ。先述の2集落より少ないことがわかる。柿島集落では、行事のほかに元旦に集落みんなで初詣に行く。これに先立ち、持ち回りで落ち葉の掃除もする。他の集落では、お祭りのあとに飲み会をするという話もあったが、柿島集落ではないそうだ。

4-2.現状
 
初詣はもともと氏子の行事だったようだが、今では集落全体での行事となっている。昔は全員が檀家であり氏子であったため今でもその名残がある。檀家でも氏子でもない方は、それに参加するのが不思議だと感じながらも参加しているようだ。
 千須和区のお祭りは区長や区長代理、組長などの役割を持つ人が運営している。運営と言っても、区長がするのは、「今年のこのお祭りはこの3軒が準備をして」というのを持ち回りでお願いをしたり、明日お祭りがあるということを放送したりすることくらいである。持ち回りの3軒は、神事で使う縄や竹の準備をすることが仕事だ。
 8月にある道づくりには、出なかった人に対する「出不足金」がある。力仕事に必要不可欠な若い人材の方は、道づくりに行くことができないときお金ではなく事前に草刈りなどをすることで出不足金の代わりにしているそうだ。高齢者が多い地域にすれば、お金をもらうよりも若い人にしかできない仕事をしてもらうほうがありがたいのだろう。

5. 考察

 以上の3集落内の行事の現状を踏まえ、人口が減少している集落がどう行事と向き合っているのかについて考察していく。
 まず、どの集落でも移住者など若い人々が役割を多く担うなどの現状から、集落の行事に若い人が大きな影響を及ぼしていると考えた。例えば、現在でも子供の人数がほか集落より多い黒桂集落では、今でも行事が盛んに行われている一方、以前若い人が多かった時には青年神輿などをしていた本村集落が、高齢化が進んだ今では行事が少なくなっている。また、柿島集落唯一の若い力として重宝されている方は、道づくりなどの活動はもちろん、街灯の電球交換などの作業も担っている。このことから、まだ若い人が多くいる集落内の行事はさらに発展する未来があるかもしれないが、そうではない集落では行事は縮小されていくのではないかと考える。
 最近は、コロナの影響でどの集落も行事を小規模にしたり簡略化したりしている。これに対してインタビューで伺った際には、悲しいと感じている人はあまりおらず、これくらいがちょうどいいと話す人が多かった。加えて、昔から毎年行ってきた氏子や檀家などの行事は、長老がまだいらっしゃるし、急にやめることはできないからという理由で今でも行っているという集落もあった。一方で、行事を楽しみにしている方がいること、行事が移住者の方が集落になじむことのできる場になっていることも現状だ。これらのことから、人口が多い集落ではまだ行事は縮小しないが、人口が減っている集落では神事など重要なお祭りなどの行事のみが残り、ほかの行事は縮小されていくのではないかと考えた。人口が減少していく中で行事も適正な規模に落ち着かせるというのは理にかなっているように感じる。

6. おわりに

 山村地域の行事には昔から伝わり、続けてきたものが多い。伝統的な祭りや神事を、人口が少なくなり高齢化も進む集落でこれからも続けていくことは容易ではなく、同時に、続けていきたいと思う人が少なくなっていることが、町内での数回にわたるインタビューから感じ取れた。ここから町内の人口や高齢化がどうなるのかはわからないが、各集落がどう行事を維持するのか、もしくは縮小させていくのか、今後も早川町内で調査してみたい。(担当:中西)



[1] 祭りの時に寺などに奉納し、そのあと各家にも配る団子のこと

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